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「あ、起きた。」
「まったくいつもいつも。ちょっと簡単に意識失い過ぎですよ。」
ごめん。
「無理もない。この俺の動きを止めた。」
吸血鬼がフォローした。
「止めたって。うそ。どうやって。」
紹実さんが驚いた。
「腕だけだが動きが封じられた。」
センドゥ・ロゼは嘘を吐かない。
「どうやったの。私だってあの時出来なかったのに。」
どうって、判らないよ。
まだ少し頭がぼうっとしている。頭痛は無いが、重い。
「そう言えば紹実さんはこの吸血鬼をどうやって燃やしたんです?」
「ホントですよ。燃やしたって聞いたのに全然燃えないじゃないですか。」
「あの時は雨降っててそれを凍らせて身体に刺してそれを燃やしたから。」
「ナニソレ怖っ。」
「忌々しい。」
僕が気絶したのは「過剰な負荷」によるものらしい。
魔法なんて使わない僕が突然高出力で使用した。
身体が追い付かなかっただけだ。要はただの疲労。
葵さんの吐血も、詠唱で喉が傷付いただけだと聞いて安心した。
「お人好しも大概にしてくださいね。」
「ホントよ。」
藍さんと蓮さんに殴られた。
ごめん。
あの時僕が葵さんは何もしない。なんて言ったから2人も傷付いた。
それで、葵さんは。
「今ハーブのお風呂に入ってる。彼女が出たら理緒も入るのよ。」
「一緒に入りたいっんなら止めないけど。」
この人は何を言っている。
葵さんが居間に現れた。何も言わず、目を伏せて。
「理緒、お風呂入ってこい。」
「葵はそこ座れ。」
紹実さんはお茶を淹れてる。
「さて、じゃあ俺はアイツらを捨ててくる。」
あいつら?捨てる?
「心配するな。ツグミが記憶をごそごそした。」
「自分でやれよな。」
「俺がやったらどこまで消えるか判らん。」
「理緒、入浴前に手伝え。」
吸血鬼は僕を呼んだ。何か話があるのだろう。
「許せるのか?」
許すも何もありません。彼女を焚き付けた何者かがいる。
「判っているじゃないか。予想もしているな?」
予想と言う程のものじゃありません。きっと正解でしょう。
日本の委員会。
僕が知りたいのはそのきっかけ。
焚き付けられて、それに乗った理由。何か事情がある筈なんです。
そうしなければならない理由。
見張りが居た事からも判る。彼女は脅迫されている可能性が高い。
「お前のその見えない部分を見る能力は評価する。」
「だが見えたところで、触れたところで」
「その先が希望の光に溢れているとは限らない。」
「俺の生きた世界では暗闇の先にあるのはやゆはり暗闇だった。」
屋敷の前で、彼は「ここでいい」と足を止めた。
「お前はお前の出来る事だけをしろ。」
忠告した直後、彼はとても厳しい顔をして舌打ちしてから去った。
「何で俺がこんな役目を」
ブヅブツ言っているが最後まで聞き取れなかった。
あ、ありがとうございます。
聞こえただろう。彼は吸血鬼だ。耳もいい。
皆は僕がお風呂から上がるのを待っていてくれた。
「さて。と。理緒、お前が聞くか?」
うん。話せる範囲でいい。事情を聞かせてほしい。
話してしまうと、誰が傷付いてしまうのか。
「母が。」
渡良瀬葵は静かに、ゆっくりと話始めた。
末期癌。
それは僕にも僕以外の誰にとっても重く、辛い宣告。
指輪を手に入れても、彼女の母は助からない。
「病気が治る」のではない。現状を維持するだけだ。
つまり、苦しむ時間が長くなるだけの事。
渡良瀬葵はその事を知っている。
それでも縋るしかない。
「今はダメでも明日治療法が見付かるかも知れない。」
「生きてさえいれば、回復するかも知れない。」
そのためにはやはり指輪を手に入れよう。
理緒に頼めばは譲ってくれるかも知れない。
だが他の魔女達が大人しくし渡すとも思えない。
魔女達を黙らせる必要がある。どうすればいい?
「元々は、委員会の一人が私に接触してきた。」
裏切り、指輪を手に入れ、他の魔女達を「狩れ」。
「勿論断った。痛い目に合う前に失せろと帰らせた。」
数日後、その男と共に2人の女性が現れる。
「製薬会社の研究員だと言った。1人は外国人だった。」
「そいつらは理緒の指輪の事を話した。」
賢者の石
長寿と祝福が約束された指輪とも呼ばれるそれは、
魔女達の祈りと願いが込められた貴重な指輪。
命そのもの。
「お母様の病気も治せるかも知れない。」
渡良瀬葵の母親は、その製薬会社の経営する病院に転院させられる。