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帰り道、突然友維が
「葵ちゃんと結婚するの?」
は?
「その約束してたんじゃないの?」
そんなんじゃないよ。
少々葵さんをからかってやろうか。この前の罰だ。
娘を押し付けてゴメンねって言われたんだ。
おねしょとかしてない?夜泣きとかしてない?
あの子ったらちゅが
「うわああっホントにそんな事言ったのかよっ。」
覚悟はしていた。
葵さんは学校終わりで病院に寄って、
「貴女だって大変なんだからいちいち寄らなくてもいいのよ。」
「理緒君と約束したの。卒業式には必ず出席するって。」
「だからそんなに心配しないで。」
と、毎日のように言われたと教えてくれた。
覚悟はしていた。
僕も、皆も。その日がいつ来てもいいように。
日に日に弱る母を見るのはどれほど辛かっただろう。
いやだからこそ「やっと苦しみから解放されたんだ。」と思えるようになったのかも知れない。
それでも愛する人がいなくなる現実を受け入れるにはかなりの時間を要する。
「父がいるから。その面倒見るのが大変だよ。」
強がりでもそう言って笑った。
「それにかわいい妹がいる」と友維の頭を撫でる。
「超恰好イイ姉もいる。」と紹実さんを見る。
「産まれた日も母親も違うが三つ子の姉妹2人がいる。」
「私には家族がまだこんなに居るんだ。」
渡良瀬葵の母親の告別式には他の魔女は殆どいなかった。
「母は魔女で有る事をあまり言わなかったから。」
「私が小さい頃にした事を母が気にして、魔女を捨てようとしてたくらいだから。」
「でもこの前言われたんだ。あなたを魔女にして良かったって。」
「私は魔女だ。この先何があってもそれを誇って生きる。」
で、その先ってのは具体的に何か予定あるの?
「心理カウンセラーとか心療内科とか。」
「言葉で人を癒せるようになりたい。」
何て素敵な目標なのだろう。
「理緒。疲れたらいつでも来いよ。」
だがまだこれは少し先の話。
碓氷先生は僕と友維も一緒に魔女を呼び出した。
渡良瀬葵が接触していた製薬会社と委員会を利用して
全容を掴むことに成功していた。
「渡良瀬がそうなるように仕向けたのは私だ。」
「どうしてそんな事を。」
「黒幕を炙り出すため」
「やっていい事と悪い事があるでしょ。」
「判っている。だから私は罰を受ける。」
「いいか、渡良瀬は何も知らずにやっていたんだ。」
それは嘘だ。
碓氷薫は全ての罪を1人で背負うつもりでいる。
「黙ってろ。」
頭に直接声が響いた。
「私はお前達が卒業したらそれまでの関係だ。だがあいつらは違う。」
「友としてこれからも付き合いは続く。」
「渡良瀬を孤立させるな。」
だからって先生が全部被らなくても。
「敵が必要なんだよ。理緒。お前なら判るだろ?」
「だから黙ってろ。」
でも。でもそれじゃあ。
「お前が判ってくれればそれでいいよ。」
いや僕が言いたい事はソレじゃない。ちょっと話をさせてくれ。
「どうしてそんなすぐバレるような嘘吐くの?」
蓮さんが口を挟んだ。
「何?」
「その件なら葵ちゃんが全部話してくれたわよ。」
「何で。そんな事したら葵の母親が。」
「知ってるわよ。策士ってわりに情報遅いわよ。」
僕達は昨日の件を全て報告した。
「そんなんお前らが教えてくれなきゃ判るわけないじゃん。」
「ああこれがヤキが回ったてヤツかなぁ。」
「もう賢者って呼ばれるのもおこがましいから神流川にやる。」
「いらないわよそんなの。罰ゲームじゃない。」
「罰ってなんだ。」
貰っておけるものは貰っておこうよ。
「全く、理緒君の病気が伝染でもしたんですかね。」
「私は嬉しかったよ。ありがとう先生。」
卒業しても会いに来ますからね。
「何よ。そんな事言ったの?人のこと巻き込んでおいて他人面させないわよ。」
「ヤバイ。泣きそう。」
「泣くなら帰ってってヨシノンの胸の中にしてください。」
「ヨシノンて言うな。」
「ヨシノンと仲良くしなさいよ。ホント勿体ないわ。」
「勿体無いって何だ。」
えーっと盛り上がってる最中申し訳ない。それで肝心の黒幕は掴めたの?
「おうっ」
「うそっ凄いじゃない。やつぱり策士は薫ちゃん持ってて。」
「そんな簡単に。」
欧州の委員会は解体されたのは言ったよな。と自慢したので
先生が解体させたんですよね。と煽てた。
「ふふん。」
あからさまに喜んだ。ノせると面白いなこの人。
簡単に説明すると、「委員会」は全く逆の組織へと改編された。
所詮「お役所の部署」なので自分達が何をやっていたか。は問題ではない。
上から「そうするように」と言われた事をやっていただけ。
だから逆の指示にも大半の職員は従う。
問題は指示を出していた側。
製薬会社からの出向。
「その製薬会社がちょっと面倒でな。」
「委員会」を失った製薬会社は同名だが別物だった日本の委員会に目を付ける。
(その橋渡しがセンドゥ・ロゼであったり利根先生だった)
日本の委員会はは既に独自の組織体系を確立している。
末端ではあるが国として、政府としての一機関。
表向きには日本の「委員会」が製薬会社を管理する立場にある。
しかしこの団体を管理する組織は存在しない。
さらに小規模な組織だからこそ、管理は徹底していた。
接触には第三者、第四者を介し、その委員会の首謀者は
利根先生にも掴めずにいた。
「委員会」は誰の指示で動いているのか。
事態が動くのは欧州の委員会の解体の報せを製薬会社の本社の役員が持ち込んでからだった。
日本の委員会に、欧州委員会の中枢を持ち込み、一元管理を試みた。
反発したのは日本の委員会のメンバー。
そしてここからが碓氷薫の本領発揮。