第58話 警鐘の鐘
三日後――
「ウェンティー、紅茶の葉を揉むの手伝ってくれるー?」
台所から聞こえてきたターニャの声に、居間でくつろいでいたウェンティがぱっと立ち上がる。
「わかった!」
返事と同時に台所へ駆けていく姿を見送り、エディが口元を緩めた。
「すっかり葉揉みはウェンティの仕事だな。」
「ああ。本人はよろこんでやってるからな。」
マーベリックもつられて笑う。
その空気を味わうように一息つくと、エディは腕を組んだ。
「なぁ……これから先、マーベリック達はどうするんだ?昨日ターニャと話したんだ。」
「俺達はお前達にずっとここにいてもらってもかまわない。」
「…………。」
マーベリックは視線を落としたまま静かに耳を傾ける。
「俺は、この外の世界を見て回りたい。」
「それにウェンティにも探し人はいるからな。」
ふっと笑みがこぼれる。
「ウェンティはもしかしたら忘れてるかもしれないが。」
エディが腕を組み直す。
「リクスとか言ってたな……。」
「ああ。俺は行く当てはないからな。ウェンティの人探しを手伝ってやりたい。」
「乗りかかった船だ。」
エディがゆっくり息を吐く。
「そうか……。それでも、またハーベイの街に、」
ゴオォォ――ン……
ゴオォォ――ン……
低く響く鐘の音が会話を遮った。
「!!」
「警鐘の鐘……」
エディが勢いよく立ち上がり、耳を澄ます。
「黒影か?」
マーベリックも窓へ目を向ける。
「なにごとじゃ!」
ウェンティとターニャが台所から駆け込んできた。
ゴオォォ――ン……
カンカンカンカン……
ゴオォォ――ン……
カンカンカンカン……
重なる鐘の音が家の中まで押し寄せる。
(警鐘の同時に避難鐘まで……)
「ターニャ!雨戸を閉めろ!」
「う、うん!」
ターニャが走り出すと、ウェンティもそのあとを追う。
「普通の警鐘とは違うのか?」
「ああ、避難鐘まで鳴るのはハーベイに向けて黒影が向かってる証拠だ。」
エディは手早く着替えながら答えた。
「俺は住人の誘導をしてくる!ターニャは屋敷に避難しろ!」
「マーベリックも屋敷に避難を……。」
「俺は外壁へ行く。状況をみたい。」
「……わかった。ダンゲルさんとリアも外壁へ向かうはずだ!」
雨戸を閉め終えたウェンティとターニャが居間へ戻ると、マーベリックはマントを肩へ掛けながら振り返る。
「ウェンティはターニャを連れてダンゲルの屋敷に行ってくれ。」
「お主はどこに行くんじゃ!」
ウェンティが真っ直ぐマーベリックを見つめる。
その隣では、ターニャも不安そうに二人を見比べていた。
「外壁に行く。」
「ならわしも!」
「ターニャを連れて屋敷に行くんだ。ターニャを1人にする気か?」
ウェンティとターニャの目線が重なり、
「……私は大丈夫。みんなと一緒に行くから。」
ウェンティはターニャからゆっくり視線を戻し、マーベリックを真っ直ぐ見つめる。
マーベリックはその視線を受け止めるように、静かにうなづいた。
「ターニャ、俺も誘導が終わったら屋敷に向かう。」
エディが入口を開けながら言う。
「うん。」
「マーベリック、気をつけてな。ウェンティも。」
「ああ。」
マーベリックがうなづく。
ゴオォォ――ン……
カンカンカンカン……
ゴオォォ――ン……
カンカンカンカン……
鐘の音が絶え間なく響く中、それぞれが自分の役目へ向かった。




