【第1回:懐中電灯と、止まった電気】
「実家の電気がついていないみたいよ」
近所の方からの電話を受け、夜道を飛ばして実家へ向かった。
「ブレーカーが落ちたか、設備の故障だろう」
高を括っていた私を待っていたのは、周囲の街灯からも見捨てられたように真っ暗に沈む実家だった。
連絡を頂いた近所の方にお礼を言って状況を確認してから
車から懐中電灯を持ち出し、暗闇の中に足を踏み入れる。
月明かりの中、父と母が力なく座っていた。
「電気がつかないのよ」と力なく言う。
テーブルの上には、食べ物の気配が無く生活感のない寒々とした空気が漂う。。。
最初にブレーカーを上げ下げするが反応がない。
電力会社に電話をかけて、私は言葉を失った。
「お客様、そちらの物件は料金滞納のため、送電を停止しております」
父は民生委員を務めるほど真面目な人間だった。
その父がいて、なぜ。
この時、私はまだ知らなかった。これが「認知症」というバグが、平穏だった家族のシステムを内側から食い破っていたサインだということを。
悲しみよりも先に、激しい「怒り」が込み上げた。
「なぜ、こんなことになるまで放っておいたんだ」
「なぜ、俺が今ここで、懐中電灯片手にあたふたしなきゃいけないんだ」
心の距離を置いていたはずの親の人生が、未払いの督促状の束と共に、ドサリと私の肩にのしかかってきた瞬間だった。
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