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Kiss of Witch  作者: かなみち のに
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「判っていたんだ。」

「それでも私は誘惑に負けた。」

「本当に、申し訳ない。」

「明日にでも、ここを引き払います。」

「何を言ってるの?まだ終わって無いのよ?途中で逃げるとかずるくない?」

「私はお前達を本気で」

「ただの姉妹喧嘩じゃないですか。」

「そうよ。私が長女ね。」

「何言ってるんですか。長女は私でしょ。」

そう言えば皆長女みたいだよね。

「みたいじゃなくて実際そうなんですよ。」

「理緒君て長男のくせに弟みたいよね。」

「弟って言うより妹みたいですけどね。」

「だから私達3人の姉が面倒見ないと。」

「私達2人に押し付けて自分だけ逃げるとかさせませんよ。」

「はっはは。」

渡良瀬葵が笑いながら泣いている。

「うん。ごめん。判ったよ。ごめん2人共。本当にごめん理緒。紹実さん。ごめんなさい。」

違うよ

ありがとうって言うんだ。

「うん。ありがとう。ありがとう。」

「よしっ。仲直りしたところでチョット出掛けるか。」

出掛けるって何処へ。

「葵の母ちゃんの転院。」

そうだ。見張りは居なくなったが人質的な状態に変わりは無いんだ。

僕も魔女も立ち上がる。

「待て待て。葵だけでいいよ。事務手続きだから。」

そう言って2人で出掛けたのだが帰宅した葵さんは

「あんなに怖い紹実さんを見たのは始めてだ。」と震えた。

転院を巡って相当待たされた挙句、手続き上の不備があり

葵さんの母親は「入院していない」事になっていた。

それに紹実さんがとうとうキレた。

葵さんの怯えように僕も怖くなって詳細は聞いていられなかった。


友維が帰宅する。いつもと違う雰囲気。紹実さんと葵さんがいない。

僕達はさっきまでの姉妹喧嘩を語る。

「それで、葵ちゃんのお母さんて。」

今紹実さんが手続ききしてるよ。知り合いの病院に

「いやそうじゃなくてさ。その、容態。」

三か月もつかどうか。

見付かった時は既に数ヵ所に転移。外科的な手術は不可能。

抗がん剤と放射線治療を行っているがまだ若い事もあり進行が速い。

「バカな事考えるなよ?」

考えるなって言われても無理だよ。

でも葵さんにも止められたから大丈夫。

それに以前友維に言われたからね。

「何か言ったっけ?」

勝手に死ぬなって。そうしたくなったら先ず友維に相談するから。

「はぁあそうしてくれると本っ当に安心する。」

うん。

それで、葵さんのお母さんのお見舞いに行こうと思う。

「うん。付き合うよ。」

辛いぞ。

僕は祖母の死を見ている。今でも、多分これからもずっとあの暑い日を忘れないだろう。

友維は身近な人の死に接した事があるだろうか。

あの感覚は体験しないと判らない。

近い人が亡くなると、自分の一部がその人に持って行かれる気がする。

同時に、その人の一部が自分の中に入る。感覚ではない。実際にそうなる。

それがあるからこそ、人は身近な人の死を何とか乗り越えられるのだと思う。

大きな喪失感はある。だが0ではない。小数点以下かも知れない小さな点が確かに残る。


この前葵さんのお母さんに会ったのは夏休みだった。

若くて、綺麗で、「お母さん」と言うより「お姉さん」と言えるくらい素敵な女性だった。

たった半年前の事。

痩せ細った姿を見て、心が張り裂ける音が聞こえた。

涙が零れるのを堪えるのが大変だった。

どんな言葉がかけられる?

指輪を譲ります。と何度も言い掛けた。

待ってますから。

治って、退院して、葵さんの卒業式には出席してくださいね。

「そうね。花嫁姿だって見たいし孫だって見たいもの。」

「この人はダメですよ。私のですから。」

「あれ?葵の話だと理緒君は葵に惚れてるって。」

「うわぁっ言ってないよそんな事っ。」

こんな葵さんを見るのは始めてた。


かなり長い事話をして帰り際、

「申し訳ないけど、理緒君と2人で話をさせてもらえないかしら。」

他の魔女達は談話室で待つ。

僕に何か頼みごとですか?

「思った通り。勘のイイ子ね。」

「理緒君は私が長く無いのを知っている事も判っているわね?」

はい。

覚悟をした者の目だ。僕はもう堪えきれず涙を零してしまった。

「でも葵には言わないでね。私は騙され続けるから。」

判っています。絶対に言いません。

「葵をよろしくね。」

彼女は僕の涙を拭いながら言った。

「結婚して幸せにしろって言ってるんじゃないわよ。」

「まあそうしてくれると嬉しいけど。理緒君の都合もあるでしょうから。」

「あの子、小さい頃に辛い事があって、あまり人に心を開かなかったの。」

「最初もね、あの子断るつもりだったのよ。」

「社会勉強だと思って行きなさいって無理矢理押し付けたけど。正解だったわ。」

「理緒君には迷惑だったかも知れないけどね。」

いえ。僕も葵さんと出会えてよかった。何度も助けてもらって。

「うん。」

「それで、お願いがあるの。」

僕に出来る事なら。

「あの子を見守っていて。理緒君が見て間違ってると思ったら言ってあげて。」

「あの子理緒君の言う事なら聞くから。私からも言っておくから。」

僕の判断に任せなくても、葵さんなら間違った方向には進まない。

それは自信を持って言い切れる。

「でも世界は誘惑で溢れている。他人に付け込む悪意も満ちている。」

「理緒君の側の子で居させて欲しいの。」

「私は魔女である事を捨てようとした。あの子を魔女にした事で、あの子を苦しめて。」

「でも理緒君はあの子が魔女である事を誇らせてくれた。」

「だからお願い。理緒君。あの子が間違った道に進みそうだったら。」

判りました。約束します。葵さんが魔女の誇りさえ捨てようとしたら

その時はどんな事をしてでも止めてみせます。

きっとこの人は、娘のしでかした全てを予想していた。

そしてそれが実行された事も察知している。

「これで心残りは無いわ。安心して」

ちょ、チョット待ってください。

僕には貴女の苦しさや辛さが判らないから勝手な事を言います。

孫はともかく花嫁姿くらい見てください。

「判った。頑張る。」


せめて、せめて卒業式まで。

言いかけた言葉を飲み込むと、また涙が溢れてしまった。


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