表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
アデル★リボン ~万能でサイコパスの魔法少女が、人々の心を救済していく感動物語~  作者: タキ・エーイチ
第7章 凄惨な悪戯好きの妖精達が、相応のお仕置きを受けるまでのお話
79/97

第8話 エピローグ

 ボレルの役場での会議は、色々と紛糾があったものの、結局のところは、アデルが提案した作戦通りに、妖精を殲滅することに決着した。


「何と言うか……気が引けるな、この作戦は」と、アルジーナ。

「その、アデル殿にマグ殿、すまないが、私とアルジーナは、護衛役という事で勘弁してもらえないだろうか」と、ジロー。


 妖精殲滅の結論が出た後に、アルジーナとジローはそんな事を漏らした。妖精の殲滅の実行を担うアデルは、馬鹿にしたように鼻を鳴らし、もう一人の実行者のマグは、「気にすることないわ」と微妙な笑みを浮かべて返した。


 妖精の殲滅をする方針は固まったものの、その主要要員はアデルとマグ二人だけだ。残りの討伐隊員は、一応護衛役ということになっているが、お飾りと言っても過言ではない。


 アデルからしてみれば、皆つまらない感情に囚われ過ぎている、と思うのだ。アデルは、呆れた気持ちで、会議室から出ようとした。


「待ってください、アデルさん」


 そこへ、アデルに呼び掛ける声があった。長机に立っている、黒い羽の妖精スワロウだった。


「何かしら。ええっと……スワロウ」


 アデルは、何となく名前を覚えていたその妖精に問い返した。


「その、ひどく些細な頼み事ですが……」

「どうしたのかしら?」

「出来れば……出来ればで良いのですが、もし、ピエリスという白い羽の妖精を見つけたなら__」

「ピエリス? あなたが言っていた妖精のリーダー?」

「ええ、そうです。そのピエリスです」

「で、そのピエリスがどうかしたの?」

「見つけても、直ぐには殺さないでくれませんか? 少し、お話がしたいんです」


 アデルは、赤い瞳に暗い暗い影を落とした。


 ピエリスという妖精の事は、スワロウが妖精の森の事情を話す中で、折々に触れていた。ピエリスは、妖精のリーダー。“妖精草”等の貴重な薬草を求めて森に踏み入った人間を楽しみながら殺す、凄惨な悪戯好きの妖精達の主犯格だ。家族の病気を治すために薬草を求めて森に立ち入った人であっても、慈悲を与える事無く容赦なく弄び殺す、そんな残酷な妖精だ。


 スワロウは、ピエリスによって暴走化した怪物の花に、スワロウの親友であり人間に友好的であったルビアという妖精が食い殺された、というやや私情を交えた事も話していた。


 アデルにしてみれば、そのスワロウのお願いなど、付き合う必要のない、聞き流して良いもののはずだった。スワロウのそのお願いは、明らかに任務とは関係ないし、むしろ、それに付き合うならば、任務に支障が出そうですらあった。


 しかし__


「いいわ。出来れば、の範囲内だけど」


 アデルは、意外にも、そう答えてしまった。


 様々な危険を承知でここまで来たスワロウに敬意を払ったのか。あるいは、別の理由があったのか。アデル自身にも分からないが、彼女は気まぐれでそう答えた。


「私も、何だか、そのピエリスって奴に会いたくなったわ」


 と、アデルは付け加えた。


 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆


「ルビアちゃんを殺したあなたを、私は許さない」


 スワロウは、ピエリスに言い損ねていた事をこの場で果たす。


 ピエリスは、黒い猛犬の足の下敷きになりながら、体を捩じらせ、歯ぎしりをする。


「スワロウ……! あんた……!」


 あの時スワロウが怯えて言うことが出来なかった言葉を、今この場所で彼女は口にした。ピエリスは、反射的に、いつもやっているようにスワロウの頬を摘まみ上げようと、手を伸ばす。しかし、背中に伸し掛かる猛犬の足の所為で上手く身動きが取れないため、手がスワロウに届かない。ピエリスは、現在の己の立場を思い知り、絶望する。


 ピエリスは、届かなくても、手を伸ばし続ける。こんな事、あってはならない事だった。スワロウは、いつだって自分に対して怯えていなくてはならなかった。そうでなければ、スワロウではない。それなのに、今、スワロウは、冷然と自分を見下ろしている。


 スワロウは、落ち着いた様子で話を続ける。


「こんな事態を招いたのは、全部、あなたや、あなたを支持していた妖精達の所為よ」

「何?」

「あなた達の傲りが、つまらない矜持が、こんな事態を招いた。人間の事を侮り過ぎていたの。__それと、私の事を。私のルビアちゃんへの思いを」


 それからスワロウは、必死の形相で手を伸ばし続けるピエリスを暫く眺めた後、黙って背を向け、アデルの手の平に戻る。そして、「もう気が済みました。ありがとうございます」と、アデルに頭を下げた。


「スワロウ! さては、あんた、個人的な恨みを晴らすために人間を仕向けたわね! あんたの個人的な感情のために、私達と私達の森を犠牲にしたわね!」

「何を言っているの、ピエリス。この子は、人間と妖精の素晴らしい未来の為に__愛と平和の為に、勇敢な行動を起こしたんじゃないの。全く、感動的じゃない」

「スワロウウウウゥゥゥッ!」


 ピエリスは怨嗟を込めて叫び、アデルは薄笑いを浮かべて返す。スワロウは、黙って虚ろな瞳を、ピエリスに向け続けている。


「じゃ、もうやっちゃって良いわよ」


 アデルは、ピエリスを踏みつけている黒い猛犬に呼び掛けた。アデルの指示を受け、マグの使い魔であるその猛犬は、赤い両眼を光らせる。


 猛犬は、ピエリスの胴体に牙を剥いて嚙り付く。


「いっ!? いぎゃああああああっ!」


 牙が体に食い込む痛みに、ピエリスが泣き叫んだ。白目を剥き、身体を痙攣させ、想像を絶する痛みに、ピエリスの意識が飛びそうになる。


「ああああああっ! 嫌あああぁぁぁ!」


 ピエリスは、無駄だと分かっていても、その白い羽を激しく羽ばたかせる。いつもであれば空を飛んでいけるその羽を、動かし続ける。


「ひっ、あっ……! に、逃げたい! ああっ、逃がして! ひっ! 逃げれないっ! 嫌っ! 嫌っ! 嫌あああぁぁぁっ!」


 黒い猛犬は、ピエリスに嚙り付いたまま、彼女を逃がしはしない。その無力な妖精の身体から噴き出す血を、その獰猛な牙で啜り続ける。もはや、ピエリスが生き伸びられる道は残されていない。


「死ぬのは嫌?」


 猛犬に噛み付かれて絶叫するピエリスに対して、スワロウは、ぽつり呟いた。その静かな問い掛けがピエリスの耳に届いたのか、彼女は救いを求めるように、思わずスワロウに手を伸ばした。


「嫌っ! 死にたくない! 死にたくないっ! あああああああっ!」

「__妖精は、自然と共に巡る」


 スワロウは、いつもピエリスが気に入って口にしていた言葉を、呪いのようにこの場で繰り返す。


「肉体の生存に頓着するなんて、人間のような低俗な種族がすること__じゃなかったの、ピエリス?」


 スワロウの皮肉に憤る余裕も無く、ピエリスは痛みと恐怖に泣き叫び続ける。


 そして、猛犬の牙がピエリスの胴体を引き千切り、彼女の意識は遠退いでいった。


 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆


「友達の仇を討てて満足?」


ピエリスが食い殺される姿を見届けたアデルは、手の平の上のスワロウをちらりと見た。


「……そうですね」


 スワロウは、その虚ろな目を先ほどまでピエリスがいた場所に向け続けていた。ピエリスの断末魔の余韻に浸っているようにも見えたが、不安に怯えるような何処か浮かない表情をしているようにも見えた。


「あんまり満足そうな顔しているように見えないけど」

「そう見えますか?」


 それから、スワロウは顎に手を当てて、思い詰めた顔で、何か考える素振りを見せる。そして、スワロウは、アデルを見上げる。


「……そうですね、今さらなんですが、本当にこれで良かったのかと考えてしまいます」

「後悔しているの?」


 アデルがそう問い掛けたその時、遠くから他の妖精の悲鳴が聞こえる。マグの使い魔が、また別の妖精を見つけて、食い殺している最中のようだった。スワロウは、その悲鳴を聞いて、顔をしかめ、何とも言えない表情をする。


「私は、正しい事をしたはずです」

「私もそう思うわ。あなたは、正しい事をした。そうでしょ?」

「……」


 スワロウの言葉を肯定するアデルだったが、そのアデルに対して、スワロウはやや困ったように眉を曲げ、返答を詰まらせた。


 スワロウは、アデルに感謝していた。この万能の魔女のおかげで、目的を果たし、願いを叶える事が出来た。しかし、一方で、この魔女の冷酷さに気が付いていた。__この魔女は、妖精と人間の友好や平和を考えて、妖精の殲滅に踏み切った訳ではない。ただ単に、自分の任務を簡潔かつ迅速に片付けたいがために、妖精の殲滅という選択肢を選んだに過ぎない。スワロウは、そんなアデルに対して恐怖を感じていた。


 そして、スワロウは、そんな冷酷な魔女に頼った自分自身に対しても、恐怖を感じていた。自分自身の内に潜む冷酷さに、畏れ慄いていた。スワロウは、胸の内で自己問答を繰り返す。


__妖精と人間の友好と平和の為に、今回このような冷酷な選択をしたのは確かだ。その大義名分は、確かにある。しかし、個人的な感情を挟んだ事も、否定は出来ない。つまり、ピエリスに対する、親友を殺された事の恨みだ。


「言いたい事があるなら言いなさいよ。特別に、この慈悲深い魔女の私が聞き相手になってあげるけど」

「……。私は、正しい事をしました」

「ええ、だから、その通りだって言っているじゃないの」


 スワロウは、首を横に振った。


「私は、正しい事をした__そう思い込んで、これから進んでいくしかありません」


 彼女は、自分に静かに言い聞かせるようにして続ける。


「私達妖精は、やり直す必要があった。生まれ変わる必要があった。だから、この殺戮は、必要なものだった」

「まさに、そうね。あなたは、正しい判断をした。そして、勇敢にも実行した」

「……本当にそう思いますか?」

「思うわ。あなたは、正しいの。あなたこそは、この森の勇者だわ。新たなこの森のリーダーだわ。胸を張りなさい、スワロウ。胸を張って、進めば良い」


 と、アデルは、何の躊躇も無く、そして、何の意味も重みも込めず、そのようにスワロウを肯定する言葉を口にする。


 相変わらずこの女は出鱈目な事を言っているなと、メメはアデルの頭上で呆れながら黙って聞いていた。


「……ありがとうございます」


 スワロウも、この魔女の言葉に大した意味は無い事は分かっていた。だがそれでも、その意味の無い言葉は、僅かながらではあるが、今のスワロウの沈み淀んだ心を軽くした。


 スワロウは、そんな自分の心に苦笑いをして、天を仰ぐ。


「私は、彼女達を待ちます__」


 彼女は、目には見えない大いなる自然の巡りを見つめるように、虚空を見据える。やがてこの森の転生してくるルビアの魂を感じ取るように、あるいは、先ほど食い殺されたピエリス、それに、今現在まさに食い殺された妖精達の魂を感じ取るように、瞬きを繰り返す。


「それまで、この森を守り続けて、それから、今度は間違えないように、私が妖精達を導きます。それが、この道を選んだ私の責務です」


 そのように、誓いを述べるのだった。


 ★ ★ ★ ★ ★ ★

 ここまで読んでくださった方、ありがとうございました。

 少しでも楽しんでいただけたのであれば、幸いです。

 よろしければ、感想や意見などもらえると、嬉しいです。


 次の話は、2週間後くらいに投稿する予定です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ