↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
アデル★リボン ~万能でサイコパスの魔法少女が、人々の心を救済していく感動物語~  作者: タキ・エーイチ
第3章 お頭の弱い博愛主義のエルフが、愚かな選択を繰り返すまでのお話
30/97

第10話 許されざる翻意

 イーディア女王の一言に、リアリスが凍り付く。


 何かの聞き間違えか、と疑った。


「陛下……、今、何と……?」

「私は、ゴブリンの殲滅を望んでいません」


イーディア女王は、改めて言い放つ。


「あら、これは驚きね、女王様。あなたは、望んでいないことを私に依頼していたってわけ? これは、困ったわね……。依頼内容は、見直した方が良いのかしら?」


 などとアデルは、白々しく驚いた振りをする。そして、手にしていた契約書とペンを、リアリスに無理やり返却した。


 リアリスは、怒りに肩を震わせて、イーディア女王に振り返る。


「へ、陛下! どういうことですか!? これは、一体!」


 リアリスの怒声に、イーディア女王は、怯えて体を震わせる。彼の鋭い眼光が、女王を刺した。その眼光には、只ならぬ怒りが込められていた。


リアリスは、イーディア女王の反抗を、絶対許すことは出来ない。


 またあの、馬鹿げた博愛主義を復活させるわけにはいかない。


「わ、私は……その……」

「まさか、まだ、あの馬鹿げた博愛主義をお持ちになり続けているのですか!? あの悲劇の事を、もうお忘れになったのか!?」

「……それは……」


 イーディア女王は、リアリスの怒りの眼光に怯えて委縮する。その眼光は、調教の際に何度も向けられたことがあった、彼女には逆らい難い恐怖そのものだった。


「もう良いっ!」


 リアリスは、アデルに向き直る。


「アデル殿、この最高補佐官であるリアリスの名において、貴女に依頼を申し込む。報酬は、変わらない。私の権限をもって、好きなだけ我が国のエルフの秘宝と秘術を利用するとよい」

「いや、そうはいかないわよ、最高補佐官さん」


 女王を無理やり黙らせて勝手に取引を進める作戦に出たリアリスに、アデルは薄笑いを浮かべて一蹴する。


「この国の最高権力者はイーディア女王陛下でしょ。最高権力者と意見が異なる補佐官の依頼なんて聞けないわ」

「別に良いのです! この国の実権は私が握っている。この最高補佐官リアリスが。女王など飾りに過ぎない! 女王は、何も考えず、ただ私の意見を追認するだけの存在だ。だから、私と取引しても問題ない」

「そんなリスクのある取引出来ないわよ。ちゃんと、女王陛下の意見を聞かなくっちゃ、ね」


 アデルは、イーディア女王に視線を送る。


「私は……」

「姉上っ!」


 イーディア女王は、びっく、と体を震わせ、口を閉じてしまう。


 リアリスは、周りに兵士達がいるにも関わらず、荒い言葉を使う。


「姉上の馬鹿げた博愛主義のせいで犠牲になった者達の事を思い出せ! 貴女のせいで、本来死ななくて良いはずの我らの同胞が死んだ! 貴女は多くの者達の未来を奪った! 小さな子どもの未来までも! 彼らは、凄惨に弄ばれて、苦しんで、絶望して、死んでいった! 貴女のせいで! 貴女が殺した!」


 リアリスは、今にも殴りかかって行きそうな勢いで、イーディア女王に怒声を放ち続けた。


 イーディア女王は、その怒声に、顔を青くする。かつて調教のために、何度も聞いたことのある怒声に、体が思わず震える。


「貴女は、“串刺し女王”だ! 数えきれない程のゴブリンをその手で殺してきた。今更また、博愛主義の女王に戻れるとでも? 貴女には、ゴブリンを殲滅する選択しか残されていない!」

「過去の事なんてどうでも良いじゃない。重要なのは、これから何をするのが正しいかを考え、実行する事でしょ」


 アデルの声が割って入る。


「ねえ、イーディア、……私は昨夜、崇高な理想を叶えるにはそれなり力と運が必要だって言ったけど、もう一つ重要なものを言い忘れていたわ」

「アデル殿、本当に貴女は一体何を……」


 アデルは、困惑するリアリスを無視して、言葉を続ける。


 イーディア女王は、悪魔的な煌めきの赤い瞳に見据えられる。


「力よりも運よりも、何よりも欠かせないものは、崇高な理想の実現を、切実に願う思いよ。切実に願う者には、神様が願いを叶えるだけの幸運を授けてくれる。その幸運さえあれば、願いを叶えるだけの力も手に入る。

だから、切実に願いを持ち続ける人さえいれば、あとは、力と運が勝手に付いてきて、願いは叶うものなの。__切実に願いを持ち続ける人、つまりは、貴女よ、イーディア。貴女が、その崇高な理想を叶えるに不可欠な存在なの」

「私が……」

「馬鹿らしい!」


 イーディア女王が口を開きかけた瞬間、リアリスが大声を上げてそれを遮る。


「ふん、流石は魔女ですな。随分と出鱈目な宗教観をお持ちになっておられる。都合の良い神様がいるものだな」


 リアリスの皮肉に、アデルは笑って返す。


「あら、そんな都合の良い神様がいても良いじゃない。

少なくとも、今こうして、崇高な理想を切実に願う彼女の前に、幸運にも、『赤リボンのアデル』は、現れた。その理想を叶えるだけの力が、彼女の掌中に入り込んだ。

この幸運は、神様がもたらしてくれた必然よ。なぜなら__」


 アデルは、微笑む。とっておきのマジックワードを、メメから教えて貰っていた。


「彼女の理想は、正しき博愛主義だから。全ての種族が、向かうべき未来だから」


 アデルの言葉に、イーディア女王の碧い瞳が揺れる。


「さて、イーディア、あなたの本当の願望を聞かせて。あなたの、その口からはっきり。

 くどいようだけど、繰り返すわ。私は万能の魔女『赤リボンのアデル』__どんな願望だって叶えてみせる」

「……。……アデルさん、私の本当の願いは__」


 リアリスは、イーディア女王の目の色が変わったことを感じ取る。


「……姉上?」


 そして、イーディア女王は、はっきりと本当の願望を口にする。


「__エルフとゴブリンが、互いに手を取り合える世界を創り出すことです」

「姉上っ!」


 イーディア女王は、リアリスの怒声に構うことなく、言葉を続ける。


「ゴブリンも、エルフ同様に尊い命を持っています。彼らの命を、容易く奪うことはあってはならないことです」


 かつて自分が述べた理想を、もう一度口にする。


「私達と彼らは、分かり合えます。こちらが武器を取るのを止め、彼らがそれに気付いてくれれば、我々は皆、互いを愛し合い、尊重し合い、やがては、争いは無くなります」

「ふざけるな! ゴブリンは殲滅しなくてはいけない! 50年前のあの悲劇で学んだはずだ!」


「私はもう、ゴブリンを殺したくないのです! 誰も傷付けたくないのです!」

「またあの悲劇を起こしたいのか! 姉上の理想はもう失敗しているんだ! 何を今更!」」


「まだ私の理想は続いています! 消えたりはしません!」

「狂ったか、この馬鹿女王は!」


 激昂したリアリスに、イーディア女王は、一歩も引かない。彼女の瞳には、かつてのような強い意思が宿っていた。己の理想を突き進む、強い意思が。


「全く、感動的じゃないの、リアリス最高補佐官。50年前の悲劇で挫折して、眠れない夜を過ごし続けていた可哀そうなあなたのお姉さんが、今、立ち直って、希望に向かって歩み出そうとしているのよ。弟として、祝福してあげなくちゃ」


 アデルは、薄笑いを浮かべる。悪魔的な笑みだった。


「……っ! この、魔女め!」


 リアリスは、怒りの形相でアデルの方を向いて、腰に携えていた剣の柄を握る。


「アデル! 逃げて!」


 リアリスの殺気を一早く察知したメメが、危険を告げる。


「来て、『ノノ』!」


 アデルは、メメの警告を受け、魔法の箒の『ノノ』の名を呼ぶ。


 突如虚空から一筋の光がアデルの足元に走った。


「逃がさん!」


 リアリスが抜剣する。突風が起こり、アデル目掛けて銀の一閃が駆ける。


 その一振りは、疾風のようであったが、メメの光の速度には敵わない。リアリスの剣は、ノノに攫われたアデルのローブの端を、ほんの少し掠めただけだった。


「危っ! いきなりどういうつもりよ!?」


 アデルは、ノノに乗って、剣が届かない天井付近まで退避する。


「我らが女王陛下を誑かす魔女め! 悪魔の手先め! この私が成敗してくれる!」


 リアリスが、剣を片手に、叫ぶ。


「冷静になりなさいよ。もう女王様は、あなたの傀儡を卒業したのよ。目を覚ましたの。私を殺したところで、彼女の意思は変わらない」

「黙れ!」


 リアリスは、左手に宝珠を取り出した。魔術に使う宝珠だ。


「風よ! 我が敵を討て!」


 リアリスの呪文の詠唱が始まる。宝珠が輝く。


 彼の周りに風が巡り始める。風はやがて、謁見の間の部屋全体を包むようになった。そして、彼は、剣をアデルに向けて、杖のように振るう。


 次の瞬間、アデルの足元から勢いよく竜巻が舞い上がる。突然の竜巻の出現に、アデルは回避することが出来ない。彼女は、竜巻に押し上げられるまま、天井に強く頭部を打つ。


「がっ!?」


 叩き付けけられるように天井に頭部を打ったアデルは、意識が薄らぎ、白目を剥いて、体から力が抜ける。ノノを握る手が離れ、竜巻に体が翻弄された後、部屋の隅の床に吹き飛ばされる。


「死ね! 魔女め!」


 リアリスは、床に転がったアデルに、刃を向ける。疾風のような銀の一閃が彼女に襲い掛かる。だが、その刃が標的を切り裂く寸前で、再び一筋の光となったノノが、横たわっている主を攫って、天井付近へ逃げる。


 リアリスは、舌打ちをして、次の呪文を詠唱し始める。


「アデル! 起きて! まずいよ!」

「ぐっ……いったあ……」


 アデルは、ノノの上で起き上がって、頭を摩る。頭がくらくらした。


「アデル、来るっ!」


 メメが叫ぶと同時に、突風がアデル目掛けて襲い掛かる。アデルを乗せたノノが、素早く反応し、これを避ける。襲い掛かってきた突風は、天井に衝突し、石で出来ているそれを凹ませて、そこに亀裂を入れた。


 魔法による風の弾丸だ。当たれば重傷。下手すれば死だ。


「ノノ! とにかく避けながら外へ!」


 リアリスは、この部屋の風を掌握している。この部屋の中は危険だ。アデルは、上手く風の攻撃を避けながら、外に出ようと試みる。


「王国騎士団長の実力を思い知らせてやる!」


 リアリスは、魔術で風の弾丸を放ち続ける。


 無数の風の弾丸が、アデルに襲か掛かる。


 アデルを乗せたメメは、風の弾丸を避けつつ部屋の出口を目指す。だが、放ってくる風の弾丸の数が多すぎて、避けるのに精一杯で、なかなか出口に近づけない。


 弾丸の余波が、暴風となって部屋を駆け巡る。謁見の間の風は荒れ狂い、その場にいた兵士達も風に翻弄され右往左往する。


 ノノの柄を握り締め、激しい飛行に身を任せるしかないアデルは、魔法を使うべきか考え始める。まだ3回分使える上に、使用回数の回復は今夜12時を回った時点だ。1回くらいなら、問題が無いと考えた。


 場合によっては、リアリスを殺してしまうのも、やぶさかではない。


 __だが、結局、アデルが魔法を使う必要は無かった。


「止めなさい、リアリス!」


 イーディア女王の一声が、謁見の間に響き渡る。そして、圧倒的な魔力の波動が部屋中を駆け巡り、暴れ回っていた風が一瞬で消え失せた。


「この部屋の風は私が支配しました」


 次いで、リアリスの握る剣に目掛けて突風が走る。剣は風に弾き飛ばされて、床を滑っていった。


「なっ!? 姉上……」


 イーディア女王は、玉座から立ち上がり、その指先に魔法の光を灯していた。圧倒的な魔力の波動が、彼女から放たれていた。


「大人しくしなさい、リアリス」

「まさか、その魔法は……」

「先代の王から受け継いだ秘術です。貴方に勝ち目はありません」

「姉上、本気で……」


 イーディア女王、宣言する。あえて強力な魔法を誇示して、譲らない意思を示す。


「私は、私の理想を追い求めます。かつて諦めた理想を、もう一度。そして、実現して見せます。これは、女王の名を以って、フィール王国の決定事項とします」


 その時、フィール王国の重大な意思決定がなされたのであった。


☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。