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アデル★リボン ~万能でサイコパスの魔法少女が、人々の心を救済していく感動物語~  作者: タキ・エーイチ
第2章 高慢なお嬢様が、息絶えるまで裸踊りをし続けることになるまでのお話
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第7話 エピローグ

 ルイーザが敗北の言葉を口にしたことにより、決闘に決着が付く。


 アデルは、にやりと笑い、掴んでいたルイーザの前髪を放した。


 そして、アデルとルイーザの喉元に出現していた赤い紋様に、変化が生じる。アデルの紋様は、消え失せ、__対して、ルイーザの紋様は、輝き、その赤色を強めた。


 決闘の敗北者が、ルイーザに確定したのだった。


「あっ……!? 何これ……、苦しい……」


 敗北者のルイーザに、呪いが降り掛かる。


 ルイーザは、息苦しさに、両手を喉元に添える。そして、恐怖で目を丸くする。


 まともに呼吸が出来ない。空気をいくら吸い込んでも、それが全身に行き渡っていかない。空気を求め、胸を必死に上下させる。だが、試しても、試しても、体が楽になることはない。このままでは、窒息死してしまう。


「息が……、何で……、これ……」


 ルイーザは、自身の身体に訪れた異変に、恐怖で震える。


「それが、呪いよ。あなたが要求内容を履行しないと、その苦しみは続き、やがては、あなたを殺すわ」


困惑するルイーザに、アデルが説明する。


「決闘方法に従って敗北者となったあなたには、書面通りの要求内容を履行してもらうわよ。ほら、要求内容通りにここで裸踊りしないと、呪いで死んじゃうわよ」

「そんな……、貴女、本気で言っているの!?」

「本気も何も、ちゃんと取り決めたことでしょう。ほら、そこの紙に」


 アデルは、立会人の男性の持っている羊皮紙を指差す。ルイーザは、その羊皮紙に飛びつき、奪い取り、書かれている内容を読み返した。


 “要求内容:本件決闘を行った場において、300年の期間、衣服を身に着けずに間断なく踊り続けること。”__羊皮紙に書かれたその内容を改めて見て、ルイーザは眩暈を覚える。


「こっ……こんな! こんなこと、出来る訳ないでしょう!?」

「あなた、今更……。ちゃんと承諾したじゃない。__立会人も、それに、ここの広場にいる人もちゃんと聞いたわよ。ほら、早く、ルイーザお嬢様」

「そ、そんな……!」


 ルイーザは、既に息苦しさで顔が青くなっている。彼女は、広場に集まった人々を見渡し、助けを求め、叫び始める。


「……だ、誰か! 私に掛けられている呪術を解きなさい! 早く! 私は、ルイーザ! この町を統治する領主の娘よ! ……早く! 早くっ!!」


 息が苦しいのに、よくもそう、叫べるものだ。ルイーザの必死さに、アデルは冷たい笑みを浮かべる。


 そして、周囲の人々は、騒めくだけで、ルイーザを助けようと動く者はいない。皆、ひどく冷たい視線を向けている。


「あなたを助けようなんて考える人は、この町にいないわよ。あなたがこの町でしでかしてきたことを後悔しなさい。__それに、そもそも、その呪いを解くなんて無理よ。あなた、自分の血で印を刻んだこと忘れたの? 諦めなさい」


 ルイーザとて、呪術において自身の血の印を捧げたことの重大性は理解している。そして、その解呪の困難性も。だが、諦めることなどできない。


「……そうだわ! 貴女、『赤リボンのアデル』らしいじゃないの!」


 ルイーザはアデルの足元にしがみ付く。


「万能の魔女『赤リボンのアデル』なら、この呪いも解けるでしょう!?」


 この際、誰でもよい。目の前にいる忌まわしい魔女でも、自分を死の恐怖から救ってくれるのなら、誰でも。


「まあ……、できるわね。この万能の魔女にかかれば、どんな解呪困難な呪術も一瞬で消し飛ばせるわ。__何? 私との取引がしたいの?」

「私を助けて! 報酬ならいくらでも出せるわ! 私は領主の娘よ!」

「本当!? 私ねえ、ワインが大好きなのよ」

「美味しいワインならいくらでもあるわ! 私の屋敷に、いや、何なら、領地にあるありったけのワインを貴女に差し上げるわ!」

「何それ、超魅力的。是非とも取引したいわ、ルイーザお嬢様!」


 ルイーザは、形振り構わず助けを求める。アデルは、その様子を、白々しい茶番を興じながら、嘲る。


「じゃあ……!」

「でもね、お嬢様、非常に残念ながら、私はもう魔法が使えないんですよ。先ほども言いませんでしたっけ? 私、一週間で使える魔法を使い果たしてしまって」

「……え?」

「いやー、惜しかったわ。あなたを助けてあげたいけど、出来ないわ。あーあ、ワイン飲みたかったな」

「ちょっと、嘘でしょ!?」


 アデルは、足元にしがみ付くルイーザを、思いっきり蹴飛ばす。ルイーザは、広場の中心に転がっていった。


「さっさとしなさいよ。メス豚みたいに衣服を捨てて、皆さんの前でダンスを披露しなさい。皆、あなたがどんな無様に踊ってくれるのか期待して待っているのよ。__ほら、早く、ルイーザお嬢様!」


 アデルの冷徹な言葉が、ルイーザに底無しの絶望感を与える。


 ルイーザは、顔を歪める。息はもう限界。手の先の感覚も痺れてきて、気付けば口の端から涎が滴り落ちていた。そして、手は無意識のうちに、シャツのボタンを触れていた。


「あっ……、あっ……、嫌……よ……、こんな、大勢の前で……嫌……」


 恐怖と恥辱に、涙を流す。追い詰めてくる窒息の苦しみに、体が震える。


 その惨めなルイーザの姿を、アデルの赤い瞳は冷笑を湛えて見守る。


「心配しなくても、大丈夫よ。踊って踊って、踊り疲れてくれば、裸踊りの恥ずかしさなんて気にならなくなるわよ。さらに踊って踊って、もっと踊り疲れてくれば、死への恐怖も忘れてくるわ。

……それから、その裸足が、踵や爪先と地面との境界が分からなくなってきた頃くらいに、あなたは、もうどうでもよくなって、静かに窒息の苦しみの中に身を擲ち、無様に口から泡を吹きながら、そこで全裸の死体を晒すのよ」


葛藤の末、ルイーザは、苦しみに耐えきれなくなり、シャツのボタンを外していく。


 一つボタンを外しただけでは、苦しみは消えない。二つでもだめ。ついには、シャツのボタンを全て外し、ローブとともにシャツを脱ぎ捨て、下着だけとなった上半身を晒したが、それでも苦痛からは解放されない。


 呪いの苦痛から逃れるためには、更にスカートも、__スカートだけなく下着も、靴も靴下も、全ての衣服を脱ぎ、裸体を晒さなくてはならない。そして、その羞恥の姿で、踊らなくてはならないのだ。


 上半身の素肌を晒しただけでも、ルイーザにとっては、耐え難い恥辱だ。しかし、今はそれを上回る、死への恐怖がある。


 ルイーザは、次々と衣服を外していく。そして、一糸纏わぬ姿となり、恥辱のダンスが始まるのだった。


☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆


 ルイーザの恥辱のダンスが、広場に集まった人々の前で披露される。アデルは、広場の人々に混じって、一緒にそれを眺めていた。


 ルイーザは死の恐怖に抗えず、裸踊りを続ける。


 頬を赤く染め、裸体を晒しながら、淫らに腰を振り、髪と乳房を揺らす。周囲の野次馬から、卑猥で屈辱的な言葉の数々が投げ飛ばされる。


 途中、恥辱のあまりダンスを中断することもあったが、ダンスのステップを止めた途端、再び呪いによる窒息の苦痛が、容赦なく彼女を苛む。そうして、死の恐怖に押され、休むことが許される事なく、踊り続ける。


 さて、アデルは、機嫌良さそうに笑っていた。


「ハハハ! メメ、見なさいよ、あれ!」

「やり過ぎだよ、アデル。いくら何でもかわいそうだよ」

「何言ってんのよ、この野郎。むっつりスケベ帽子。あなたの趣味知っているわよ。身分の高い女の裸が好きなくせに」

「いやー……、かわいそうなのは、ちょっと、興奮できない」

「ほら、あなた人の心が読めるでしょ。あそこで無様にお尻を振っているバカ女の、今の気持ちを教えて頂戴よ。できるだけ、詳細に、具体的に!」

「悪趣味すぎないか……?」


 子どものように無邪気にはしゃぐアデルに、メメは呆れる。


「こんなことして良いの? 相手は領主の娘だよ」

「領主の娘が何よ。私の復讐は、全くの合法よ。正当な決闘手続きに則り行われた、魔法使いの慣習法上、完全無欠の白。丁寧に必要なものを揃えて、必要な礼儀作法を踏んで、用いた呪術の様式も、その具体的内容も、何ら魔法使いの法規範を逸脱しない__非の打ちどころのない復讐」


 アデルは、得意げに鼻を鳴らす。


「いや、合法とかじゃなくてさ……。例えば、領主の人が、娘の仇で、君を捕まえて不当な裁判を下しに来たらどうするの?」

「ここら辺の魔法使い同士の紛争は、全て王立裁判所が上訴権を握っていたはず。アース王国の要人達には色々と貸しがあるから、領主が不当に裁判権を行使してきても、ちゃんと法と正義の下、王国が守ってくれるわ」


 アデルの口から、法と正義なんて言葉が出てきたことに、メメは苦笑せざるを得ない。


 それに、アデルが、わざわざ正当な手続きを踏んで決闘をするなどという、回りくどい手段で復讐を実現したのは、法を遵守するためではない。それは、アデルの復讐の創意工夫だ。復讐相手に、屈辱、恥辱、死の恐怖をじっくりと味わってもらうための、陰湿な演出だった。


「……敵は、あまり作らない方が良いと思うな。後々、面倒なことになったりするかもよ」

「確かにそうね。でも、今はそんなことどうでもいいわ! ああ、こんなにも清々しい!」


 アデルは、晴れやかに笑う。本当にあどけなく、健やかに笑うのだった。


「私、この町の英雄よ! 救世主よ! __本当、感動的ね! 悪い領主の娘に脅かされていたこの町を、正義の魔法使いの少女が救済したのよ。あの女に惨めな思いをさせられた可哀そうな人々は、あの無様なダンスを見て、心が救われていくでしょう。善い行いができて、私も嬉しいわ」


 アデルの言葉を否定してやりたいメメであったが、広場に集まってルイーザの裸踊りを眺めている人々の心を読んでいるうちに、……残酷なことに、一理あると思ってしまった。


「でも、これからどうするの? 魔法を使い果たしちゃったし、お金も無いし」

「まあ、何とかなるわよ。今すごく気分が良いの。このまま、着の身着のまま過ごして行ける気分よ。__それに、きっと、これから良いことあるわよ。良いことは続くって言うしね」

「あれだけ魔法を使い渋っていたのに。……理性的なアデルはどこへ?」

「私は理性的よ。諸般の事情を総合的に考慮した結果、あの女への復讐を決断したの」

「いや、単に、怒りに駆られただけじゃ……」

「理性的なの!」


 アデルは、ルイーザを撃退しておく必要性の他、魔法使いとしての精神衛生管理の重要性だとか、ノークの町への恩を売れて、それが将来的にいかに利益になるかだとか、様々な御託を並べて自身の行動の合理性をメメに説明した。アデルはどうしても、自分が理性的な人間ということにしないと気が済まないようだ。


 それから暫くの間、アデルは、ルイーザの裸踊りの様子を眺めていた。しかし、流石に飽きてくる。そうして、アデルは、広場から立ち去るのだった。


「さーて。この町の英雄を助けてくれる、親切な馬鹿でも探しに行くか」


 アデルは、そんな呑気なことを言いながら、晴れやか表情で、ノークの町を歩いて行くのだった。


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