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アデル★リボン ~万能でサイコパスの魔法少女が、人々の心を救済していく感動物語~  作者: タキ・エーイチ
第4章 高潔ぶった聖騎士が、犬の真似を要求されるまでのお話
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第6話 呪いの悪夢

 アルジーナは、グロス教会の聖騎士として生きることを運命付けられていた。


 彼女の両親は、とある国の貴族であったが、自身の全てを捧げて、銀星聖騎士団に入団したのだった。全てを捧げたと言うのは、聖騎士団へ忠誠を捧げたというだけでなく、自身の所有している莫大な全財産を、聖騎士団に献上したのだった。銀星聖騎士団においては、彼女の両親に限らず、入団する際には、自身の全財産を捧げる決まりになっている。


 そのような聖騎士団に入団する彼女の両親は、当然、筋金入りの敬虔なグロス教徒であった。そして、その子どもは、グロス教に染まった両親の教育の下で育っていくのだった。


 アルジーナは、両親から、グロス教の教義を言語同様に教え込まれた。幼い頃から、グロス教に対する信仰心を植え付けられて、成長していった。それと同時に、教会の他の派閥への批判や、魔法使いの邪悪さも、存分に教え込まれていった。


 神が敷いた摂理を捻じ曲げる魔法使いは、この世の害虫であり、駆除すべき存在。教会の穏便派は、魔法使いなどと妥協をしている腑抜け達であり、神に対する忠誠に背く行いをするような、悔い改めるべき愚か者達。


 アルジーナは、両親からそのように言い聞かされており、それが絶対正しいものだと、信じて疑わなかった。物心つく前から、立派な銀星聖騎士団の一員の卵として、育て上げられていた。


 聖騎士に対して憧れを抱いていたアルジーナは、12歳の時に、強い使命感を帯びることになる。


 12歳の時、半霊になるための特別な儀式を受けたアルジーナは、見事半霊になることに成功したのだった。半霊の適性を持つ人は、極めて限られている。そのせいもあって、半霊になることは、身体能力・魔力感知能力の向上などという実用的な側面だけでなく、神に選ばれし者の証という宗教上の特別な意義があるのだった。


 敬虔なグロス教徒であるアルジーナの両親は、娘の半霊化成功に狂喜した。それから、彼女は、その両親の期待を背負って生きていくことになり、立派な聖騎士を目指すことを改めて強く思うようになる。彼女は、銀星聖騎士団本部での聖騎士としての修行と研修に、他の誰よりも熱心に取り組んだ。


 やがて一人前の聖騎士と認められると、トラバ支部における任務を拝命し、計り知れない責任感を胸に抱えながら現地に着任した。彼女は、期待の新人として注目されていた。まだ若輩者でありながら、部下も付けてもらう地位にもなった。


 使命感に燃えながらアルジーナは、トラバでの聖騎士としての任務に励んでいた。この地での布教活動を、絶対成功させなければならない、と。


 故に、アルジーナは、悪夢のような現在のトラバの光景に眩暈を覚えた。この最悪な事態にどうにかして対処しなくてはならなかった。


 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆


 奇声を上げながら他の市民に襲い掛かる人々と、悲鳴を上げながら逃げ惑う人々で、トラバの街路は、混沌を極めていた。人は倒れ、物は壊れる。狂気の呪いに掛かった者達は、屍食鬼のように獲物を探して徘徊する。


 アルジーナは、狂気の呪いに掛かった人々を、斬って、斬りまくった。襲われる人々を守るためには、遺憾ながら、そうせざるを得なかった。おそらくは呪いの効果だと思われるが、呪いに掛かった人は、どうやっても気絶してくれないのだ。つまり、彼らの動きを止めるには、殺すしかない。


 呪いに掛かっているに過ぎない無辜の市民を殺す事には、多少は逡巡したものの、危機感の方が上回った。とにかく駆け回り、呪いに掛かった狂気の者達を殺し、それ以外の市民を防衛した。マントを血で汚し、目を虚ろにしながら、数え切れない程に人を殺した。だが、事態は収まる気配がしない。呪いに掛かった人が、無尽蔵に湧いてくるようにすら感じた。


 流石に、独りでは手に負えないと悟ったアルジーナは、冷静になり、この最悪な事態を司令部に報告すべきことに気が付いた。


 それから、アルジーナは、その身体能力と魔法を活かして、建物の屋根から屋根へと飛び移りながら、トラバの都市中央区域にある銀星聖騎士団の司令部へ向かった。眼下を一瞥してみれば、悲鳴を上げて助けを求める人々の姿があった。だが、いちいち助けている場合ではない。悔しい思いが胸を去来するが、今は、司令部に行くことが第一だ。


アルジーナが、そうやって飛び回っている中で、広場の端で蹲っている聖騎士の男を見つけた。彼女は、慌ててその聖騎士のもとに降りて行った。


「大丈夫ですか!?」


 アルジーナの呼びかけに、聖騎士の男は、朧気に、ゆっくりと顔を上げる。


「……貴女は?」


 聖騎士の男は、血塗れの顔を見せた。よく見てみると、彼の左の耳が引き千切られたように欠損し、血が今もなお止めどなく流れている。さらに良く見てみると、彼の脇腹辺りからも、血が大量に滴っていた。


「私は、第2部隊3班のアルジーナ。貴方の所属は?」

「第1部隊……2班……」


 聖騎士の男は、掠れた声で何とか答えた。


「第1部第!? では、此処は、もう中央区域辺りなのか!?」


 アルジーナの切羽詰まった問いに、聖騎士の男は力無く頷く。


 第1部隊の管轄は、主に都市中央区域だ。その第1部隊の隊員がいるということは、此処はもう中央地区で、そして、そこまで被害が広がっているとういことだ。


 『赤リボンのアデル』は、“呪いは、この辺一帯に取り合えず振り撒いてあげたわ”と言っていたが、それにしては、被害の拡散が早すぎるように思えた。彼女は一体、具体的にどの範囲の住民に呪いを振り撒いたというのだろう。


「貴方の他の仲間は?」


 と、アルジーナは尋ねる。銀星聖騎士団の聖騎士は、基本的に4人1組で行動するようにしている。したがって、残りの3人の行方について、気になった。


 聖騎士の男は、力を振り絞って答える。


「2人は、狂って……、もう1人は、やられて……」


 アルジーナは、その答えに危機感を強める。おそらくは、聖騎士の男の仲間も、アルジーナの部下同様に、『赤リボンのアデル』の呪いに掛かったのだ。アデルは、一定の範囲の住民にしか呪いを振り撒いていないような事を言っていたが、実際、呪いは、かなり広範囲に渡って振り撒かれているようだった。


「分かりました。……それより、貴方の怪我の方は大丈夫ですか?」

「かなり……、きつい……。一応試したが、俺は、大した治癒の“奇跡”は使えなくて」


 聖騎士の男は、意識を朦朧とさせていた。自分の傷口を、“奇跡”__グロス教会の治癒魔法で、一応手当てはしたのだろうが、さほど効いてはないようだった。そもそも、治癒魔法について否定的な考えを持つグロス教会においては、たとえ“奇跡”という名目であっても、あまり治癒魔法を研究・訓練し、活用しようとはしない。


「なら、私の奇跡で試してみる。半霊の私なら、それなりに回復させられるはず__」


 アルジーナが聖騎士の男に治癒魔法を使おうと屈み込んだとき、背後から、あの奇声が響いた。


「神は偉大なりいいいぃぃぃ!」


 アルジーナが背後を振り向くと、狂気に憑りつかれた市民が、獲物を取り囲むようにして5人、7人、10人と集まって来ていた。彼らは、目を見開いて、涎を垂らし、奇声を上げながらこちらへ襲い掛かって来た。


「くそっ!」


 アルジーナは、舌打ちをして剣を抜く。奇声を上げて掴みかかって来た相手の攻撃を難なく躱すと、その胴体を真っ二つに斬り裂いていった。彼女にとって、自身に襲い掛かる相手を斬り倒していく事は、数人が束になって掛かって来ようと、容易な事であった。__あくまで、自身に襲い掛かってくる相手には。


「あっ……あっ!? あああああああ!」


 聖騎士の男の叫び声。


 アルジーナ達の前に現れた者達の内の数名は、蹲っている聖騎士の男の方へと雪崩れた。


「た、助け……!」


 血塗れで満身創痍に彼には、もはや、襲い掛かる者達に対処できる体力はない。アルジーナも、自分の方に襲い掛かってくる者達に気を取られていた。


「グロス教を信じよ! グロス教を信じよ! グロス教を信じよ!」


 数人の狂人達が、一斉に伸し掛かり、聖騎士の男は、悲鳴を上げる。頬を石片で殴りつけられ、腹部にナイフを刺し込まれ、首筋を齧り付かれる。


「止めろ!」


 アルジーナが、自分に襲い掛かって来た人達を何とか殺し切った後に、慌てて聖騎士の男の元に駆け寄った。獲物に群がる狂人達を斬り払って助けようとするが、既に遅かった。聖騎士の男は、顔や体をぐちゃぐちゃにされて、血塗れになって息絶えていた。


「神は偉大なりいいいぃぃぃ!」


 そして、死んだ聖騎士の死を悲しむ暇も無く、アルジーナの背後からは、更なる奇声が響き渡るのだった。


 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆


 悪夢のような光景は、何処までも続いていた。むしろ、都市の中央に行けば行くほど、悲鳴や奇声の混沌が強まっているような気がした。


 司令部は無事なのだろうか。と、アルジーナの胸の内の不安が高鳴る。

 

 肉体的にも、精神的も疲労してるアルジーナであったが、焦燥感と、何より使命感によって、屋根から屋根へと飛び移る足は速くなっていく。都市がこのような事態に見舞われた原因を一番良く知っている自分には、それを司令部にいち早く伝える使命があった。


 この都市で引き起こされた異変の原因と深刻性を伝えれば、銀星聖騎士団の司令部は、組織的一体的に動いて、この事態を上手く収拾してくれるかもしれない。司令部が、無事であるならば。


 眼下の悪夢から目を背けるようにして、都市の中央区域へ疾走していたアルジーナは、やがて、銀星聖騎士団司令部が設置されている教会の門前へと辿り着く。


 教会の建物の外観は、そのグロス教の威光を示すべく、壮麗な造りに仕上げられている。その立派な外観の教会が、今は不穏な空気に包まれていた。いつもは夜になると固く閉ざされているはずの門が、雑に開け広げられて、その周囲には多くの死体があった。聖騎士、神父、修道女、といった教会関係者が、発狂したような形相で息絶えていた。


 アルジーナの絶望が強まる。それらの死体となった者達が、狂気に憑りつかれた者に殺されたのか、あるいは、狂気に憑りつかれたから殺されたのかは分からないが、とにかく、司令部も無事とまでは言い難いようだった。


 いや……。多くの修羅場を潜ってきた熟練の聖騎士の先輩方なら、今回のような危機的状況も、切り抜けられるはずだ。おそらくは、建物内部に立て籠もって、作戦でも練っているはずだ。


 アルジーナは、一縷の希望を持って、教会の扉を開けた。


 そして__


「グロス教を信じよ! グロス教を信じよ! グロス教を信じよ! グロス教を信じよ! グロス教を信じよ! グロス教を信じよ! グロス教を信じよ! グロス教を信じよ! グロス教を信じよ! グロス教を信じよ! グロス教を信じよ! グロス教を信じよ! グロス教を信じよ! グロス教を信じよ! グロス教を信じよ! グロス教を信じよ! グロス教を信じよ! グロス教を信じよ!」


 普段であれば、静謐な空気に包まれているはずの礼拝所に、耳を劈くような奇声が響き渡っていた。


 整然と並び置かれた長椅子の先にある壇上に、その奇声を発している人物がいた。銀の鎧に純白のマントの長身の男性だ。アルジーナは、彼が一瞬誰であるか理解出来なかったが、その容貌は紛れもなく、銀星聖騎士団トラバ支部の団長のものであった。


 多くの隊員から信頼を置かれ、若手のアルジーナも何かとお世話になっている、尊敬すべき団長。歴戦の猛者の風格を纏い、厳然と号令を下す、聖騎士の鑑。


 その彼が、今は何をしているかというと、まるで無邪気な子どもに戻ったように、声を溌溂と弾ませて、ひたすら壇上に横たわっている修道女の死体に、剣を突き刺している。元気に、血を全身に浴びながら、死体と遊んでいる。


「だ、団長……、そんな……、……いや……、誰……?」


 アルジーナは、立ち竦む。眼前の状況を完全に理解しようとすれば、精神が崩壊しまいそうだった。だから、彼女は、その狂人を団長だと認めるわけにはいかなかった。


 狂人と化した団長は、アルジーナの存在に気付く。彼女に、血塗れの無邪気な笑みを向ける。そして、爛々と目を光らせて、叫ぶのだった。


「神は偉大なりいいいぃぃぃ!」


 団長が、アルジーナの方へと駆けてくる。全身にたっぷりと浴びた血を辺りに飛び散らせながら、その片手に握った剣を振り回して襲い掛かってくる。


「くっ……」


 アルジーナは、


「来るなあああぁぁぁ!」


 剣を抜いた。


 絶叫と共に振るわれたアルジーナの一閃は、飛び掛かってきた団長の首を刎ねた。


 生首が地面に落ちる音がした。その首元から噴き出した鮮血が、アルジーナの全身に降りかかる。


「いっ……嫌あああぁぁぁ!」


 アルジーナは、半狂乱になって、礼拝所から逃げ出していった。


 息をするのも忘れて慌てて外へ出て来たアルジーナは、何も無いところで躓いて、転んだ。そして、嗚咽を漏らしながら立ち上がる彼女に、上空の方から声が掛けられる。


「あらあら、疲れた顔しているわね」


 アルジーナは、上空を仰いだ。そこにいたのは、愉快そうに箒に跨ってこちらを見下ろしてくる、『赤リボンのアデル』だった。


☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆

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