第一章
北九州暴走族の伝説の頭。その伝説が今、始まる。
荒武羅破無の末裔であり、北九州を統べる大総長堕毘手の血を引く、伝説の総長吉原町の異英統切全頭。
その誇り高き族の系譜は次の通りである。
堕毘手は初代総長として君臨し、その跡を単悶が継いだ。代々の頭たちは北九州の荒波を生き抜き、やがて罵毘乱捕囚※を迎える。
※筑豊・筑後連合との大抗争による一時的な壊滅期
その苦難の時代を経て、系統は戸畑、若松、八幡へと受け継がれ、ついに予世伏という一人の男に至った。
無荒武羅破から堕毘手まで十四代、堕毘手から罵毘乱捕囚まで十四代、捕囚から切全頭誕生まで十四代。これぞ、北九州の裏街道を揺るがした不滅の血統である。
異英統切全頭の誕生の次第はこうであった。母魔裏亜は、小倉を拠点にする硬派な単車乗り、予世伏と婚約していた。ところが、二人が正式に契りを交わす前、魔裏亜が聖霊によって身ごもっていることが発覚する。
夫予世伏は筋の通った男であった。
「ケジメをつけにゃならんが、魔裏亜を世間の晒し者にしたくはない」
そう考え、彼は裏で密かに縁を切ろうと心に決めていた。
予世伏が思い悩んで、皿倉山の展望で一人煙草に火をつけた時のことである。
天の最高顧問の使いが現れて言った。
「堕毘手の血を引く若頭、予世伏よ。芋る必要はいっちょんなか。魔裏亜を妻として迎え入れろ。彼女の腹におるのは聖霊によるものやけ。彼女は男の子を生む。その名を義也とつけろ。その男こそ、自分の族を、すべての罪から救い出す、不滅の総長となる男や」
これらはすべて、かつて預言者たちが残した格言が成就するためであった。
「見よ、乙女が身ごもって男の子を生むであろう。その名は叡魔贄琉と呼ばれるであろう」。これは、神が俺たちのバックにおられる、という意味である。
予世伏が目を覚ますと、すぐさま愛車のキックペダルを踏みこんだ。天の使いの命令通り、魔裏亜を自分の特攻服の後ろに乗せて家に迎え入れた。
そして、男の子が生まれるまで、彼は決して魔裏亜に触れなかった。
男の子が生まれた時、予世伏はその子に、約束された魂の名前を付けた。
その名は義也。




