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大晦日の夜。
神社で魔女が巫女装束を纏って怒っている。
なんだこの画。
不貞腐れる藤沢藍に小室絢が
「おかしくは無い。吸血鬼のお姫様だって着たんだから。」
「だからって何で私が。関係ないじゃないですか。」
「関係無くない。もう家族なんだからこれくらいしろ。」
「家族って、そんな親しくも」
「私んちで飯食って寝て、姫んとこでも飯食って寝て。」
「こんなの着たって何も出来ませんよ。」
「ちゃんとフォローするから。」
「フォロー?やっぱり何かさせようと」
「参拝客の案内とか売店の売り子とか。」
「やった事ありませんよ。」
「大丈夫だ。お前かわいいから。」
「なっ。」
照れた藍さんをはじめて見た。かわいいな。
僕に助けを求めるように顔を向ける。
縋るようなこんな顔も初めてだな。
うん。似合うよ。
助けてくれないと悟り、ギッと僕を睨み付けながら
「どうなっても知りませんからね。」
諦めた。
魔女が巫女装束を纏ったところで天罰が下るわけでもあるまいて。
魔女の発祥なんて祈祷師とかの類。同類だ。
「理緒君。」
はい?佳純ちゃん。どうかした?
人差し指を上に立てでちょいちょいと合図した。
ああそうか。と頭を少し下げる。
頭に手を乗せ二度三度撫でる。
「んー。うん。判る。判るぞっ。」
何がだ。
「これをこうだな。」
お、耳鳴りが消えた。
すごいね。
「スゴイのは理緒君のお姉ちゃんだよ。」
紹実さん?
「知らなかったの?コレ発明(?)したの紹実さんだって姉ちゃんが言ってたよ。」
そう言えば聞いたな。
それ以前、紹実さんの母親の頃はもっと大掛かりな「手続き」が必要だったらしい。
紹実さんは「橘家の継がれる力」とやらが魔女の魔法に近い事を知り
お互いの方法を組み合わせた。
「結姉は小さい頃に紹実さんに何度も助けてもらったって。」
橘姉妹の母親は佳純ちゃんが産まれてすぐに亡くなった。
姉妹は父方の実家に引き取られる事になるのだが
橘家の責務を果たすべく、橘結は自らの意思で残った。
その手助けとして魔女の力を借りた。
今はこうして僕がその妹に助けてもらっている。
不思議な縁だ。
「で、何だって理緒君はこの地にそんなに抵抗力が無いの?」
「普通は祝福されてハッピーになれるのに。」
知らずにやっていたのかこの子。
これ、かな。
指輪を胸元から出す。
この指輪が僕を守ってくれている。
紹実さんが言うには「拒絶反応」に近いそうだ。
神社の「ご加護」に対して指輪の能力が過剰に反応するのだとか。
「家に置いてくればいいのに。ってそーゆーワケに行かないんだな?」
そう。だね。これが無いと僕はもっと酷い目に合うから。
「大変なんだなー。」
橘佳純は僕に興味を抱いた。
それは好意ではなく好奇心でしかない。
後日、橘結から妹との会話を聞かされそれを知った。
「ねえ。理緒君て何者なの?」
「最初に道場で見たときさ、あの人の周りにJKがたくさんいたじゃない。」
「皆理緒君を見てんだよね。理緒君が中心にいてさ、皆がそれを見てるの。」
あの時の僕は皆から八つ当たりの対象にされていたのでそれを勘違いしていると思われる)
「皆素敵な人達でしょ?魔女も桃姉ちゃんも。皆超カワイイ。」
「あの人達学校でもきっとすごくモテると思うんだよね。」
「なのになんで?」
妹の極々当たり前の疑問。
「絢ちゃんがね、修行の時に理緒君に覚悟しろって言ったの。」
「理緒君震えながら「彼女達のためなら何だってします」って言ったんだって。」
「うちに来れば頭が痛くなる事だってもう判っている。」
「でも何の躊躇も無くやってきて、それでも自分から頭が痛いなんて一度だって言わない。」
「自己犠牲とかそういう事?」
「本人は犠牲だなんて思ってないでしょうね。」
「ああ判った。お人好しってヤツだ。何だキズナ兄ちゃんと一緒だ。それじゃ仕方ないなー。」
「そう。だから目を離すと危ないのよ。佳純ちゃんも見張っててね。」
「うん。判った。任せて。」
僕は神社の階段を降りて公園に行った。
そこで「右側通行」の立札を持って立つのが仕事。
ありがたい。ここなら神社の影響を受けずに済む。
寒いけどドラム缶の焚火がある。公園にはトイレもある。自販機もある。
まだ22時なのにもう行列ができ始めている。凄い神社なんだな。
恐ろしい事にその行列は翌日の夕方まで続いた。
途中何度か交代してもらい食事を摂ったが
それでも元日の殆どを公園で立って過ごしていた。
知らない人に何度「おめでとう」と「お疲れ様」を言われただろう。
その度に「おめでとうございます。」「足元お気を付け下さい」と返す。
この日だけで
「今までの他人との会話の総数」
を超えたに違いない。




