第三章
そのころ、若松のさらに奥地、遠賀の荒野に、一人のとんでもない男が現れた。その名は夜跳。
「おい、お前ら!悔い改めよ。天の国は近づいた」
彼はらくだの毛皮のドカジャンを羽織り、腰には野太い穴だらけのベルトを巻き、主食はいなごとビールという、完全に野生化した昭和以前の生活レベルを貫く硬派ヤンキーであった。
夜跳は遠賀川の河川敷に立ち、集まってきた各地の不良どもに向かって大声でドスを利かせていた。
彼の気骨ある演説を聞くために小倉、八幡、戸畑、さらには筑豊一帯から数えきれないほどの不良たちが夜跳のところに出てきた。そして、彼らの罪を告白し、夜跳から頭を抑えつけられ冷たい遠賀川にドボンと浸けられる闘魂注入を受けた。
夜跳は小倉北区や小倉南区の成金どもが大勢気合の闘魂注入を受けようとしてきたのを見て、一瞬でメンチを切って彼らを怒鳴りつけた。
「おい。マムシ以下の餓鬼ども。誰が貴様んらに、迫りくる神の怒りから逃げられるんち教えたんか。本当に根性叩き直したいっち思うんなら、ふさわしい実を結べ。俺たちのバックには初代総長荒武羅破無がおるけえ、誰も文句言えんやろ、とかぬるいこと抜かすなや。神はこんな石ころみたいなやつでも荒武羅破無みたいな構成員に仕立てるんぞ。」
夜跳の怒号は止まらない。
「斧が足元に置かれとる。やけん、良い実を結ばない木はことごとく切られて、全員まとめて焼却炉の中に投げ込まれるんぞ。俺は気合い入れなおさせるために、お前らに闘魂注入しとる。やけど、俺より後から来るやつは俺よりもヤバくて、俺はそん人のエナメル靴を磨く価値すらないんよ。俺はただ遠賀川で水攻めするくらいやけど、こん人は、お前たちに魂の拳と劫火でお前たちに闘魂注入するやろう。そん人は、自分の縄張りを徹底的に掃除して、根性あるやつは入隊させるやろうし、口先だけのシャバ憎はガソリン入りの焼却炉で焼き捨てるやろうね」
そのとき、一台の単車が遠賀川の河川敷に現れた。義也だ。
義也は、夜跳のところにきて、闘魂注入を受けようとした。
夜跳は、義也から放たれる覇気に怖気づき、それを思いとどまらせようとして言った。
「いやいや、俺ん方があんたから闘魂注入を受けるはずなんに、なんで俺にそれしろっちいうんですか」
義也は静かに、だが絶対の威厳をもって微笑んだ。
「夜跳、これでいいんよ。闘魂注入してくれ。こうやって筋を通すのが俺たちのやり方やけん」
そこで夜跳は義也に一礼して、遠賀川のせせらぎに義也の頭を浸けた。
義也が水から上がったその瞬間、河川敷の上からアルファードの戸が開き、神から与えられた白い特攻服がハトのように空から自分の肩へと舞い降りてきた。
と同時に、車上のスピーカーから皿倉山の山頂まで響き渡るような地鳴りのごとき大音量の神の声が響いた。
「こいつあ、俺が一番目をかけとる、最愛の息子や。俺の全信頼を置く、北九州の次期総長よ」




