夢中相談者と未来からのメール
■ 2018年10月6日(土)
朝4:00に目覚まし時計が鳴って目が覚めた。今日から三連休なので一泊二日でアルプスの近くにある古秀山という標高2000メートルのマイナーな山へ一泊二日で行くことになった。一泊二日といっても古秀山の山頂近くには立派な避難小屋があるのでそこでシュラフだけ持っていって宿泊することにした。今日のメンバーは彼女である笹原莉奈と石岡秀之、そしてどういうわけか女優の新垣優こと黒岩優が6日と7日の二日間がオフの日になったとのことで一緒にいくことになった。自分の部屋を出て洗面所で顔を洗った後、キッチンへ行ってトーストを焼いた。インスタントコーヒーを入れてトーストを食べながらコーヒーを飲んだ。自分の部屋に戻って登山服に着替えて荷物のチェックをした。今回はテントは不必要だが、莉奈の分のシュラフも持って行かないといけない。それに夜にはみんなですき焼きをすることになっていたので、チタンのフライパンと食料もチェックしておいた。荷物は分担して持つ予定だが、俺はガスランタンなども持っていくので70リットルの大型ザックを持っていくことにしている。
忘れ物がないかチェックをしていると5:40になったので荷物を持って家を出て車に荷物を積んで駅前ロータリーへ向かった。5:55に駅前ロータリー到着すると、既に紫色のジャケットと茶色いトレッキングズボンをはいた莉奈と、赤色のジャケットに黒色のトレッキングパンツをはいたいっしー(石岡秀之)が話しこんでいた。俺は車から降りて「おーい!」と二人を呼んだ。すると二人は車のほうへ歩いてきた。莉奈は以前、一緒に買いにいった茶色のザックを背負っている。二人は「おはようございます」と言って荷物を車に積み込もうとしたが、俺は「ちょっと待って」と言った。階段のほうからベージュのキャップをかぶってサングラスをかけて、ピンクと紺色のジャケットを着てグレーのトレッキングパンツをはいた黒岩優らしき人物が車のほうへ歩いてきた。俺は「黒岩さん、それ逆に怪しいから」と言うと黒岩優は「やっぱりそうかな!?」と言った。俺はザックから食料や莉奈のシュラフを出して、荷物の分担をすることにした。莉奈用に持ってきたシュラフは莉奈のザックの中へ入れて、食料は莉奈と黒岩優に分担して持ってもらう。いっしーには500ミリリットルの缶ビール12本を持ってもらうことにした。俺はバーナーやガスランタン、焼酎などをザックに入れている。荷物の分担が終わると四人とも車の後ろに荷物を積んで助手席にいっしーが座って、後部座席に莉奈と黒岩優が乗って車を走らせた。
車を発進させると黒岩優が「ふぅー」といってキャップをぬいでサングラスをはずした。俺は「黒岩さん、シュラフは持ってきた?」と聞いてみると「はい、持ってきました」と言った。莉奈と黒岩優が後部座席で山の話で盛り上がっていると、助手席に座っているいっしーが缶ビールを開けて飲み始めた。俺は「いっしー朝からビール飲むんかい!」とツッコミを入れるといっしーは「準備運動っすよ。登山前に飲むプロテインっす」と言った。いっしーは登山前に酒を飲むことがよくあるのだ。古秀山の登山口までは高速道路を三時間ほど走らせてインターチェンジを出てから1時間半ほどさらに山のほうに車を走らせないといけない。高速道路を二時間ほど走らせていると助手席に座っているいっしーが眠っていた。後部座席に座っていた莉奈と黒岩優も静かになったと思ったら二人とも眠っていた。俺は途中のサービスエリアで休憩をとることにした。サービスエリアに駐車していると三人とも目を覚ました。俺は「ちょっと早いけどここで何か食べておこう」と言った。予定だと古秀山の登山口に到着するのは昼頃になるので、先に何か食べておかないと昼食をとる場所がないのだ。黒岩優はキャップをかぶってサングラスをかけた。そして四人はフードコートに行って何を食べるか決めていた。俺はソースカツ丼セット、莉奈は海老天うどんとかやくご飯のセット、黒岩優はカツカレー、いっしーは天丼セットをそれぞれ注文した。フードコートにある四人掛けのテーブルの椅子に腰かけてそれぞれが注文した料理を取りにいくと、俺は「冷めるから先に食べてね」といって、莉奈と黒岩優は「お先です」と言って食べはじめた。俺といっしーも料理を取りに行ってさっさとテーブルに戻って食べはじめた。いっしーは早く食べ終えてトレーを返却口も持っていくと喫煙所へ行った。そして莉奈と黒岩優も食べ終えると無料のお茶を紙コップに入れて飲んでいた。俺も食べ終えるとお茶を紙コップに入れて飲んでいた。いっしーが喫煙所から戻ってきたので「じゃあそろそろ出発しようか」と言って四人は車に乗った。
サービスエリアから三十分ほど車を走らせると目的のインターチェンジを出た。ここから一時間半ほど国道を山のほうへ走らせた。今日は連休なので他の登山者がいないか心配だった。もし同じ避難小屋で宿泊ということになると、芸能人で女優である新垣優の正体がわかってしまうかもしれない。そんなことを考えながら車を走らせていると古秀山の登山口に到着した。登山口の駐車場には他県ナンバーの軽自動車が一台だけ駐車されていた。この軽自動車の大きさ他の登山者の人数がいるとすれば二名か三名ほどだろう。しかし早朝から登っているのであれば日帰りである可能性が高い。駐車場に車をとめると、四人は登山の準備をはじめた。俺は登山口を履いて少し重い70リットルのザックを背負った。莉奈は「ザックがちょっと重い」といいながらも背負った。俺は莉奈のザックの調整をして「これだと担ぎやすいでしょ。ザックは腰で担ぐんだよ」と言った。莉奈は「うん。肩の負担がマシになった」と言った。そして四人の準備が整って「じゃあよろしくお願いします」と言ってスタートした。
最初は遊歩道になっていてあらゆる滝の案内板があった。おそらく滝を見にくる観光者用の道になっているのだろう。沢沿いの道は木道でかなり整備されていた。一時間ほど歩いていると避難小屋があり、木道の道はここまでとなっていた。そして看板が立っていて、そこには”この先、急斜面になり岩場の登りもある中級者から上級者向けの本格的な登山道となっています。しっかりした登山装備をした上で無理のない登山計画して進んでください”と記載されていた。莉奈は「上級者向けって大丈夫?」と心配していたが、俺は「大丈夫だよ。莉奈は龍門ルートも行けたんだからこんなの心配いらないよ」と言った。避難小屋の前で十分ほど休憩して、先に進むことにした。沢筋から離れてひたすら急登の登山道が続く。スローペースで登っていきながら絶対に息を切らさないように歩いていった。急登が終わって進んでいくと落差80メートルの男滝が姿を現した。かなり迫力のある滝で水量もかなりあった。少しだけ滝を望んで登山道をひたすら登っていった。そして男滝の上部まで登ると続いて女滝と書かれた看板があった。二段の滝になっているような感じだった。そこからは巨岩群のある登山道の登りになった。その中でも迫力ある岩には名前がついているようだ。巨岩の間を抜けてさらに進んでいくと今回の難関であるエゾシカ岩の登り地点まできた。最初は木の根と岩の登りになり、さらに上部は完全に岩登りとなっている。落石の危険もあるので一人ずつ登っていくことにした。まずは先頭の俺がエゾシカ岩を登っていく。ホールドできるところがたくさんあるのですいすいと登っていった。岩場の登りになってさらに登っていくと展望の良い場所に出た。そこはまだ岩の途中なので景色を一枚スマホで撮影してさらに岩を登っていった。そして少し広くなった平坦な場所まで着くと大きな声で下に向かって「オッケー」と言って、続いて莉奈が登ってきた。もう莉奈も三点支持を意識しながら登るのも慣れているようでスイスイと登ってきた。展望の良いところで立ち止まって莉奈もスマホで景色を撮影した。そして俺のところまで登ってきた。莉奈は「オッケーです!」と下に向かって大きな声で言うと、次に黒岩優が登ってきた。高度感があって黒岩優は少し怯えているようだったが、俺は「黒岩さん、下を見ないで上だけを見て登ってきて」と言った。景色のいいところまで登ってくると黒岩優もスマホを取り出して撮影した。そして黒岩優も俺のところまで登ってきた。黒岩優は「下をみるとちょっと怖かった」と言った。俺は「いっしーオッケー」と大きな声で下に向かって言った。いっしーは慣れた手つきでスイスイと登ってきた。途中の景色も撮影せずにさっさと俺のところまで登ってきた。
ここからは展望の良い尾根道がひたすら続く。そして迫力ある標高3000メートルの独立峰である大嶽山が見えてきた。地図を確認すると古秀山の山頂までまだ2時間はかかる。時間はすでに14:30になっていた。なんとか日没までに山頂に到着できれば景色を望むことができる。そこからかなり急登になっているところを登っていく。急登は三十分ほど続いてやっとピークになっているところまで登ってきた。そのピークでは西側の展望が望めるがアルプスや大嶽山の方向ではない。俺は「この急登はかなりキツかったね」と言うといっしーは「このくらい余裕っす」と言った。しかし、莉奈と黒岩優は少し息を切らせているようだ。二人の息を整えたところで樹林帯の中に入っていき登山道を進んでいくと高原地帯に出た。古秀山の山頂まであと1.8kmと記載されていた。そして少し登り気味の高原地帯をひたすら歩いていった。一時間ほどアップダウンが続く高原地帯を歩いていくと正面にピークがあってピークには避難小屋が見えた。おそらくこれが古秀山の山頂だろう。ピークの登りのはじまりのところで山頂まで0.6kmと記載されていた。おそらく三十分ほどかかりそうだと予想しながら登っていた。急登ではないが、ひたすら登りが続いている。そして二十分ほど登っていくと避難小屋に到着した。山頂はここから数十秒のところにあるので、まずは避難小屋に入って場所を確保することにした。かなり綺麗な避難小屋になっていて毛布やマットが置かれていた。小屋は二部屋になっていて奥の部屋では大きなテーブルが設置されていた。小屋の中には誰もいなかったので、おそらく今日は四人で独占して使えようだ。荷物を降ろしてとりあえず日没までに山頂に行くことにした。避難小屋を出て数十秒ほど先にある標高1990mの古秀山の山頂の到着した。正面にはでかでかとそびえる大嶽山が望めて周囲の景色を見るとアルプス連峰が望める。この山は大嶽山やアルプスを望むための山といってもいい。莉奈と黒岩優は景色に圧倒されている。そしていっしーは缶ビールを持ちながら山頂看板を自撮りしていた。山頂看板の前で俺と莉奈のツーショットを黒岩優に撮影してもらった。続いて莉奈と黒岩優のツーショットを俺が撮影した。莉奈は大嶽山のほうを見て「あの山に登ってみたい」と言った。俺は「あそこはスキーで登るのがいいんだけど、入山規制されてるから解除されたら登ろう」と言った。黒岩優は景色をあちこち撮影していた。あれこれしていると夕日が見えた。夕日を眺めながらオレンジ色になった空と山々を見ていた。完全に日が沈んだので「そろそろ小屋に戻ろうか」と言って、四人は小屋に戻った。
小屋のテーブルにバーナーとチタンのフライパンを出してすき焼きの準備をした。莉奈と黒岩優がテーブルの向かい側に並んで座って、俺といっしーはテーブル手前に並んで座った。フライパンを温めて牛脂をひいて肉を少し焼くと具材を入れてすき焼きタレを入れた。フライパンを温めていると美味しそうな匂いがしてきた。いっしーはザックから缶ビールを取り出してそれぞれに配った。俺は卵を入れておいた容器を取り出して各自に卵を配った。そして割り箸を配ってそれぞれが持ってきたチタンの容器に生卵を入れて、缶ビールをあけて四人で乾杯した。山で食べるすき焼きはかなり美味しい。それにビールのおつまみになって最高だ。小屋の中が暗くなってきたので、俺はガスランタンを取り出してつけた。もう10月で夜になると山の上では寒いのだが、ガスランタンは暖房機部の代用にもなる。四人ですき焼きを食べているとすぐになくなって、第二度目の具材を入れた。俺は莉奈と黒岩優のほうを見て「秘境もいいけど、たまにはこういう登山もいいでしょ?」と言うと二人とも「うん!」とハキハキとした口調で言った。俺といっしーはもう缶ビールを三本も飲んでいて、すき焼きもなくなってきた。四人で適当な話をしていると莉奈が「そろそろ眠くなってきた」と言った。部屋の四隅にそれぞれマットを敷いてシュラフを出して寝る準備をした。俺はまだ眠れそうにないのでテーブルで焼酎を飲んでいた。莉奈といっしーはシュラフに入るとすぐに寝息をたてて眠ってしまったようだ。俺はちょっと外の空気を吸いたかったので外に出た。
外に出て避難小屋の前に座って星空を眺めながら焼酎を飲んでいると避難小屋のドアが開いた。すると黒岩優が出てきた。
「あれ、黒岩さんも寝たんじゃなかったの?」
「なかなか眠れなくて、ちょっと外に出て星でもみようと思いました」
「水嶋さん、なんか悩んでることあるんじゃないですか?」
「どうしてそう思うの?」
「今日、なんだか水嶋さんの表情を見てるとそんな気がしてました。楽しんでいるようで何かに悩んでるという感じです」
「そこまで深い悩みじゃないんだけど、ちょっと考え事があってね」
「それは誰にも話せないことですか?」
「話せないことじゃないんだけど、うーん、なんというか、俺、ときどき頭が真っ白になって興奮状態になることがあるんだよ」
「興奮状態ですか?それはどういう時になるのですか?」
「身の危険を感じたり、誰かを助けたいって思った時かな。そういうことをイメージして興奮状態になることはできるんだけど、その時は理性を失っててなかなか元に戻ることができないんだよ」
「つまり興奮状態で理性を失っている状態から、平常心に戻ることができないということですか?」
「そういう感じだね。意識はあるから興奮状態を抑えて理性を取り戻して平常心になることが難しいんだよ」
「なるほど。興奮状態になっている時、何かイメージすることはできますか?」
「イメージすることはできるけど、何をイメージすればいいのかもわからないんだよ」
「穏やかなイメージですね。例えば山から見える景色やさっきのすき焼きをみんなで食べてるイメージですね」
「穏やかなイメージか。なるほどね」
「わたしは女優でありながら役者でもあるので、あらゆる感情表現をするためにイメージします。泣いたり、笑ったり、落ち込んだり、そういう感情になりきれるように練習してきましたので、水嶋さんも同じようにすれば興奮状態を抑えれるかもしれませんね」
「そっか、黒岩さんは女優だからあらゆることをイメージしてその役者の感情になりきれるわけなんだ」
「水嶋さん、今でも興奮状態になれますか?」
「なれるよ」
「じゃあ、興奮状態になって、わたしの言う通りにしてみてください」
俺は黒岩優の前でトランセンドレッド状態になった。おそらく黒岩優には赤く輝いて見えていないだろう。ただ無感情で理性もなくただ興奮状態になっている。黒岩優は「水嶋さんの目つきがかわりました。それが興奮状態のようですね。では、今日見た山の風景をイメージしてください」と言った。俺は今日見た山の風景をイメージしてみた。しかしなかなか興奮状態が抑えられない。目を閉じてイメージしてみたがかなり興奮している。すると黒岩優が「水嶋さん、イメージするだけではなく、山の風景を見ている自分になりきってください」と言った。山の風景を見ている自分になりきる。俺は今山の風景を見て穏やかな気分になっている。イメージしながらそういう自分になりきるようにしてみた。すると興奮状態が抑えられて理性が戻った。
「水嶋さんの目つきが元に戻りましたね。どうでしたか?」
「うん。さすが女優さんだね。そういう自分になりきったら興奮を抑えることができて理性が戻ったよ。ただ、これも訓練しないといけないんだけどね」
「わたしでよければ、その役者になりきるコツであれば教えますよ」
「黒岩さん、ありがとう。俺、何をどう意識して興奮状態を抑えればいいかわからなかったんだけど、これで何を訓練すればいいかわかったよ」
「それなら良かったです。でも興奮状態になった水嶋さんってちょっと怖い感じがしました。攻撃的になっているみたいでした」
「興奮状態になると敵とみなした人を攻撃してしまうんだけど歯止めがきかなくなるんだよ。黒岩さん、今後、あらゆることがあるかもしれないけど、その役者になりきるコツをこれからも教えてもらっていいかな?」
「はい!わたしでよければ、いくらでも教えますよ」
「ありがとう」
「では、わたしはそろそろ寝ますね。水嶋さん、おやすみなさい」
「黒岩さん、今日は本当にありがとうね。おやすみなさい」
そして黒岩優は避難小屋に入っていった。新垣優、つまり黒岩優の演技力や役者になりきる技術は俺にとってかなり必要である。今後も黒岩優にはこういった役者になりきるコツを教えてもらいたい。トランセンドレッド状態だけではなく、タイムリープやこの先に起こる現象でもこの役者になりきる演技力が必要になるだろう。2033年から送られてきたメールには黒岩優は俺にとって重要な人物となると書いてあったが、それが今はわかるような気がする。黒岩優はかなり重要な人物になりそうだ。しばらく焼酎を飲んでいて眠くなったので俺も避難小屋に入ってシュラフに入って眠った。
■ 2018年10月7日(日)
朝5:00過ぎにみんな目を覚ました。さすがに寒さで目がさめたのだろう。俺はバーナーでお湯をわかして四つの紙コップにインスタントコーヒーを入れた。朝食に買っておいたパンを莉奈にも手渡して、コーヒーを飲みながらパンを食べた。そして、シュラフやマットを片付けて忘れ物がないかチェックをすると避難小屋を出て下山することにした。歩いてきた高原地帯を戻っていき、分岐を北側に曲がってつづら折れの登山道をひたすら下っていった。昨日と違って全く面白くない樹林帯の中を下っていく。さすがにみんな疲れているのか、沈黙しながら下っていった。そして一時間半ほど下っていくと林道に出た。そこで休憩をしながら「さすがに疲れたね」という声が聞こえた。そして林道を西へ四キロメートルほど歩いていくと古秀山の登山口に到着して駐車場に戻った。荷物を積み込んで助手席にいっしーが乗って、後部座席に莉奈と黒岩優が乗って車を走らせた。
帰りの車内では他の三人とも眠っていた。さすがに避難小屋といっても寝不足だったんだろう。俺は自分の好きな音楽を流しながら運転していた。高速道路を走らせていて途中、トイレ休憩のためにパーキングエリアに立ち寄った。いっしーは喫煙所で煙草を吸いに行って再び車に戻ってきた。そのまま再び車を走らせると、再び三人は眠りについた。そして駅前ロータリーまで戻ってきた。黒岩優はサングラスをつけてキャップをかぶって車を降りた。莉奈といっしーも車から降りて荷物を降ろして「お疲れ様でした」といって解散となった。今回は秘境でもない少しマイナーな山で一泊二日を過ごしたのだが、これも一つの経験になるだろう。そう思いながら俺は自宅に戻った。
自宅に戻ると登山道具を片付けてシャワーを浴びた。夕食までまだ時間があったので、部屋に戻ってパソコンの電源を入れて古秀山で撮影した写真を整理していた。ブログ記事は明日投稿しようかと思った。そして俺はトランセンドレッド状態になってみた。黒岩優にアドバイスしてもらったように、山の風景をイメージしながらその時の自分になりきるようにした。なかなか興奮状態が抑えられないので、もっと強くイメージして今まさに自分はその山の風景を見ているんだというなりきった。すると興奮がおさまって理性が戻った。今までに比べたら理性を取り戻せる時間が早くなっていた。もう少し黒岩優に自分になりきるコツを聞いて訓練すれば、自由自在にトランセンドレッド状態をコントロールできるようになるだろう。それまであと一歩のところまできているような気がした。
■ 2018年10月9日(火)
目が覚めると真っ白な広い空間にいた。この空間はまた前の夢中会議室だが、今は何の現象も起こっていない。向かい側に水色のパジャマを着た西浦真美、左隣にはピンク色のパジャマを着た莉奈がそれぞれ座りながら眠っていた。俺はすぐに二人を起こした。莉奈は「またこの空間だ」と言い、西浦真美は「またどうしてここにいるの?」と言った。三人ともどうしてこの空間にいるのかわからない。以前は光色感情受信現象で話し合いが行われたのだが、今回は話し合うことは何もない。日常会話でもしろっていうんだろうか。すると西浦真美の隣の席に薄っすらと人の姿が現れた。それは紺色のパジャマを着た小松結衣だった。俺は「小松さん?」と声をかけてみたが無反応だった。そもそも俺達と違って小松結衣の姿は薄くて透けて見えている。何かの映像がここに映し出されてるような感じだ。莉奈が「この人は知り合いなの?」と聞いてきたので俺は「会社の人だよ」と答えた。西浦真美も「小松さん?」と声をかけるが無反応だ。すると小松結衣が話しはじめた。
「相談があります。わたし、池上さんと上手くやっていけるか心配です。池上さんはわたしのことをどう思っているのでしょうか。もしかして同じデザイナーとして嫌がられているのでしょうか。池上さんとは仲良くお仕事していきたいです」
そう話し終わると小松結衣の姿がどんどん消えていった。そして完全に姿が消えて空席となった。俺と莉奈と西浦真美は何がなんだかさっぱりわからなかったが、どうやら小松結衣には悩みがあるようだ。そもそもこの空間は特殊能力者専用の夢中会議室だったのではないのか。
西浦真美「小松さんの相談だけど、これは解決するべきなんでしょうね」
水嶋祐樹「そういうことになると思うんだけど、そもそも小松さんは明日、この夢のことを覚えているのかどうかわからないね」
笹原莉奈「あの女の人の姿ってなんか薄くて透けていたね」
水嶋祐樹「プロジェクターで映し出されたみたいな姿だったね。とにかく明日、小松さんにそれとなく聞いてみるしかないね」
西浦真美「小松さん、池上さんのことすごく気にしてるんじゃないかしら?」
水嶋祐樹「うん。もし小松さんがこの夢のことを覚えてなかったとしても心の中で思っていることを話したんだと思う」
笹原莉奈「あの女の人、わたし達の姿に気づいてなかった感じする。目が動いてなかったもん」
水嶋祐樹「とにかく明日、小松さんに確認してみるよ。場合によっては昼食に誘ってみよう」
西浦真美「そうね。池上さんも昼食に誘ってみるのもいいかもね」
水嶋祐樹「とりあえず今はなにがなんだかわからないから明日だね。とりあえず眠ろうか」
西浦真美「そうね。じゃあおやすみ」
笹原莉奈「うん。おやすみ」
朝8:00に目覚まし時計が鳴って目が覚めた。カーテンを開けて窓の外をみると秋晴れの快晴だった。洗面所で顔を洗った後、キッチンへ行って朝食をとる。そして自分の部屋に戻って着替えて出勤の準備をする。これはいつも通りのことだ。
秋晴れの中、駅まで歩いていったが、すっかり気温も落ち着いて外の空気を吸っていても気持ちがいい。すがすがしい朝のように思えた。駅についていつもの時間の電車に乗った。電車の中で今日見た夢のことについていろいろ考えてみたが、全くわからないことだらけだった。あの空間は特殊能力者専用の会議室ではないのだろうか。今回はまるで誰かの相談室のようになっていた。本来ならあの空間で話をすればよかったのかもしれないが、莉奈の言った通り小松結衣は俺達の存在に気づいていないようだった。あれこれ考えていると気づいたら会社の最寄り駅に到着した。
10:00前に出勤して、連休明けなので朝礼があることに気がついた。すぐに席を立って前のほうへ行って社長が出てくるのを待っていた。社長が出てきてフロアの真ん中に立って長い話をはじめた。俺はいつも思っているのだが、社長の話をまともに聞いている社員っているんだろうか。別に大した話をしてるようにも思えないし、俺にとってはどうでもいいことなのだ。社長の話が終わると西浦真美が「では今週もみなさんがんばりましょう」と言って朝礼が終わった。
俺は自分の席に座ってパソコンの電源を入れると、向かいの席に座っている小松結衣の顔を見た。そして「小松さん、今日、変な夢でも見たの?」と聞いてみた。小松結衣は「変な夢ですか?別に見ていませんが・・・」と不思議そうな表情をしながら答えた。俺は「小松さん、なんか朝から難しい顔してるみたいだったから」と適当な理由を言った。小松結衣は「そんな顔してましたか!?」と言った。俺は「まあそれならいいんだけどね」と話を終わらせた。どうやら小松結衣はあの空間で話したことを何も覚えていないようだ。しかし、そうなってくるとあの相談とは一体どういうことなんだろうか。小松結衣の心の中にある相談事なんだろうか。俺は西浦真美に”今日の昼食は池上さんと小松さんを誘うよ。西浦さんも来てね!”とメッセージを送った。するとすぐに西浦真美から”わかったわ!”とメッセージが返ってきた。俺はすぐにメッセンジャーを使って池上有希と小松結衣を昼食に誘ってみた。二人ともオッケーだと返事がきた。
昼休みになって池上有希と小松結衣の三人でエレベーター前に行くと西浦真美が待っていた。そして四人で会社近くにあるファミリーレストランに入った。俺は西浦真美の隣に座って向かい側の席に池上有希と小松結衣の二人が座っている。俺はハンバーグランチで、西浦真美はパスタ、池上有希は半熟卵のドリア、小松結衣はエビドリアを注文した。池上有希と小松結衣はどうして昼食に誘われたのか不思議そうな表情をしている。とりあえず注文したランチが運ばれてきたので黙って食べていた。ランチを食べ終えると四人でドリンクバーで飲み物をとってきてそれぞれの席に座った。問題はここからだ。俺が話を切り出した。
「小松さんがデザイナーとしてうちの部に来て一ヶ月くらいになるけど、池上さんから見て小松さんってどういう感じ?」
少し直球すぎる質問だっただろうか。すると池上有希が「小松さんとわたしはそれぞれ得意分野が違うデザインをするので、お互いに尊重して一緒に仕事ができればいいと思っています」と言った。小松結衣は少し動揺している感じで「池上さん、あの、わたし、足手まといになってませんか?」と言った。池上有希は「足手まといなんてとんでもない。小松さんは頑張ってWEBデザインのこと覚えてくれてると思っていますよ。もうCSSのこともわかってきてますし、これからいろいろ助けてもらうことになると思います」と言った。俺は小松結衣に「小松さん、なんか池上さんに気をつかったりしてるの?」と聞いてみた。すると小松結衣は「わたしなんかが役に立ってるのかなって思ってまして・・・池上さんの負担になってないかなって・・・」と自信なさげに言った。それを聞いた池上有希は「そんなことないです!小松さんは役に立ってますよ。まだわからないことはあると思いますけど、小松さんはこれからだと思っています」と少し大きな声で言った。小松結衣は「池上さん、そう言ってくれてありがとうございます。わたし、もっとWEBデザインのことをがんばって覚えますので、これからも一緒にお仕事してくれますか?」と言った。池上有希は「こちらこそです。小松さん、仲良くやっていきましょう」と言った。小松結衣はホッとした表情をして「はい!」と答えた。黙っていた西浦真美が「小松さんはもう少し自分に自信を持ったほうがいいわね」と言った。それを聞いた池上有希が「それはわたしも思います。小松さん、もっと自分に自信を持ってください!」と言った。小松結衣は「そうですね。はい、もう少し自信を持ちます!」と元気よく答えた。おそらく小松結衣の自信のなさが悩みとなった。そして池上有希に気をつかっていたのだろう。今回はこの二人を昼食に誘ってよかったと思った。お互いに話をすれば解決する問題だったのだ。
ファミリーレストランを出て会社に戻る時に西浦真美が耳元で「解決できたみたいでよかったわね」と囁いた。それはよかったのだが、あの夢中会議室に現れた意味がわからない。これからもあらゆる人の相談をあの夢中会議室で聞かないといけないのかもしれない。俺はそんな予感をしながらこの日を過ごしていた。
■ 2018年10月11日(木)
目が覚めると真っ白な広い空間にいた。また前の夢中会議室だ。昨日はこんな夢をみなかったが今日はまた見ている。いつものように向かい側に水色のパジャマを着た西浦真美、左隣にはピンク色のパジャマを着た莉奈がそれぞれ座りながら眠っていた。俺はすぐに二人を起こした。俺は「またこの会議室だよ」と言った。莉奈は「最近、ここにくること多いね」と言い、西浦真美は「今回は何なのかしら?」と言いながら辺りを見回した。しばらくすると西浦真美の隣の席に薄っすらと人の姿が現れた。それは白いTシャツに黒いジャージのズボンをはいた児島信二の姿だった。前回の小松結衣と同様に児島信二の姿は薄くて透けて見えている。俺は「児島君?」と話しかけてみるが無反応だった。莉奈は「この男の人も会社の人?」と聞いてきたので俺は「そうだよ。俺の隣の席の児島君」と言った。誰が話しかけても無反応。前に莉奈が言った通り、児島信二の目は俺達のほうを見ていない。そして児島信二が話しはじめた。
「相談があります。僕は最近、ずっと山内さんと一緒に帰宅しています。でも山内さんとの関係は進展しません。山内さんは僕のことをどう思っているんでしょうか。勇気を出して山内さんをデートに誘うべきなんでしょうか。山内さんのことが好きでたまりません」
そう話し終わると児島信二の姿がどんどん消えていった。そして完全に姿が消えて空席となった。これは前と同じ現象が起こっているようだ。この夢中会議室はもはや相談室と化している。しかし、今回の相談は少々厄介な問題だ。いくら児島信二が山内美沙のことが好きでも、肝心の山内美沙の気持ちがある。山内美沙は失恋したのだが、その後の恋愛事情についてはよくわからない。
水嶋祐樹「これは困ったね相談だねえ」
笹原莉奈「あの児島って人、すっごく山内って人のこと好きみたいだね」
西浦真美「山内さん、あの一件以来、夜一人で歩くのを怯えているみたいだから、児島君と一緒に帰ってるのね」
水嶋祐樹「児島君は恋愛に関して奥手なんだよね。でも、ずっと一緒に帰ってるならそろそろ誘ってもいいんじゃないかな」
笹原莉奈「その山内さんって人、他に好きな人がいるの?」
水嶋祐樹「好きだった人はいたんだけど、その好きだった人は別に彼女ができたんだよ」
笹原莉奈「失恋しちゃったんだ。でも女の人ってそういう時は淋しいと思うから、誘ってみてもいいと思う」
西浦真美「山内さんが失恋してからまだ一ヶ月も経ってないから微妙なところよね」
水嶋祐樹「今の山内さんの恋愛事情がよくわからないんだよね。まだ大里さんに未練があるかもしれないし」
笹原莉奈「でも、あの児島って人が山内さんを積極的に誘って振り向かせるのはダメなの?」
水嶋祐樹「誘うのはいいんだけど、児島君はちょっと順序が飛びすぎなんだよね。いきなり遊園地に誘おうとしてたし」
西浦真美「そうね。まず、夕食に誘ってみることからはじめてみるとかならいいのかもね」
水嶋祐樹「たしかにいつも一緒に帰ってるなら、一度夕食に誘ってみればってアドバイスしてみようか」
笹原莉奈「夕食に誘うのはいいと思うけど、誘うお店にもよるんじゃないかな?」
西浦真美「山内さんは海が見たいって言ってたから、海の見えるレストランなんかいいんじゃないかしら」
水嶋祐樹「海の見えるレストランか・・・ただ、会社から港までは歩くとかなりの距離があるからね」
西浦真美「海が見えればいいから高層ビルのレストランならいいんじゃない?駅前にあるホテルの最上階にレストランとかね」
水嶋祐樹「じゃあ、明日、児島君にうまくアドバイスしておくよ」
笹原莉奈「あの児島って人、応援してあげたいな。祐樹君、協力してあげてね」
水嶋祐樹「うん。俺も児島君のこと応援してあげたいから、協力はするよ」
西浦真美「じゃあ今回のことは水嶋君に任せるわ」
水嶋祐樹「うん。それじゃあそろそろ眠ろうか」
笹原莉奈「眠ろう!わたし、もう眠くなってきちゃった」
西浦真美「そうね。眠くなってきたわね」
水嶋祐樹「じゃあおやすみ」
笹原莉奈「おやすみなさい」
西浦真美「おやすみなさい」
朝8:00に目覚まし時計が鳴って目が覚めた。カーテンを開けて窓の外をみると晴れ時々曇りといった感じだった。いつものように洗面所で顔を洗った後、キッチンへ行って朝食をとる。そして自分の部屋に戻って着替えて出勤の準備をする。
家の外に出て駅に向かって歩きながらあちらこちらを見ていると、今日は空気が澄んでいるようだ。これだと夜の景色も綺麗に見えると思う。児島信二が夕食に誘うなら今日がいいと思うが、山内美沙に今夜予定が入ってないかが問題だ。あれこれ考えながら駅に着いた。いつもの時間の電車に乗って、スマホで会社近くのホテルのレストランの情報を見ていた。少し値段が高いレストランだが、この際仕方ないだろう。このレストランなら窓側の席を予約すれば海も見える。あとは児島信二がどうやって山内美沙を誘うかだ。児島信二はなにやら告白でもするのかのように構えて誘う感じなので、そこをさりげなく誘うようにしないといけない。とりあえずメッセンジャーでさりげなく誘うようにアドバイスしないといけない。そんなことを考えていると会社の最寄り駅に到着した。
10:00前に出勤して俺は自分の席に座ってパソコンの電源を入れた。そこに「おはようございます」と言って児島信二が出勤してきた。ここは児島信二とメッセンジャーで話すことにするか。俺は「児島君、昨日なんか変な夢でも見た?」と聞いてみた。児島信二は「別に変な夢なんてみていませんよ」と答えた。俺は「そうか。なんか今朝は児島君、なんか思い詰めた感じに見えたから」とうまく誤魔化すように言った。児島信二は「僕、そんな感じに見えました?」と言ったので俺は「まあ何もないならいいんだけどね」と言っておいた。そして俺は児島信二にメッセンジャーで”ところで最近、ずっと山内さんと一緒に帰ってるみたいだけど、その後どんな感じ?”とメッセージを送った。すると児島信二から”特にこれといったことはありません。ただ、普通に話してるくらいですね”とメッセージが返ってきた。俺は児島信二に”そろそろ夕食でも誘ってみたらどうかな?”とメッセージを送った。児島信二は”誘いたいですけど断られたら怖いです”とメッセージが返ってきた。俺は少し考えた。児島信二は誘って断られると怖いと言ってるが、本心は誘いたくて関係を進展させたいはず。断られても傷つかないような誘い方をすればいいのだ。そう思った俺は児島信二に”さりげなくメッセンジャーで誘ってみればいいと思うよ。今日、帰りに夕食でも一緒にどう?って誘ってみれば?”とメッセージを送った。児島信二から”メッセンジャーで誘うのですか?でも夕食ってどこに誘えばいいかわかりません”とメッセージが返ってきた。俺は”駅前のホテルの最上階にレストランがあって、あそこの窓側からだと海が見えるからいいんじゃないかな?山内さんは海が見るのが好きって言ってたからね”と児島信二にメッセージを送った。児島信二は少し考え込んでいるようだった。そして”頑張って誘ってみます!”と児島信二からメッセージが返ってきた。俺は児島信二に”頑張らなくていいから、あくまでさりげなく今日の帰りに一緒に夕食でもどう?みたいな感じで軽くメッセンジャーで誘えばいいんだよ”とメッセージを送った。児島信二から”さりげなくですね。わかりました。メッセンジャーで誘ってみます”とメッセージが返ってきた。しばらくすると児島信二から”今日の帰り、山内さんと一緒に夕食に行くことになりました!”とメッセージが送られてきた。俺は電車の中で調べていたレストランの情報を児島信二に送った。そして児島信二に”ちょっと値段は高いけど、ここのレストランで窓側の席を予約しておいたほうがいいよ”とメッセージを送った。すると児島信二から”わかりました!”とメッセージが返ってきた。これで児島信二と山内美沙の関係は一歩前進するだろう。ホッとしたところでこのことを西浦真美に”休憩室にきて”とメッセージを送っておいて休憩室に行った。
休憩室に入って待っていると西浦真美が入ってきた。俺は今夜、児島信二と山内美沙が駅前のホテルの最上階にあるレストランで一緒に夕食に行くことになったと話した。それを聞いた西浦真美もホッとしたようだ。
「でも、これからあの夢中会議室に相談者がどんどんくるのかしら?たくさん来られるとわたし達も限界があるわ」
「まあときどき来るかもしれないけど、毎日ではないんじゃないかな」
「それだったらいいんだけどね。あの夢中会議室って相談室にもなってるのね」
「俺達はまだあの夢中会議室の意味がわかってないのかもね。とりあえず、今夜、児島君がうまくやってくれるといいんだけどね」
「いつも一緒に帰ってる仲になってるから大丈夫なんじゃない?」
「それもそうだね」
そう言ってると珍しくアプリケーション事業部の大里哲也が休憩室に入ってきた。そして大里哲也が「あっ西浦さん、水嶋さん、お疲れ様です」と言った。俺は「お疲れ様です。その後、宮ノ下さんの様子はどう?」と聞いてみた。すると大里哲也は「宮ノ下さん、まるで人が変わったかのように頑張っていますよ。自分はまだまだ技術レベルが低いから基本からやり直すって言ってます」と言った。俺は「それはある意味よかったね」と言っておいた。大里哲也は自動販売機で缶コーヒーを購入して「では失礼します」と言って休憩室を出た。宮ノ下和宏は先日のサーバー構築自動化のインストーラーの開発をして次なるステップを見つけたんだろう。しばらくすると西浦真美が「じゃあわたしはそろそろ戻るわね」と言った。俺も「じゃあまたね」と言って二人で休憩室を出た。
この日はその後平和な一日になった。今晩、児島信二と山内美沙が一緒に夕食にいってどうなるのか後をつけてみてみたいが、いつも一緒に帰っている仲になっているので心配はいらないだろう。明日、確認すればいいかと思った。その夜、一応、莉奈にも電話をして児島信二と山内美沙が一緒に夕食するになったと伝えておいた。莉奈は「よかったね」と言っていた。
■ 2018年10月12日(金)
朝8:00に目覚まし時計が鳴って目が覚めた。カーテンを開けて窓の外を見てみるとどんよりした曇り空だった。昨日の夜、児島信二と山内美沙はどんな感じだったのかそれだけが気になっていた。
いつものように10:00前に会社に出勤して自分の席に座るとすぐにパソコンの電源を入れた。すると児島信二が「おはようございます」と言ってニヤニヤしながら出勤してきた。この表情からして何かいいことでもあったんだろう。俺は早速メッセンジャーで昨日の出来事について児島信二に聞いてみることにした。すると児島信二から”昨日は山内さんにとても喜んでもらえたので良かったです。それに来週の週末、一緒に遊園地に行くことになりました”とメッセージが返ってきた。いきなり遊園地に誘ったのかわからなかったが、話の流れでそうなったのだろう。これで児島信二と山内美沙の距離は縮まったといえる。俺は児島信二に”それはよかったね!でも焦って告白しないようにね”とメッセージを送っておいた。児島信二から”わかりました”とメッセージが返ってきた。山内美沙はもう大里哲也に未練がなくなってきているのか、児島信二に忘れさせてもらおうと思っているのか、どちらかわからないが二人の関係はいい方向に進んでいるのは間違いないだろう。
この日も平和な一日になったといえるだろう。特に不思議な現象も起こらなかった。勤務時間終了の19:00になって俺はさっさと退社した。
自宅に帰って夕食を終えてシャワーを浴びた後、自分の部屋に入ってトランセンドレッドの訓練をした。黒岩優のアドバイス通りにやっているとだんだんコントロールできるようになってきた。まだ、自由自在にコントロールできるわけではないが、あともう少しだろう。そして、パソコンの電源を入れてメールを確認した。DMやニュースメールが何通か届いていたが、その中に「2018年10月の俺へ」という件名のメールが届いていた。久しぶりに2033年から送られてきたメールだ。俺はすぐにそのメールの内容を確認した。
”
2018年10月の俺へ
2033年の水嶋祐樹だ。
そろそろそっちの俺は特殊能力者のことを理解できてきたと思う。
このメールのことも信じてくれているだろう。
最初に重要なことを伝えておく。
まず、そのうちあらゆる特殊能力を自由に使えるようになる。
ただし特殊能力を使うとエネルギーを消費が激しいので注意。
特殊能力は使いすぎないようにしてほしい。
それともう一つは別の世界線のある人物が困っている。
近々この世界線にその人物がやってくるので助けてあげてほしい。
さて、これから起こることを伝えておくが、重要なポイントだけだ。
1.新しい社員が入社する
→西浦真美と深い関係になる
2.黒岩優に特殊能力者であると気づかれる
→黒岩優に気づかれても問題はない。逆に協力してもらえるので心配無用
3.笹原莉奈と婚約成立
→両親顔合わせをした後、同棲生活がはじまる予定
まだ警告すべき理由を伝える時期ではない。
またメールを送る。
前回同様にこのメールのことに関しては他言無用。
”
俺はこのメールを読んで全く意味がわからなかった。これから起こることについて、いつもなら10月に起こることなどと期間が書いてあったのだが、今回は書いていないのだ。それにあらゆる特殊能力が自由に使えるようになるとは、人格入れ替わりや予知夢などを自由にできるようになるということなんだろうか。また、別の世界線のある人物とは誰なんだろうか。わからないことだらけだ。とにかくその時期にならないとわからないのだろう。




