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となりの世界の放浪者たち  作者: 空閑 睡人
第二十章:遠き、あの日の君へ
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休憩所から出るまで気付かなかったが、外には何人もの人たちが遥斗を探し回っているようだった。皆小さなランタンを持っているからか、無数の鬼火が飛んでいるように見える。


見上げれば今日は新月のようだ。その上曇っているのか、いつもならば満天に輝いている星影も見えない。

そうなってしまうと幻視界の夜は一切の暗闇に支配される。そこで灯る小さな明かりなどではとてもこの闇を晴らしきることなどできない。


「チイコ」


音羽が腕を伸ばして、虚空に呼びかけた。


瞬間、音羽の視界で光が爆発した。その眩さに思わず目を瞑る。


周囲からどよめきが聞こえた。現れたチイコは全身を紅蓮の炎で燃え上がらせ、煌々と輝いて漆黒の闇を焼き払った。暗闇から一気に転じた光に目が開けられない。


そうしてどのくらい目を瞑っていただろうか。じんじんとした痛みが少しずつ和らいでくると、音羽は恐る恐る目を微かに開けた。


そこには、自分を呼び出したきり目を閉じて動かなくなった主を不思議そうに眺めるチイコの姿があった。

また、こうして明るくなって改めて気がついたが、やはり辺りには多くの人がいたようだ。何人もの人が突然の発光に驚き、目が慣れずに固まっている。それも次第に解消され、動けるようになった人たちが音羽の近くに歩み寄ってきた。


「おお、この子があんたの隷獣か。ずいぶんと光ってるなぁ」

「おかげでかなり明るくなったよ! これで探しやすくなる」


駆け寄ってきた人々は口々に謝意を述べながら、目を細めて翳した手の下からチイコを仰ぎ見る。


「私はここに詳しくありませんが、ささやかでも皆さんのお役に立てればと参じました。力になれることがあったら言ってください」


音羽の言葉にどよめくような歓声が上がる。


そうして音羽も遥斗の捜索に加わった。


とはいえそれで何かが大きく変わるわけではない。確かにチイコのおかげで視認性は上がり、捜索の効率は上がったが、そもそも人海戦術で拠点の大部分を彼らは見ているのだ。一度見た箇所を再度もう少し丁寧に見直すくらいしかできない。


そうして人々の顔に落胆の色が滲み始めた頃だった。


音羽が拠点の人に付いて回って光源の役割を全うしている時、一緒に捜索していた男が何気なくぽつりと呟いた。


「ここももう探したしなあ。……なあ、そういや外門は?」

「がいもん?」


耳慣れない言葉に、音羽が繰り返す。もう一人の男が「いやいや」と苦笑しながら肩をすくめた。


「あそこは流石にないだろ。それに確か別グループがさっき一応見に行ったらしいけど、やっぱいなかったって言ってたしな」

「だよなあ」


言い出した男も、自分の発言に現実味があるとは思っていなかったのだろう。否定されても特に何も思っていないようだった。音羽は近くにいた女を呼び止めた。


「あの、外門っていうのは何でしょうか」

「え、外門? ああ、それはこの拠点の中と外を繋ぐ門のことだよ。そのまんまだね。ここ来る時、通ってきたんじゃない」

「ああ、あの」


この拠点に辿り着いた時のことを思い出す。


傍目にはわからないような位置に、土と同化したような色の扉があり、先導者が何かしらの動作を加えることで開閉されていたような気がする。

そしてその先に伸びる暗く人一人程度しか通り抜けられないような地下通路を通って音羽たちはこの拠点に辿り着いたのだ。


「……外は誰か探しているんですか」


そう思うのは自然なことだった、他所から来た音羽にとっては。


だが拠点の人々はそうではなかったようだ。


「え」

「いやー外って」

「はは、そりゃ本当なら大事件だな」


彼らの反応はまるで、近所でいなくなった子が「外国にいるのでは」と言われたかのような、あまりに素頓狂な発言を聞いた時のそれだ。音羽の考えは候補の選択肢にもならないものだったようだが、それが音羽にはわからない。

困惑する音羽の様子に、人々が気付いた。


「ほら、ここの外ってさっきも言った通り外門を通らなきゃ出られないんだけど、出るには扉にある仕掛けを解除しなきゃなんないんだよ。で、外に用がある奴なんて殆どいないから回収部隊とあとごく一部の奴らしか開け方を知らないんだよ。俺も知らないしね」

「そうそう。だから外にいるなんてありえんよ」

「おう。だから遥斗は必ずこの拠点内に……いるはずなんだよ。なあ」

「あ、ああ」


口々に「外にいるのでは」という音羽の言を否定しながらも、次第にその顔が皆曇りだした。


そう、彼らの常識では外にいる、というのはあるはずがないことなのだ。だがそうなると遥斗はこの拠点の中のどこかにいるしかない。

しかしもう拠点内は十分すぎる程に確認しきったのだ。その事実が、あるはずのない可能性をどんどんと膨らませていく。


そして音羽がもう何も言わずとも、彼らは険しい顔で、つい先程まで念頭にすらなかった可能性について真剣に話し合い始めていた。


「ありえん。ありえん……と思うが、こうなりゃ一度確認したほうが早い。誰か……いや、梨沙ちゃんはどこだ」

「確か遥斗が戻ってきたらすぐにわかるように家で待機してもらってるはずだ。行こう。あ、旅人さんも一緒に来てもらえんか」

「ええ、もちろん」


そうして彼らは駆け足で梨沙と遥斗の家へと向かった。


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