9弾:スーツ
「こっこれは!!」
扉が開いたロッカーの中にはライダースーツに似た漆黒のスーツに木のくつとは比べ物にならないしっかりとしたブーツが一足。
「(このパワードスーツは最新モデルであり、生身のマスターでもこれを着用すれば、身体能力を飛躍的に上昇させ、私の支援を60%まで受ける事が可能になります)」
前世の記憶が戻って、ファンタジー世界に転生したとばかりに思っていたのに実はSF世界だったとは意表を突かれた。
「リーン、これマジですげぇよ!」
正直、この世界の村人の服には嫌気が刺していた俺には願ってもないサプライズだ。
ただ、問題なのはこのパワードスーツを着て、村に戻った日には村中大騒ぎになること必至だろう。
そうなるとこの施設の事も話さないといけなくなるだろうし、容易に着て帰ることは出来ない。
「(マスター、試着してみてください)」
とにかく、今は考えることは後にして着てみる。
スーツを手に取り、前に付いているファスナーを下ろす。この辺りは特にテクノロジーを感じない。
足を通してスーツ引き揚げ、続いて腕を通していく。
まだ、15歳の俺にはサイズが大きく、足の部分はダブつき、腕は萌え袖状態。
馬子にも衣装にも届かないようなみっともない着こなしだ。
これでは戦えないのではとファスナーを引き揚げつつ、顔が引き吊ってくる。
「(マスター、袖の部分は手がまで出るようにしっかりと通してください)」
とりあえず、袖から手を出してみるが腕にダブつくスーツが気になる。
「(通しましたね。では首元にあるボタンを押してください)」
ボタンなどあったかと首元を手で探ると指先にポッチのようなものが当たる。試しに押してみるとだぼだぼだったスーツは空気が抜かれたように収縮し、俺の身体にフィットした。
「おおっ!」
ある有名な映画で登場した自動でサイズを調整してくれるハイテクなスニーカーを思い出した。
「(マスター、着心地はどうですか?)」
パワードスーツは完全に身体へとフィットしており、関節を曲げても何も抵抗を感じない。
「まるで何も着てないみたいだ!リーン」
「(問題ないみたいで良かったです。マスター、手袋とブーツも履いてみてください)」
ロッカーから手袋とブーツを取り出すとブーツに足を突っ込む。案の定、ブーツもブカブカで録にサイズがあっていなかったが俺も馬鹿ではない。当然、学習するのである。
ブーツの側面、ちょうど足首の辺りにあるポッチを押す。ブーツは無音で収縮を始めてジャストフィットする。
内心では『バック・トゥ・ザ・~~~~』キタァー!!状態だ。
「(マスター、収縮機能を覚えたことは褒めてあげますがまだまだですね。ブーツをよく観てください)」
「な、何だと?!」
俺はまだ機能を理解しきれていない事実とちょっと生意気な態度をリーンに叩きつけられた。
「(ふっふっふ、わかりましたか?マスター)」
「こ、これはまさか?!スーツとブーツが一体化したというのか?!」
「(そうです、このパワードスーツとブーツはセットでひとつなのです)」
一体化して、繋ぎ目が判らなくなったのは凄いが今はそれよりも気になる事が出来てしまった。
「リーン、急にお前少し生意気になったんじゃないか?」
さっきまで無表情で受け答えしていたリーンはすでにいない。俺の前にいるリーンは不敵な笑顔で自信満々に言い放つ。
「(学習型AIの私はマスターの影響を受けて成長するのです。つまりはマスター好みに仕上げることも出来るのです)」
ポッと頬を赤く染めるリーンがクネクネとしなをつくり、視界を泳ぐ。
こんな短時間でこの変わり様にはちょっと、引くものがある。
「(さて、マスター。手袋も装着したら実際に身体を動かして、スーツの性能を実感してください)」
さっきまでのクネクネが嘘のようにキリッとしたリーンに呆気にとられながらも俺はスーツの性能を確認するのであった。




