第76話 リアの決意②
自室へ戻ったリアはランプに火を灯すと、そのまま窓辺へ向かってカーテンを開いた。
差し込んだ月明かりが白い髪を照らし、両手でカーテンの端を掴んだまま、リアは窓の向こうへ目を向ける。
――リアちゃん、これ、お裾分け。ダンゲルさんと食べて――
(みんな笑顔で……。)
――リア。少し休んだらどうだ?俺達が見張ってるから――
(みんな……できることをしてくれてる……。)
――今日は大量だ!おいリア!一番デカいの持ってけ!――
月を見つめたまま、カーテンを掴む指にわずかに力が入る。
(私にできること……。)
――リアお姉ちゃん、私が大きくなったら私もまどうしになってお姉ちゃんと一緒に街を守るの――
指先から小さく震えが伝わり、リアはカーテンを握ったまま目を伏せた。
(私にできるのは……。)
――マーレ!リア!お前達は前に乗るんだ!前だけを見ろ!――
(お父さんとお母さんが私達を守ってくれたように……。)
――リア!走って!あなただけでも!大丈夫……私があなたを守るから――
伏せていた目をゆっくり上げると、月明かりが再び瞳に映り込む。
(姉さんと同じように……。)
そのまま月を見つめながら、リアはカーテンの端を握り直した。
(ハーベイの街を……みんなを……。)
「守るから……。」
翌日早朝、エディの家――
コンコン――
コンコン――
まだ薄暗い部屋の中で、ターニャのまぶたがわずかに動く。
「ん……。」
カツン――カツン――
今度は入り口のノッカーが鳴り、ターニャはシーツの中から顔を上げた。
(誰……?)
体を起こして窓へ目を向けても、外はまだ夜の色を残している。
(まだ夜明け前……。)
カツン――カツン――
再び響いた音にベッドを抜け出すと、そのまま階段を降りて玄関へ向かった。
「どちら様ですか?」
扉の前まで近づいて声をかけると、すぐ向こうから聞き慣れた声が返ってくる。
「おはようございます。リアです。」
(え……リア?)
「ちょっ、ちょっと待って。今開けるから。」
「はい。」
カチ――
ガチャン――
鍵を外して扉を引く。
ギィ――
開いていく隙間からリアの顔が見え、ターニャはそのまま扉を開けきった。
「どうしたの?まだ夜明け前……」
言い終えるより先に、リアが口を開く。
「おはようございます。マーベリックさんに昨日、明日対策を練ると言われました。」
「え……。」
「それと……マーベリックさんに話があるので。」
ターニャは一度小さく息を吐き、扉から身を引いた。
「入って。今、マーベリック呼んでくるから。」
「はい。ありがとうございます。」
「……。」
振り返りかけた足が一瞬止まり、ターニャは唇を噛んでからリアを居間へ通す。
「少し待ってて。」
「はい。」
その返事を背中に聞きながら階段を上がり、マーベリックの部屋の前まで来ると、ターニャは手を上げた。
コンコン――
「マーベリックさん。朝早くすみません。」
「どうした?」
扉越しに返ってきた声へ向けて、
「リアが来ています。マーベリックさんに話があると。」
「リアが?わかった。すぐ行く。」
すぐに返事があり、ターニャが離れようとしたところで再び声がかかる。
「ターニャ。」
「はい。」
「悪いがエディとウェンティも起こしてくれ。」
「はい。わかりました。」
コチ――コチ――コチ――
やがて居間には全員が集まり、大時計の音が続く中、リアはテーブルの向こうに座るマーベリックたちへ目を向けた。
「リア、悪いがこれは皆と共有しなければいけない。」
「はい。大丈夫です。」
リアがうなづくと、その正面にはマーベリックとエディ、ターニャが並ぶ。
「わしはリアの脇に座る。」
そう言ってウェンティが隣へぽむと腰を下ろし、リアの横にぴたりと収まった。
「それで、話というのは?」
マーベリックに促され、リアは小さく息を吐くと、膝の上に置いた手を見たあとゆっくり顔を上げる。
「……私が……蒼雷を撃ちます。」
誰も声を出さず、いくつもの視線がリアへ集まる。
「これは私の……意志です。」
その言葉を聞いたマーベリックが静かにうなづいた。
「自分で何かを見つけたのか?」
「はい。屋敷で街の人達と話しました。」
リアは一度視線を落としながら、途切れ途切れに言葉を続ける。
「私のことを……心配してくれてました。」
「みんな……不安で……。」
そこで顔を上げると、今度はマーベリックから目を逸らさなかった。
「でも……みんなこの街が好きなんです。」
「私も……この街が好きです。」
「リア……。」
すぐ隣から聞こえた声に、ウェンティの視線が横から向けられているのがわかる。それでもリアは前を見たまま続けた。
「また……元の生活に戻りたい。」
口にした直後、リアは小さく顔を横に振る。
「戻りたいんじゃない……戻したい。」
一度息を置き、まっすぐ前を見た。
「私は……ハーベイの魔道士です。」




