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アデル★リボン ~万能でサイコパスの魔法少女が、人々の心を救済していく感動物語~  作者: タキ・エーイチ
第3章 お頭の弱い博愛主義のエルフが、愚かな選択を繰り返すまでのお話
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第11話 エピローグ

 何の前触れも無く、深夜に突如として、“精霊の森”の西の平原中央に、驚くべきものが出現した。


 それは、小さな山ほどの高さのある漆黒の壁。そして、広大な平原を南北に横断する長い壁だった。


 周囲の草を押しつぶして、異様に聳え立つその巨大な壁は、明らかに人工的に造り出された物だった。そして、その壁は、完全無欠の障壁となっていた。


 恐ろしく長い壁だが、そこには、一寸も隙間が無い。また、壁は地下深くまで続いている。そして、それは、正体不明の漆黒の物質で出来ており、その硬質さは、例え砲弾を至近距離で撃ち込まれても、傷一つさえ付けることを許さない程のものだ。それどころか、強度の魔力を帯びており、魔法的干渉で破壊することも困難であった。


 この突破困難な壁が出現したことによって、ゴブリンが平原の東西間を物理的に移動することは、極めて困難となった。それのみならず、壁を迂回することによって東西間を移動するのも困難であった。まず、壁の南端は、竜の棲み処となっている渓谷であり、命知らずか相当の強者でなければ通れない場所だ。そして、壁の北端は、人間の都市周辺であり、警備が厳しく、もし無断で通行しようとすれば人間の軍隊がやってくる。


 その突如として現れた壁は、周辺各国を驚かせることになる。瞬く間に、その壁の話は広まる。話題はその壁のことで持ち切りになる。


 謎過ぎた。誰がどのようにして造り上げたのか。何の目的で造られたのか。そもそも本当に人工物なのか。


 様々な憶測が飛ぶ中、やがてフィール王国が、漆黒の壁のことについて正式に真実を伝える。


 曰く、あれは我が国が造り上げたものであると。エルフの高度な魔術で造り上げたものであると。そして、その目的は、西からのロブ王国のゴブリンの侵入を防ぐことにあると。


 特に北の人間達に対しては、壁の一部が若干ながら彼らの領地に侵入してしまったことから、より丁寧で詳細な説明が、謝罪や弁解と共になされた。それと同時に、ゴブリンが壁を迂回して侵入して来ることの対処のため、共同で警備体制を構築することの提案を行い、また、お詫びの意味を込めて、精霊の森の資源の譲渡量の増加を提示した。


 一方で、ロブ王国のゴブリンの使者に対して、昨今問題となっている精霊の森へ侵入して来るゴブリンへの対抗策として、あの壁は必要やむを得ない措置であると述べ、その理解を求めると共に、宣戦布告を取り下げることを明確に告げた。


 このようにして、フィール王国は、各国に対応していった。それに対する各国から応答がどのようになるかは、まだ分からない。


 __ところで、フィール王国が外部に発信した情報には、一つ嘘があった。


 フィール王国は、一応、エルフの秘術を用いて、その最強の防御力を誇る壁を造り上げたと説明したが、その説明は全くの嘘だった。壁の本当の創造者は、ごく一部のフィール王国のエルフしか知らない。


 その壁は、たった一人の魔法使いの魔法__『赤リボンのアデル』の魔法によって造り上げられたものだった。


 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆


 アデルは、魔法の箒のノノに跨って、フィール王国を飛び去って行く。


 次の目的地を目指して、北へと進んでいく。


「ところで、アデルには、兄弟とか姉妹とかいるの?」

「……いきなりどうして?」


 暇潰しにでもと思ったのか、魔法の帽子のメメは、飛行中のアデルに、唐突にそんな事を訊いてきた。


「いや、別に、ちょっと気になって。言いたくないなら良いけど」

「弟がいたわ」

「え、弟!?」

「どうしてそんなに驚くのよ?」


「物凄く意外だったから。……ほら、弟とかいると、他人に対して面倒見が良かったり、優しかったり、しっかりした人になるイメージだったから」

「私にはそのイメージが無いと?」

「うん」

「この帽子野郎」


 メメのその即答が、何か癪に障ったアデルだった。


「アデルの弟はどんな感じだったの?」

「……うーん。あまり覚えていないわ。確か、影の薄い奴だったから……」

「へー」

「少なくとも、あの姉弟みたいに面倒臭いことにはなっていなかったわよ」


 アデルは、リアリスのことを思い返す。


 魔法で平原に強大な壁を造って依頼を達成したアデルは、フィール王国の王城に戻り、その後すぐにリアリスに出くわすことになる。


「ご苦労様です」とリアリスに労いの言葉を言われ、「ええ」と簡単に返事をして別れようとしたアデルを、彼は呼び止めて言った。


「すいませんでした、アデル殿。つい焦ってしまい、貴女を罵り、あろうことか刃を向けてしまったこと、申し訳なく思います」


 リアリスは、頭を下げて謝罪した。形だけのものではない、彼の真摯な謝意がそこには含まれていた。


「あら、謝られるなんて意外……、てっきり恨まれているのかと思っていたわ。あなたの望まない結果になったもの」


「……納得していないのは確かです。貴女の言葉で陛下は、かつての博愛主義に目覚め、そして、それは、いつかこの国に再び禍をもたらすものと思っています。陛下の目指す理想を実現するなど、出来るとは思えない。現実的ではない。ゴブリンとエルフが分かり合える世界など、到底想像できません。


 そもそも、平原に壁を造ったところで、ゴブリンの侵入の問題が抜本的に解決出来たとは思えないです。楽観的過ぎると言わざるを得ません。正直、もっと考えれば、壁を造るという方法よりも、有効な解決方法があるような気がするんですよね……」


 リアリスの口からは、そのように愚痴が零れた。内心不満だらけなのが見て取れる。


「あの壁を造るのに、結構苦労したのよ。結局、魔法を3回も使っちゃって。せめて2回くらいで済ませて、残りの1回の魔法で美味しいワインをいっぱい作って、祝杯を上げようかと思っていたんだから」

「いえ、その……魔法で壁を造って下さったこと自体は、良かったと……ゴブリンの侵入阻止に有効なものになったと思います。報酬も、しっかり約定通りに」

「まあいいわ。報酬が貰えるなら、後の事はどうだって構わないわ。……あなたは、大変よね、お頭の弱い姉を持って」


 アデルが口から滑らせた言葉に、リアリスは目を丸くする。彼女は、散々その理想を後押していた相手を、“お頭が弱い”と馬鹿にしたのだ。


 アデルは、うっかり口に出てしまった失言に気が付いて、思わず口元を押さえた。その言葉に、最悪リアリスが憤って剣を抜く恐れもあった。やはり、誑かしていただけであったのかと。


「そうですね……馬鹿な姉を持つと、本当苦労しますよ」


 だが、リアリスはそう言って、苦笑して済ませたのだった。


「リアリス、君も実のところ、今回の結末について満更でもない、と思っているんじゃないのかい?」


 他者の心が読む能力を持つメメが、ふとそんな事をリアリスに訊いた。


「さあ、どうでしょうか……。自分でも良く分かりません。『赤リボンのアデル』が我が国に齎したものが、結果的に国益に適ったものになるのか、国益を損なうものになるのか、未来の事は、結局のところ、全知全能の神ぐらいにしか知り得ないものです。

そして、陛下があのようになられて、意思を固くしてしまった以上、それを受け入れて、私はやるべき事をやるしかありません。合理的で現実的な観点からの助言を、これからは、陛下の理想に抵触しない範囲で、申し上げるしか」


「理性的ね。あの女王様には、あなたみたいな人が付いていないといけないわ」


 などとアデルは、リアリスに感心を示した。イーディア女王を誑かした彼女が、感心する筋合いではないようにも思えたが……。


「……それに、陛下の__姉上の明るい表情を久しぶりに見ました。本当に、随分久しぶりに。……これでも、一応は、弟です。家族として、出来ることなら、姉上が辛そうにしている顔は、あまり見たくありません……」


 そして、リアリスは、複雑な表情をしながら、そのように姉に対する思いを零したのだった。


 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆


 魔法の取引の対価として、アデルの『赤リボンの呪い』を解呪する試みが、フィール王国の総力をもって行われた。


 フィール王国の王城の宝庫に秘蔵されていたマジックアイテムの数々が、アデルのために持ち出される。古い魔導書や、妖しげな光を放つ宝珠、美しく煌めく指輪や首飾り、只ならぬ魔力を感じさせる剣、そういった様々なエルフの秘宝で解呪を試みた。


 また、フィール王国の国中の魔術師が、アデルの前に召集される。数多のエルフの魔術師が、その強力な魔力と高度な魔術を以って、解呪に尽力した。それだけでなく、先代のエルフ王の魔法を継承しているイーディア女王も、その解呪に協力したのだった。


 そのように、あらゆるフィール王国のエルフの秘宝と秘術も以って挑んだわけであるが、結果は上手く行かなかった。


 アデルに掛けられた呪い__『赤リボンの呪い』が強力過ぎて、フィール王国の手には負えなかったのだった。


 そして、イーディア女王は、解呪が成功しなかったことを、本当に申し訳なさそうな顔をして謝罪し、解呪できなかった代わりに、アデルにある物を渡したのだった。


「ふふ、良いもの貰ったわ」


 魔法の箒ノノに跨って飛行中のアデルは、イーディア女王から貰った物を手に取り、顔をにやけさせる。


 アデルの手には、透き通った液体が入れられている小瓶があった。それは、ある意味エルフの秘宝である。精霊の森の資源を材料として用いて調合し、エルフの魔術によって作製された美容液。イーディア女王が、その美貌を保つために使用している特別製である。


「これでもっと綺麗になれるわね、私。あの女王様くらい綺麗になれるかしら?」


 アデルは、上機嫌でその小瓶に入った美容液を眺めていた。


「君が磨くべきなのは、見た目の方じゃなくて、内面の方なんだよなあ……。イーディア女王を見習いなよ。彼女は、見た目も内面も、非の打ちどころのない素晴らしさじゃないか。美人で優しいなんて、全く稀有な存在だ。……君は、まずその歪んだ性格を矯正してから、美容に気を遣うべきじゃないか」

「は? 私の性格は歪んでない。完成されている」

「ハハ」


 メメの小馬鹿にして来るような言い草に、アデルは眉を曲げて言い返す。


「人の性格に正解なんてない。あるとしても、私からすれば、あの女王様の方が歪んだ性格をしている。見た目が美しすぎる分、お頭の方が残念になったのね。この世に完璧な人などいないという世の理を体現している」

「ちょっと酷過ぎないか。イーディア女王をそんなふうに貶すなんて」

「事実よ」


 アデルは冷たく言い放った。


「お高い理想を持つのは結構だけど、それを為政者として実行に移すのであれば、実現可能性と、失敗したときのリスクを十分に検討するべきよ。イーディア女王にそれが出来ていたとは思えないわ。あの女王様はどうも、冷静に考える能力が欠けているように思えるのよね。自分の理想を叶えたい、っていう感情に引っ張られ過ぎている気がする。そうでなければ、あんな馬鹿げた政治をしなかったでしょう」


 イーディア女王は、本当に愚かな女王だ。アデルは、フィール王国の王城の図書室で、過去に行われていたイーディア女王の政治についての調べていて、つくづくそう感じていた。特に、彼女の対外政策は、博愛主義的な考え方に囚われ過ぎていて、合理性に欠け、酷く杜撰なものだった。愚かゆえのその大胆さは、ある意味評価出来なくもないが。


「リアリス最高補佐官のおかげでまともになっていたフィール王国の政治は、再びあの女王様がやる気を取り戻したせいで、その理性が失われることになるでしょう。彼女のやる気を取り戻す手助けをした私は、まさに無垢な少女を誑かす悪魔と言ったところね。

彼女は、あの様子じゃまたいつか、とんでもない悲劇を引き起こすわ。フィール王国の善良な国民の方々には本当に申し訳なく思うわね」


 などと、アデルは、微塵も申し訳なくなさそうな声で、そう言った。


「君、イーディア女王をボロボロに言い過ぎじゃないか。あれだけ仲良さそうに話していたのに。彼女は君に、感謝して信頼しているのに……。何か悲しくなるなあ」

「何? あの女王様、私に感謝しているの? もしかして好意を持たれてたり?」

「その通りだよ」


 と、他者の心が読めるメメが断言する。


「ふーん。あんなのでも女王だし、それはまた、いつか何かに利用できそうね。お頭の弱い奴って、本当都合が良いわ。素敵なお友達が出来た」

「人間の屑がこの女郎……」

「なんだと、この帽子野郎。そう言うなら、あなたも同罪よ、メメ。あなたが、あの女王様の心を揺さぶるような言葉とかを教えてくれたから上手く行ったのよ」

「……いや、それは……」


 メメは溜息を吐いた。


「……内心で君がどう思っていたかはともかく、僕らは善い事をしたと思うよ。少なくとも、僕は、そう思ったから積極的に協力することにしたんだ。そして、依頼を達成した今、確信を持って言える。アデル、君は、善い事をしたんだ。


 僕には、イーディア女王の博愛主義が正しいのとか、これからフィール王国がどうなっていくのか分からない。君が言うように、彼女は、もしかして為政者として愚かかもしれないけれど、その政治の結果が、必ずしも失敗に終わるとは限らないだろ。もしかしたら上手く行くかもしれないだろ。だから、今から失敗する事を前提で話すのは良くないよ。結果は、どうなるか分からない」


「結果がどうなるか分からないんだったら、私達が善い事をしたかどうか分からないでしょ。矛盾しているわよ、メメ」

「いや、善い事をしたよ」


 アデルの反論は、何とも彼女らしいものだった。彼女らしく、重要な視点の一つが抜けていた。


「他者の心を読める僕だからこそ断言できる。今、確実に一つだけ、僕に分かる事。それは、彼女の理想に寄り添った君の言葉が、彼女を救った、っていう事だ。

理想を捨て、自分を殺し、心を壊して“串刺し女王”を演じ続け、苦しみの中で生き続けていた彼女を、君は目覚めさせてあげた。君が、彼女の眠れない夜を終わらしてあげたんだ」


 メメは、確信を持って、告げる。


「だから、君は善い事をしたんだ。もしかしたら、君は、あの国にとって不幸な事をしたかもしれない。でも、少なくとも、彼女は君に救われたんだ。『赤リボンのアデル』に」


「あなたがそう思いたいなら、勝手にそう思えば良いんじゃない?」

「ああ。僕は、そうさせてもらうよ」


 アデルは振り向くと、フィール王国の王城や城下町はもう見えない。彼女は、手に持った美容液の入った小瓶をうっかり落としてしまわないように、袋に入れ、しっかりと紐を締めた。


 こうして、アデルのフィール王国での旅は終わるのだった。


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