第14話:裏切りの白銀と、絶対者の洗礼(前編)
大理石の寝台の上で、王国の聖騎士団第三部隊隊長エレナ・オルトリンデの肉体は、激しく脈打つ熱に支配されていた。
死の瘴気によって完全に死絶しかけていた彼女の細胞は、セトが投与した『星の果実』の液状マナを養分として強制的に再構築され、以前とは比較にならないほど高純度な肉体へと変貌を遂げつつあった。
「はぁっ……はぁっ……あぁっ……!」
長い金色の髪を乱し、エレナは苦悶と甘美な快楽が入り混じった吐息を漏らす。
彼女の胸元、かつて王国の白銀の鎧を固定していた硬質な革ベルトの隙間から、黄金色の幾何学模様――セトの魔力紋が浮き彫りになっていく。それは彼女の魔力回路の根底をセトの支配下へと完全に書き換える、逃れられない隷属の刻印であった。
「目覚めたか、王国の聖騎士よ」
威厳に満ちた低音が、朦朧とするエレナの意識を現実へと引き戻す。
視界の端に映ったのは、黒髪をなびかせ、絶対的な支配者の笑みを浮かべるセトの姿だった。その傍らには、先ほどまで彼女が死にかけていた荒野の果実を手に持ったフィアナと、心配そうに覗き込むミリアの姿がある。
「私は……生きている……? どうして……あんな致死量の瘴気に飲まれて、私は確かに……」
エレナは震える手で自身の胸元を押さえた。
そこにあったはずの冷たい鎧はすでに剥ぎ取られ、代わりにセトのマナが直接流れ込む熱い肉体が脈打っている。王国のために命を投げ出し、上層部に裏切られて見捨てられたはずの自分が、なぜこの男に救われているのか。彼女の理性が混乱の声を上げる。
「感謝するのだな。お前が死の淵で纏っていたその誇り高い騎士の誇りも、国への忠誠も、すべて俺の魔力によって拾い上げられた」
セトは有無を言わさぬ力強さで、エレナの顎を掴み上げて己の顔へと引き寄せた。
「なっ……! 放してください……私は、王国の騎士……国を守るために……!」
エレナはかろうじて気高さを保とうと声を絞り出すが、その身体はセトの指先から伝わる微弱なマナの余波だけで、甘い痺れに捉えられてガタガタと震えていた。
「国だと? お前を死の荒野へ追いやった愚劣な王や貴族どもが、今さらお前を迎えに来るか。お前を救い、その肉体に新たな命と力を与えたのは、他ならぬこの俺だ」
セトの傲慢で絶対的な言葉が、エレナの脳髄に直接突き刺さる。
彼女の心の中で、王国への忠誠という名の硬い殻が、ミシミシと音を立てて亀裂を入れていく。国のためにすべてを捧げた結果が、あの冷酷な裏切りと死の灰だったという現実が、セトの圧倒的な存在感によって容赦なく突きつけられる。
「あぁっ……そんなの……私は、ただ、民を守りたかっただけで……っ」
「ならば、俺の領地で新たな誓いを立てるがいい。お前のその剣も、その肉体も、今日からすべてはこの俺の所有物だ」
セトは容赦なく自らのマナをエレナの体内に送り込み、彼女の最奥にある魔力核を直接刺激した。
「ひぅっ……ひぐっ、あ、ぁぁぁっ……!? からだの、おくが……熱くて、頭が真っ白に……っ!」
エレナの口から、聖騎士としての尊厳を完全に打ち砕くような淫らな嬌声が漏れ出す。
彼女の瞳から大粒の涙がこぼれ落ち、その気高い精神は、セトが与える絶対的な快楽と支配の前に抗う術もなく屈服させられていった。
王国の汚れなき白銀の剣と謳われた女騎士は、今やこの死の荒野の王の手によって、完全に雌としての陶酔へと溺れ始めていたのだった。
フィアナはその様子を冷静な、しかしどこか熱を帯びた瞳で見つめながら、自身の魔導デバイスを操作してエレナの生体反応を記録する。
「魔力回路の同調率、九十五パーセント……。王国の騎士としての理性が崩壊し、セト様への依存回路へとスムーズに書き換わっていますわ。……素晴らしいデータですわね」
「うんっ! 新しいお友達が増えて嬉しいな! ねえセト、この人も早くあたしたちみたいに、セトの熱いのをもらっちゃえばいいのに!」
ミリアが銀色の尻尾を嬉しそうに揺らしながら、ぐったりと震えるエレナの髪を優しく撫でた。
セトは震えるエレナの身体からゆっくりと手を離すと、冷徹かつ圧倒的な包容力を湛えた瞳で彼女を見下ろした。
「怯えることはない。お前が持っていたすべての絶望を、俺が快楽と力へと変えてやろう。この城塞の中で、お前は俺の新しい伴侶として生まれ変わるのだ」
セトのその言葉は、エレナにとって救済であると同時に、逃れられない絶対の命令であった。彼女の白銀の誇りは完全に砕かれ、いまや彼女の魂のすべては、この死の大地を支配する王の掌の上にあった。




