第10話:異端の叡智と、新たな誓約(前編)
死の荒野を覆う灰色の嵐は結界の外で無力に霧散し、仮小屋の中は穏やかな朝の光と、濃密な情事の余韻を孕んだ甘い芳香で満たされていた。
フィアナは深い眠りの底から、ゆっくりと意識を浮上させた。
彼女の理知的な頭脳がまず最初に感知したのは、全身を包み込むような圧倒的な『熱』だった。それは単なる体温ではなく、彼女の生命活動そのものを根底から支え、内側から燃え上がらせるような未知のエネルギーの奔流である。
「ん……ぁ……ここは……?」
フィアナは瑠璃色の瞳を瞬かせ、自らの身体を見下ろした。
昨日まで彼女の白い肌を無残に這い回っていた黒い死の瘴気は、完全に消え去っている。それどころか、異端審問官によって胸元に焼き付けられた屈辱の烙印すらも、黄金色に淡く輝く美しい幾何学模様――セトの魔力紋――へと変貌を遂げていた。
「信じられませんわ……。致死量の『灰のヴェール・ガルド』の瘴気が、完全に浄化されている……? しかも、私の魔力回路が、全く別の高次元な波形に書き換えられていますの……?」
フィアナは自らの震える指先で、黄金の紋様が浮かぶ胸元に触れた。
その瞬間、昨夜の狂おしい記憶が、彼女の脳裏に鮮烈なフラッシュバックとして蘇った。
自分の未熟な秘裂を容赦なくこじ開け、最も奥深い場所へと幾度も打ち付けられた硬く熱い肉塊。そこから注ぎ込まれた、致死量の毒を凌駕するほどの爆発的な生命の種子。
彼女の知識と計算では絶対にあり得ない、最も原始的で、最も野蛮な『交わり』という手段による強制的な魔力移植。
「あっ……あぁっ……!」
記憶を呼び起こしただけで、フィアナの下腹部がキュンと甘く疼き、引き締まった太ももの間から、透明な蜜がトクリと溢れ出した。
彼女は慌てて両脚を交差させ、真っ赤になった顔を手で覆い隠す。
「目が覚めたか、迷い子」
低く、しかし絶対的な支配者の響きを持った声が、仮小屋の奥からかけられた。
フィアナが弾かれたように顔を上げると、そこには昨夜、彼女のすべてを暴力的なまでの快楽で蹂躙し、そして救い出した男――セトが、腕を組んで立っていた。その傍らには、銀色の耳をぴこぴこと揺らしながら、優しく微笑む獣人の少女ミリアの姿もある。
「あなた様は……いえ、セト様……」
フィアナは毛皮のシーツを胸元で掻き寄せながら、ふらつく足取りでベッドから降り、セトの足元にその身を跪かせた。
王国最高の研究機関に所属していた彼女の誇り高い精神は、本来であれば誰の前にひれ伏すこともない。しかし、自らの命を救われ、何よりもその身体の奥深くにセトの強大なマナを刻み込まれた今、彼女の魂は本能的にこの男を絶対の主として認識し、激しい服従の歓喜に震えていた。
「わたくしは、フィアナ・アークライト。王立魔導院・第六技術局から逃亡してきた……元・筆頭研究員ですわ。昨夜は、わたくしのような者の命を救っていただき、さらに……あのように、濃密な……治療を施していただき、感謝の言葉もございませんわ……」
言葉を紡ぐたびに、フィアナの瑠璃色の瞳が羞恥と情欲に潤んでいく。
セトは彼女の黒真珠のような艶やかな髪に手を伸ばし、その頭を無造作に撫でた。
「命を救ったのではない。お前は俺の領地に入り込み、俺の魔力を受け入れた。つまり、お前の命も、その異端の知識も、今この瞬間からすべて俺のものとなったということだ。お前を追っていたという異端審問官が何者であろうと、俺の所有物を奪うことは決して許さん」
「セト様……っ」
セトの傲慢なまでの庇護の宣言に、フィアナの胸の奥底で、かつて感じたことのない強烈な安心感と熱い痺れが広がっていく。
王国では、彼女の技術は常に権力者たちに都合よく搾取され、異端と見なされれば即座に命を狙われる不安定なものだった。しかし、この規格外の魔力を持つ男の腕の中であれば、彼女はもう何に怯える必要もないのだ。
「フィアナちゃん、おはよう!」
ミリアが嬉しそうに駆け寄り、フィアナの手を両手で包み込んだ。
「セトの魔力、すごかったでしょ? あたしたち、これで一緒だね。セトにいっぱい愛してもらって、この世界で一番幸せになろうね!」
「あ……はい……。ミリア様も、昨夜はわたくしの手を握って励ましてくださり……その、ありがとうございましたわ……」
フィアナは少し戸惑いながらも、ミリアの純粋で温かな笑顔に頬を緩ませた。
セトは満足げに二人を見下ろすと、フィアナが背負っていた真鍮製の巨大な魔導機関――アーティファクト・ユニット――を指差した。
「フィアナ。お前がその背に抱えている技術、それが俺の『開墾』にどう役立つのか、見せてもらおうか。この荒野に王国を築くには、俺の農業魔術と生命力だけでなく、強固なインフラと防壁が必要になる」
「お任せくださいませ、セト様!」
フィアナはパッと表情を輝かせ、研究者としての誇りを取り戻したように胸を張った。
「わたくしのこの『魔導構築機』は、高純度のマナを動力源として、無機物の構造を瞬時に組み替えることができる画期的な発明ですの。王国の連中はこれを危険視しましたが……セト様が展開されているこの異常な濃度のマナ空間……『聖地創生』の力と接続すれば、木材や石材の確保すら不要で、強固な建築物を一瞬で錬成することが可能ですわ!」
フィアナは自身のビスチェに組み込まれた歯車を操作し、背中の機関を起動させようとした。
しかし、カチリと音を立てて魔力弁が開いた瞬間――彼女の顔からサァッと血の気が引き、代わりに異様なまでの紅潮が全身を駆け巡った。
「あっ……あぁんっ……!?」
フィアナはその場にガクンと崩れ落ち、太ももをきつく擦り合わせた。
「どうした、フィアナ」
「セト様……っ、申し訳、ありませんわ……っ! 魔力弁を開いた途端、わたくしの身体の中にある『セト様のマナ』が、外の『聖地創生』のマナと激しく共鳴してしまって……っ!」
フィアナの瑠璃色の瞳は完全に焦点が定まらず、蕩けきった熱を帯びている。
彼女の身体は、死の瘴気を抜くためにセトの極大のマナを直接注ぎ込まれたことで、完全に『セトの魔力に依存する体質』へと書き換えられてしまっていたのだ。魔力を使おうとするたびに、彼女の子宮の奥底に刻まれたセトの刻印が熱を帯び、絶頂にも似た快楽と、強烈な発情を引き起こすのである。
「はぁっ、はぁっ……熱い、ですわ……っ。お腹の奥が、ジンジンして……セト様をもっと、もっと感じないと、わたくし、おかしくなってしまいますわ……っ!」
フィアナは羞恥心を完全に打ち捨て、四つん這いになってセトの足元へと這い寄り、その逞しい足首にすがりついた。
彼女の衣服の隙間からは、尋常ではない量の甘い蜜が滴り落ち、仮小屋の床に水たまりを作っていく。
「ふむ……魔導技術の起動には、俺との『接続』が常に必要になるというわけか。なかなか手間のかかる道具だが、悪くない」
セトは冷酷な笑みを浮かべながら、フィアナの首輪のようなチョーカーを掴み、彼女の顔を強引に上へと向けさせた。
「ミリア、フィアナの衣服をすべて剥ぎ取れ。彼女の魔力回路が完全に俺の熱に馴染むまで、もう一度、たっぷりと教育してやる必要があるようだ」
「えへへ……うんっ! フィアナちゃん、一緒にセトの熱いの、いーっぱいもらうの!」
ミリアが楽しげな声で応じ、フィアナの漆黒のビスチェの留め具を次々と外していく。
「ああっ……ミリア様、だめ、そんなに見られたら……っ! でも、セト様……お願い、早く、わたくしの奥を……あなた様の熱で、いっぱいに満たしてくださいませぇっ……!」
フィアナの理知的な頭脳は、もはや魔導の計算式ではなく、セトが与える絶対的な快楽と支配の予測だけで埋め尽くされていた。
外の荒野で吹き荒れる冷たい嵐とは無縁の、狂おしいほどに甘く、熱い従属の儀式が、再びこの黄金の結界の中で始まろうとしていた。




