第24話 酒場
「ヴェイツェンドルフのリーシア」
と、先に名乗っておく。礼にのっとれば男に名乗らせるのが順当だろうけど、ここは長幼の序、年少者の自分の方が下手に出ておこう。
「わ、儂はロッテンナウのフォート。ブラックスミスだ」
脅しすぎたか。まだ挙動が怪しい。
樽から立ち上がって、両手を軽く差し出す。
立ち上がったフォートも手を差し出し、右手でリーシアの手首をぐっと掴む。リーシアもフォートの左手首を掴む。
これをするのも随分久しぶりだ。容量を忘れたりはしていないけれど、なんだか懐かしささえ覚えた。
「これで倒せばいいんだな」
膝をつかせるって言ったんだけど・・・。
「はい」
って言っておこう、一緒だし。
「どうぞ」
とリーシアが言うや否や、力一杯引っ張られた。
痛いほどに引っ張られるけど、当然ここは化す。化勁だ。引っ張られる力に逆らわず歩を進め、フォートさんに迫る。
と、引っ張った手応えのないことと、リーシアが急に迫ったことで引っ張る手が止まる。
その刹那に合わせて引っ張られていただけの腕で勁を発し、フォートさんを飛ばす。流石に後ろに飛ばすと卓やら壁やら樽やらがあって危ないので、下にして尻餅をつかせるに止める。
「あ」
「お分かりいただけましたか」と、目と口がまん丸に開いたフォートさんににっこりと微笑んでおく。
「ど、ど」
「どうやったか、ですか」
カクカクと頷くフォートさんに
「秘密です」
と微笑んでおく。微笑みの美少女騎士って割といいかも。
もちろん口には出さないけど。
手首を掴んだままの右手を引いて、フォートさんを立ち上がらせる。こっちから言い出した条件だと「膝をつかせる」だから、フォートさんが条件を変えてくれなかったら、勝てなかったな。
と、立ち上がった瞬間に、手首を掴まれてた左腕を今度は突き込んできた。
当然化勁で追従して、半歩下がる。ドスンと胸に突っ込んできた。
「あら。おじさん、いやらしい」ってちょっとからかってみたら、ベル師匠がクックッと笑いを堪えてる。
あ、いけない。カルルが顔を真っ赤にして怒ってる。
「な、な、な」
フォートさんは顔を真っ赤にして目を白黒させている。
「不意をつくのは相手を選んでください」
とはいえ、隙をみつけたらすかさず仕掛けると言うこと自体は嫌いじゃないけど。
「では、今宵はいっぱい酌み交わしませんか。それでお互い様っていうことにしませんか」
「一杯と言わず、いっぱい」
しょ、しょーもな・・・。




