表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
アデル★リボン ~万能でサイコパスの魔法少女が、人々の心を救済していく感動物語~  作者: タキ・エーイチ
第8章 自分の弟に似た男装の幼女が、無残な灰燼と化すまでのお話
83/97

第4話 厄介事

「マグから聞いていたけど、本当にこの町に住んでいるみたいね、あなた達」


 アデルは、銀髪の少女アルジーナと黒髪の青年ジローの二人組に、嫌そうに振り返った。


「ご無沙汰しています、アデル殿」


 礼儀正しく頭を下げて挨拶したのは、ジロー。アデルは、「ええ、久しぶりね、ジロー」と返す。


それに対して、鋭い眼光を向けて来たのは、アルジーナ。


「『赤リボンのアデル』……、禍々しい魔力を感じると思ったが、やはり貴様がいたか。貴様、そんな小さな子に一体何をしている?」


 アルジーナは、アデルの傍らに佇むコルを指差して、不審がる視線を送る。恐ろしき魔女が、小さな子どもに対して、何か良からぬことをしていると疑っているようだった。


「あなたには関係ないでしょ、犬女」

「っ!? だから、その犬女と呼ぶのを止めろ!」


 アルジーナは、不愉快なあだ名で呼ばれると、眉を吊り上げて、アデルの方へと大袈裟に靴音を鳴らしながら近寄る。ジローは、「落ち着かないか」と困り気味にアルジーナの肩を掴んで宥めようとするも、アルジーナは、それを振り払って、アデルの目と鼻の先まで迫った。


 アデルの目の前まで迫ったアルジーナは、銀色の瞳に憎悪を込めて睨む。


「何? いちいち突っかかってこないでくれる?」

「なら、そのふざけた呼び方を止めろ!」

「あなたが私の前に現れなければ、私があなたの名前を口にすることはない。つまり、私の前に現れたあなたが悪い」

「私の名前は、アルジーナだ! 犬女ではない! それに、私だって好きで貴様の前に現れているのではない。悪いと言うのであれば、貴様のような邪悪な魔女が存在していることが悪いのだ」

「は? 未だに馬鹿な聖騎士だった頃の思想が抜けきっていないのかしら? 元聖騎士の犬女」

「だから、犬女は止めろ!」


 アデルは、腕を組んで、迫り来たアルジーナを見下ろすように睨み返す。アルジーナは、今にも腰に下げている剣を抜いてきそうな雰囲気だったが、彼女にはアデルを殺傷出来ないようにする呪術が掛けられている。したがって、アデルは、余裕を持ってアルジーナを見下ろしていた。


 アルジーナは、呪術の所為でこの憎たらしい魔女に手を出せない事に歯ぎしりする。彼女は、ただ睨み付ける事しか出来ない。肩を震わせて、憎悪を燃やした瞳をアデルに向ける事しか出来ない。


 アデルとアルジーナは、互いに睨み合う。無言で視線を交わし合う。お互い嫌いな者同士、無視して別れれば良いものの、二人はそうする宿命を負っているかのように、睨み合っていた。ジローは、そんな張り詰めた様子の二人の間に入っていけずに、困った顔をしていた。


「お姉さん達、アデルのお友達?」


 その二人の間に、無邪気な声が割って入る。アデルの後ろに隠れていた、コルの声だ。コルの声に、睨み合いを続けていた二人の緊張が僅かに解ける。


「お友達? まさか。この魔女とは……」


 アルジーナは、コルの方を向いて答えようとしたその時、彼女の顔を確認して一瞬固まった。


 コルのその顔が、『赤リボンのアデル』の顔と似ていた。しかも、ただ顔が似ているだけではない。魔力反応に敏感な半霊のアルジーナには、コルが纏っている独特な魔力を感じ取る事が出来た。


「この子は、一体……」


 アルジーナは、まじまじとコルを見つめた。


「アデル殿に物凄く似ているな」


 気になったジローも、アルジーナの後ろからコルの顔を確認する。彼の目からして見ても、コルの顔について思う事は、一緒であった。


「その子は、アデル殿の弟さんですか?」


 ジローはアデルに質問し、アデルは首を横に振る。


「いえ。この子は、女の子よ」

「あっ……、それは失礼しました。少し、男の子にも見えたもので。では、妹さんですか?」

「いえ。それも違うわね」

「……え。……では、ご息女……」

「子どもを産んだ覚えはないわ」


 アデルは、素早く否定した。


「私も、この子が何なのか分からないのよ。今日偶然に出会ったの。で、問題なのが、この子自身も記憶が無くて、自分が誰なのか分かっていないみたいなの。取り合えず、私が暫く面倒を見る事にしたんだけどね」


 アデルの説明の最中も、アルジーナは、コルをじっと観察していた。銀色の瞳が、静かにコルを見据える。コルは見つめられ過ぎて、何だか居心地悪そうであった。


「この子から、特殊な魔力を感じる」


 と、アルジーナは、呟いて、アデルに振り返った。


「おそらく、この子の体は、普通ではない。何か、特殊な魔術が施されている。貴様、この子に何かしたか?」


 疑いの目を向けられて、アデルは、不快げに返す。


「私は、何もしていないわ。私が、この子が一体何なのか知りたいくらいよ。逆に訊くけど、あなたが言う、この子に施されている魔術って何?」

「それは、詳しく調べないと分からない。だが、私が聖騎士だった頃に任務で関わった魔法使いの中には、自分自身の身体に魔術的な細工を施している者もいて、この子には、そういった魔法使いと同じ気配を感じる。複雑に重なり合っているが、妙に調和の取れている魔力の気配だ。……きっと、この子の身体に、何か魔術が__」


 その時だ、


 アルジーナが、真剣にアデルの質問に返答している最中、急に表情を厳しくして、マントの中に手を入れて、何かを取り出した。


 アルジーナの白いマントが奮然とはためき、物々しい金属の棒が姿を現す。


 アルジーナが銀色の瞳に戦意を灯して取り出したそれは、メイス。重量感のある金属製の鈍器だ。剣を握る事の出来ない彼女が代わりに所持している、武器であった。


「えっ……!? いきなり、何……」


 アルジーナが突然に武器を取り出したことに、アデルは驚き、反射的にコルを自分のローブで隠す。アルジーナが、何の理由かは分からないが、コルに殺意を向けて来たのかと思ったのだった。


 しかし、アルジーナの銀色の瞳が向く先は、上空だった。彼女は、上空を睨んでいる。


 アデルは、アルジーナの視線の先がコルに向かっているわけではないことに気が付き、同じく上空を見上げる。


 そこには、黒い影あった。


 夕闇の空に混ざり溶けるように蠢き、宙を旋回する影があった。黒い煙のようにも見えるそれは、霧散せずに、一匹の蛇のようにくねって不気味に宙を泳いでいる。そして、よく耳を澄ませば、その黒い影は、微かに唸り声を漏らしている。悍ましい、怨嗟の声を。


「あれは、悪霊……」


 と、呟いたのは、メイスを握り締めたアルジーナだった。半霊である彼女は、いち早くその存在に気が付くことが出来た。


 悪霊__それは、強い執念を持った霊魂。かつて人であった者の魂が変化した、魔物というべき存在だ。憎悪をその身に宿し、人に害悪を与える。


<……ヴァ、ガギィ、ォ……、ガァア、グァ……!>


 悪霊は、煙のような黒い体を揺らし、聞き取れないくすんだ声を唸らせて、アデル達の方へと猛然と迫ってきた。襲い掛かって来たのだ。


 アルジーナは、悪霊を迎え撃つべく、跳躍してメイスを振るった。しかし、悪霊は俊敏な動きでアルジーナの一撃を躱すと、黒い煙のような尾を引いて地上のアデルの元へと走った。「しまった……!」とアルジーナは、通り抜けられた悪霊を振り返る。


「アデル殿っ!」


 ジローは、慌てて剣を抜き、地面を蹴り、アデルに襲い掛かって来た悪霊に一振りする。しかし、悪霊は、ジローの一振りすらも躱し、アデルの眼前へと迫った。


「アデル、危ない!」


 アデルの頭上から、メメが声を発する。アデルは、こんな緊急時にいつも頼りにしている魔法の箒『ノノ』を使おうとするも、今は運が悪い事にマグに預けている事を思い出し、思わず青ざめた。


 アデルは、ここで、あと1回残っている魔法を行使しようかと一瞬迷う。そして、その一瞬の迷いが、悪霊に接近を許してしまった。


 アデルは、もう避けられないと悟る。そして、咄嗟に、ローブの内側に隠していたコルの体を抱き寄せた。


<……ガァゲェ……、ィブェ……!>


 悪霊の煙のような黒い体は、大きな口を開けるように広がり、アデルを飲み込む。アデルの視界が黒く染まり、悍ましい怨嗟の声が彼女の耳元で渦巻き、全身に泥のような重みが伸し掛かる。


 悪霊の体に飲み込まれアデルは、猛烈な吐き気を催す。悪霊の憎悪が、身体に流れ込んで来た。


 アデルは、思わず片膝を地面に付く。そして、己の身の安全の危機を感じ、残り1回の魔法の行使を決意し、人差し指に魔法の光を灯そうとする。


 しかし、次の瞬間、紫色の光が、黒い視界の中を奔った。


<イギギギギギギッ!>


 耳が捩れるようなけたたましい悪霊の悲鳴が轟く。そして、アデルの黒い視界が晴れ、気が付けば、悪霊は、黒い体をくねらせながら、上空へと昇っていった。悪霊は、上空で暴れるように身を捩じらせた後、明後日の方向へと飛んで行った。


「……逃げた?」


 悪霊から解放されたアデルは、よろめきながら立ち上がり、悪霊が飛び去って行った方向の空を仰ぐ。


 先ほどの紫色に光は、何だったのだろうか。何が起きたのか分からないアデルは、ローブの内側で抱き寄せていたコルの体の異変に気が付く。


「あなた、その体……」


 怯えてアデルの腰回りにしがみ付いていたコルの体は、薄く紫色の光を帯びていた。魔法使いであるアデルには分かる。それは、魔法の光だった。


 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆


 コルの体が帯びていた紫色の光は、徐々に消えていった。


「大丈夫ですか、アデル殿!?」


 ジローは、剣を鞘に収め、アデルに慌てて駆け寄って安否を確認する。


「ええ、大丈夫よ。それより__」


 アデルは、ローブを着直しながら、ちらりと横に目を遣る。


「あなた、魔法が使えたの?」


 彼女は、自分の体にしがみ付いているコルに訊ねた。


「分からない……」


 訊ねられたコルは、困ったように首を横に振った。


「あなたが魔法を使って、さっきの悪霊を撃退させたように見えたけど?」

「……私にも、良く分からないの。あの黒いのが私の体を触ると、私の体から光が出るみたいなの。けれど、どうしてかは分からない……」

「……? ねえ、あなた、あの黒いのを知っている?」

「うん、前にも私に触ってきた」


 アデルは、首を傾げる。


「前にもあなたを襲ってきた事があったの? あなた、あの黒いのに狙われているの?」

「分からない……」

「あの黒いのが何なのかも分からない?」

「分からない……」


 コルは、やはり困った様子で答える。


「メメ、この子、何者なのかしら?」

「その子が言っているように、彼女自身も、良く自分の正体が分かっていないみたいだ。この子のさっきの魔法も、あの悪霊についても、彼女自身良く分かっていない」


 アデルは、他者の心を読む能力があるメメに答えを求めたが、結局、不明な点は不明なままだった。


「謎が多いな、その子は」


 メイスを懐に収めたアルジーナが、コルに近寄って、改めて観察する。


「さっきの悪霊だが、確かに、その子に執着しているようだった。私やジローの事なんぞ無視して、その子に真っすぐに襲い掛かって来た。何か恨みを持たれているんじゃないか?」

「恨み? この子が、あの悪霊に?」


 アデルの問いに、アルジーナは、頷いて答える。アルジーナは、元聖騎士であった関係上、霊的存在については詳しかった。


「そうだ。__一概に悪霊と言っても様々な種類がいるが、大概の悪霊は、生前の知能を無くし、無差別に人に襲い掛かる。しかし、生前において、強い恨みなどの特別な感情を抱いた相手に対してだけは、強く反応する傾向がある。あの悪霊が、その子を狙ってきたなら、あの悪霊が生前にその子に恨みを持っていた可能性がある。……本当に、何なんだろうな、その子は」


 アルジーナの視線を受け、コルは、怯えるようにして後退りする。


「わ、私、その……」

「止めなさいよ、犬女。そんなにじろじろ見て、この子が怖がっているでしょ」


 アデルは、コルを隠すように、アルジーナとの間に割って入った。「犬女はやめろ」と、アルジーナは、眉間にしわを寄せる。


「とにかく、その子は普通じゃない。……貴様が、その子の面倒を見ると言ったな」

「ええ、そうよ。それが何か?」

「どうも、厄介事になる予感がする」

「あなたには関係の無い事よ」


 アデルはそう冷たく返し、アルジーナはふんと鼻を鳴らす。


「そうだな、私やジローは、出来る限り関わらない事にするよ。貴様なんかと関わりたくはないからな」

「それはこっちの台詞よ、犬女」

「犬女はやめろ」

「犬女!」

「やめろ!」


 そうして、アデルとアルジーナは激しく睨み合いを始め、ジローが彼女達を宥める事になった。その後、「困ったことがあればいつでも言ってください。またお会いしましょう」と、ジローが礼儀正しくアデルに頭を下げ、彼女達は分かれる次第になった。


 その間、コルは、不安そうにアデルのローブの端を握っていたのだった。


☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ