第25話 剣と盾
結局、その日の宿では、クマ殺しについては納得してもらい、「クマ殺し」とは呼ばれるようになった。とはいえ、槍の腕前についてはまだまだ評価されていなくて、
「よう、クマ殺し」とか「クマのねーちゃん」扱いなので、まだまだ溜飲が下がったわけではないけれど。
腕相撲のお誘いについては、相手を崩すのよりも大変なので、酒が回っちゃったとかなんとかで、適当に流しておく。その度にベル師匠がケラケラ笑ってるのがなんか楽しい。
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部屋でベル師匠と一晩笑い合い、朝になると食堂に昨夜のフォートさんが待っていた。
「よ!」と声をかけられる。
「フォートさん!?」
「ちょっと顔かしてくれるか」
みんなで顔を見合わせたけど、頷くのでついていくことにした。
「昨夜もいったけど、俺はこの街で鍛治師をしててな」
うん、それは昨夜きいた。
「で、お前さんを見てたら、剣はともかく鎧も兜もろくなもんを持ってなさそうだったから。
「餞別を兼ねて、よさそうなやつを一つ、見繕ってあげようかなと、ね」
「え!ほんと!」
これは驚いた!とにかくまだ、収入の当てがないリーシアにとって、武器にしろ防具にしろ、おいそれと調達できるものじゃない。一応王都からは剣だけではなく兜も授けられたけど、兜を被ったまま旅をするわけにもいかない。
そういう意味では、旅の最中にもかぶれる兜か気楽に着続けられる軽い鎧があるのはありがたい。
「助かる」
というリーシアの返事になんとなくフォートさんの背中が笑ったような気がした。
「お前さんだけじゃなくて、そっちの兄ちゃんにも、魔法使いの姐ちゃんにもなんかやるぜ」
「本気かよ!フォートさん!」と、カルルが色めき立つ。
「ああ、流石に体に合わせてあつらえる、ってわけにはいかないけどな」と、フォートさん。
「ここだ」と、表に剣と盾を模した飾りを掲げている店の扉を開けた。「スウェルトウントシルト、剣と盾」か。
暗い店内にはぎっしりと、武器と防具が詰め込まれていた。長短の剣。円楯、方盾、といった盾。そして鎖帷子に兜。ものすごい量だった。
「防具をあつらえると、一人一人の体を測ってから作り始めるから、何日もかかる。四人分ともなると、夏の終わりになってもできるかどうかはわからん」
「そんなにかかるのか」とはベル師匠。
一応、リーシアとカルルは騎士様のもとで修行をしていた際に痛んだ武器の補修を見たことがあるからそんなに驚きはないけれど、武器と縁のないベル師匠ならそんな程度の認識でも不思議はない。鍋釜、ナイフの補修はそんなに時間のかかるものでもないし。
結局、リーシアとカルルは鎖帷子の胴衣で軽く肩に鉄板の補強が入っているものにした。丈は腿を半ばまで覆い、下腹部への攻撃へ対応している。一方、袖はなく、剣を振るう妨げにはならない。
と同時に、普段使える鉄板で補強が入った被り物もおねだりしてみた。鉄の円環を柔らかい木綿の覆いにし、頭部中央の人中線に沿ったところ、首後ろ、目庇もついている。
ベル師匠とフィルさんは鉄板で裏打ちされた、鍔広の被り物。紐で顎にとめられ、雨具に使える。
「でも本当にこんなものをもらってもいいの?」
と、不安になって聞いてみると、
「本当に構わないんだ」
へえ。
「なぜってどれも、うちの看板を彫り込んであるからな」
ワハハ。やられた。
「つまりこれは、私たちがあなたの店をあちこちで知らせて回るってことですか」
「つまりそういうことだ。お前さんたちのような腕利きが、王陛下の騎士であることをあちこちで知らせて回ると一緒に、うちの武器が優れてることを知らせて回ってくれるわけだ」
「それじゃ、気兼ねなく使わせてもらいますね」
「そうしてくれ。そうして名を上げたのなら今度は全身鎧をあつらえてくれ。期待してるぞ」
「はい!」
さらに、野盗から回収した何振りかの剣は中古品として引き取ってもらい、予備の剣二振りと替えてもらい、装備を一新してロッテンナウを旅立つ支度を整えた。




