2人目1
セルレイン共和国はルンデル国を滅ぼした。
と言っても、電撃作戦で軍と首脳陣を落としただけだから市民の生活にほとんど影響はないだろう。
当初の目的であったスピオレの解放は速やかに行われた。にも関わらずかなりの数のスピオレが見つからずにいる。
共和国は引き続きの調査を約束してくれたが、正直潮時だろう。
解放されたスピオレ達は共和国の所有物という名目で、国家公務員のような待遇で働くことになる。
未だに世界はスピオレに対する差別が蔓延っており、スピオレ自身奴隷以外の生き方を知らない以上こうするしかなかったのだ。
それもやっと一息つける段階に来た。
俺は矢那…はるなの部屋の前に来てノックをする。
「はい。」
声とともにアリスが部屋を開けてくれる。
「来てくれたんだ。」
中に入ると、はるながベッドから起き上がるところだった。
寝巻き姿なのが気になるのか、袖を意味もなく引っ張っているところがかわいい。
じゃなくて
「うん。今日の訓練は終わったから。」
そう言いながらベッドに腰かける。
もうなれたものだ。
「お疲れ様、純一君。」
はるなもそんな俺のすぐ隣に座ってくれる。
ルンデルの戦いの後、俺達は恋人同士になった。
はるなが弱ったところにつけ込んだようでいい気はしないが、それほどに今のはるなは危うかった。
あの戦いが終わって、はるなはほとんど自室から出てこなくなった。
彼女自身塞ぎ込んでいるせいもあったが、城全体に漂う空気のせいでもあった。
「てめぇは今日仲間を殺したんだ。」
キョウカの言葉を思い出す。
あの戦いではるなは戦わなかった。その結果、味方の被害は増えた。
それを彼女のせいにするのは酷な話かもしれないが、死んでいった兵士やその家族からすれば恨み言の一つも言いたくなる気持ちはわからないでもない。
今の城は彼女にとってアウェーだ。口に出さなくても、みんなが
「聖女様が戦ってくれていたら」
と思っている。
俺が隣にいるのもマイナスに働いてしまっている。俺が下手に活躍して勇者として評価されているがためにその隣にいる彼女への目は際立つ。
そして、彼女は人目につくのを避けるようになった。
「アリス、勉強はどう?」
今のはるなはもっぱら部屋でアリスに初等教育を施している。
「今日は算数を勉強しました。かけ算は難しいです。」
「そっか。頑張ってね。」
そのおかげでアリスの知力は格段に向上している。特に喋ることはもうその年の子供として遜色ないところまで来ている。
「後は歴史ね。こればっかりは。」
と、はるなが肩をすくめる。
俺達は異世界人でこの国、いやこの世界には疎い。歴史なんて全くわからない。
算数や理科のようにはいかない。
「あ、そうだ。なら、はるなの話を聞かせてくれないか?」
「私の?」
「そうだよ。魔王を倒した勇者たちの話。それなら歴史の勉強にもなるし、アリスも退屈じゃないだろう?」
いい考えだと思った。俺は勇者として扱われているけど、昔の勇者のことも知らないし。
はるなの昔のことも、今なら少し踏み込むのも許される気がした。
「いいけど…自分で一から話すのは難しいわね…。」
少し照れたような苦笑いは嫌がってる様子じゃない。
「だったら、本かなにかを読んでもらおう。勇者の伝説なら、物語にもなってるだろう。」
「えっ…。で、でも…。」
「大丈夫だよ。」
「それで、私というわけですか。」
次の日、同じようにはるなの部屋に俺たちは集まった。
読み手として、エリに来てもらった。
「なんでアタシまで。」
扉にもたれながらキョウカが愚痴る。
俺の部屋に来るときは速攻ベッドに寝転ぶ癖に、今日は部屋の入り口で動かないでいる。
これは遠慮しているのか、馴れ合う気はないと意思表示しているのか…後者かな。
「キョウカのご先祖様も出てくるんだろ?一緒に聞こうよ。」
というのは建前で、なんとかはるなとキョウカを仲直りさせたいんだが…。
「けっ…。」
舌打ちをする割に部屋から出ていかないあたり、キョウカとしても思うところはあるのかもしれない。
「私も暇という訳ではないのですが…。」
「あの、エリ?忙しいなら無理にとは…。でも、エリが語ってくれるなら嬉しいわ。」
「構いませんよ、はるな。私も少し手が空いていたところですから。」
おい、さっきの台詞と言ってること違うぞ。
「では、始めるとしましょうか。」
エリは持ってきた本を開き、語り始める。
たった百年前の伝説を。




