4.地味眼鏡令嬢の誕生
昼頃、レイシアは、王立図書館から魔方陣に関する本数冊と城下で流行っている小説数冊を持って帰宅した。
「ア○ゾンがあれば、わざわざ出掛けなくていいのに……」
「レイシア様、ア○ゾンとは何ですか?」
しまった、声に出してた。
「何でもないわ」
「……そうですか。あっ! そういえば」
待女が手をパチンと鳴らす。
どうやら、父の仕事が早く終わった為、一緒に昼食を食べることになったらしい。
「わかった……急いで行くわ」
本たちは、しばらくお預けのようだ。この世界、唯一の娯楽なのに(泣)
バルコニーのテーブルでは、両親と弟ロイドが楽しげに食事していた。
いや、ふつう数日でこんなに仲良くなれるか?
……まあ、幸せそうならいいか
「お帰り、レイシア! 我が天使よ。こんな可愛く美しく、心優しい子が私の子だなんて、幸せ者だな私は」
父バルドの親バカっぷりは、ここ数日でさらに悪化している。
「……ただいま」
ここ数日間、ありとあらゆる誉め言葉に苦しめられた。
引きこもりの豆腐メンタルは、もうズタボロですよ。
「そういえば、レイシア。王立図書館に行ってたんだってね!」
「うん……メリッサに聞いたの?」
待女の報告速度早いなぁと感心していると、父バルドが首をかしげた。
「いいや、メリッサからは聞いてないよ」
えっ……では、なぜ?
城内で働いているからか?
いや、仕事してて知り得るものなのか?
レイシアが困惑の表情を浮かべるのを見て、父バルドが楽しげ笑う。
「ハハッ、簡単な事だよ。レイシアが頻繁に図書館を使うから、城内で図書館に現れる美しい天使として噂になっているんだよ」
レイシアの顔から血の気が引く。
マジか、目立ってたなんて……
元来、引きこもりで注目されるのが苦手なレイシアにとって自分の行動が噂されているなんてたまったもんじゃない。
悪夢だわ。
「今度から変装して行く……」
突拍子もないレイシアの発言に、一同が笑った。
「そうか! レイシアは面白いことを考えるね」
「フフッ、姉さんは、やっぱり変わってるよ」
周囲からしてみれば、その美しい容姿や図書館での勉強の姿が注目を浴びるのは、公爵令嬢として婚約にも有利である。にもかかわらず、変装して行くなんて。
とても、変な答えに驚きとレイシアという少女の欲の無さに、周囲は愛しさを感じた。
そうして、昼食は終わった。
部屋に戻ると、すぐにレイシアは妖精を呼び出した。
「精霊、髪の色を変えたいのだけど……」
(出来るけど、色によるわ。黒や茶髪には魔法で変えられるけど。その他の色は無理ね)
水の精霊が、スラスラと話す。
「どうして?」
(生まれ持った色を大切に出来るように、精霊王が出来ないようにしたの)
「黒や茶髪はいいの?」
(多くの人がその髪色だから、差別がないでしょ)
「なるほど……」
魔法でも、精霊王の取り決めによって出来ないことが多い。目の色に関しては、変えられるが目が悪くなるらしい……カラーコンタクト的なことか?
「とりあえず、茶髪にしてお下げにしようかな」
茶色にした髪を二束に分けて、編んでいく。
「レイシア姉、いる?」
部屋をノックする音が聞こえた。
どうやら、弟ロイドらしい。
「いるよ、どうしたの?」
部屋を開けて入ってきた、ロイドが驚く。
「えっ!レイシア姉の綺麗な髪が……」
あまりの驚きに言葉を失っているロイドに声をかけた。
「地味に見える?」
「……いや……まあ、茶髪になっても姉さんは
綺麗だよ。
というか、何やってるの?」
まあ、ごもっともな質問である。
「目立つから変装しようと思って……」
「あー、昼間の… 本気だったんだ」
「まあね。でも、あんまり意味ないんじゃ仕方ないわね……」
残念、別の手を考えるか。
すると、ロイドが「少し待ってて」と言い残し部屋を出た。
数分後、戻ってきたロイドの手には瓶の底のように分厚いレンズの眼鏡が握られていた。
目が隠れる良い眼鏡だった。
「その眼鏡どうしたの?」
「……秘密」
照れたように、ロイドが笑らった。
(失敗さくだ~)
光の妖精がささやく
「何の失敗作?」
「っ!……妖精から聞いちゃダメだよ」
ロイドの慌てる様子を見て、妖精たちは楽しそう笑いながら消えていった。
結局、この眼鏡は何の失敗作かは分からなかった。
その夜、レイシアは地味眼鏡姿を両親に見せたが「可愛い」と言われるだけであった。
んー、面白がられているだけの様な気もする。