【第11.5回:独居運用の現場ログ ― デバイス活用と外部リソースによる冗長化】
第11回では母の独居運用の「決断」について触れましたが、その過酷な待機期間を支えたのは、試行錯誤の末に構築した「環境構築」と「外部リソースとの連携」でした。本編では語りきれなかった、現場のリアルな運用ログを補足として記します。
1. 通信プロトコルの更新(ケアマネジャーの変更)
独居運用を開始するにあたり、まず着手したのはシステムを支える「人」のインターフェースのアップデートでした。
「電話のみ」というブロッキング処理の排除:
初期の担当者は連絡手段が電話しかなく、仕事中に突発的に発生する割り込み処理(着信)に限界を感じていました。そのたびに会議を離席し、集中力を断たれるのは現役エンジニアにとって致命的です。
マルチチャネル化による運用効率の向上:
勇気を持って相談の上、担当を変更しeメール、SMS、そして最後はLINEによる非同期連絡が可能な方へ交代したことで、運用効率は劇的に向上しました。「人によってこれほど対応能力が違うのか」と痛感すると同時に、自分のライフスタイルに合ったパートナーを選ぶ重要性を学びました。
2. トラッキング・デバイスの二重化(AirTag × GPS)
次に、徘徊リスクへの対策として母の靴に2種類のデバイスを結束バンドで固定し、冗長性を確保しました。
Apple AirTag(右足): 防水・長寿命・低コスト。人が多いスーパーやイオン等や自宅(良く靴を家の中で移動してロストする)では極めて高精度ですが、iPhoneユーザーが少ないエリアでは更新が止まる弱点があります。当時のXの投稿(https://x.com/kazu555777/status/1756143106788061482)
専用GPS端末(左足): 介護リースで月額利用。広域検知に強く、ケアマネさんからの連絡時に即座に居場所を特定できました。ただし、2日に1回の充電が必要なため、デイサービス側にも充電の協力を依頼する運用フローを構築しました。
【結論】右足にAirTag、左足にGPSという「二重系」運用。それぞれの弱点を補完し合うこの体制が、位置把握のラストワンマイルを支えました。
3. 外部リソース(警察)との連携と「物理ロック」の導入
徘徊を未然に防ぐため、実家の門扉に「自転車用のダイヤル式ワイヤーロック」を導入しました。ここで重要だったのは、地元の警察官・中森さん(仮名)との合意形成です。
「言葉の暴力」と「真の理解」:
多くの警察官は真摯ですが、中には「警察はタクシーじゃない」「ちゃんと見てもらわないと」といった心ない言葉をぶつけてくる人もいました。行政に相談しても解決しない限界点を、理解しようともせず放たれる言葉は、もはや「暴力」でした。 しかし中森さんは違いました。自身も介護経験があった彼は、私の葛藤を自分事として受け止めてくれました。
リスクアセスメントと「調書」による保護:
門扉を施錠することが「軟禁」に当たらないか、私は自身の案を中森さんに相談しました。「庭が広く、火事などの万が一でも避難スペースがあること」「最悪、塀を越えて隣の敷地へ逃げられること」を現場で確認し、「軟禁ではなく、命を守るための安全重視の措置」であると判断いただきました。
さらに中森さんは「後で問題にならないよう、話した内容を本日の調書に残しておきます。何かあれば私の名前を出してください」とまで言ってくれたのです。
この対応があったおかげで、ギリギリまで母を無事に自宅で介護し続け、安全にプロの元へと送り届けることができたと断言できます。今でもあの時の対応には、感謝してもしきれない気持ちです。
なお、ロックの番号は家族と介護サービス事業所間で共有し、チーム全体で安全な運用フローとして確立させました。
4. 家族という最強のバックアップ(娘への感謝)
父が亡くなった後、大学生だった娘が祖母の介護に深く携わってくれました。 エンジニアとしての私一人の視点では「タスク解決」に偏りがちですが、彼女の存在は、母にとっての精神的な安らぎという、私には提供しきれない「ソフト面のリソース」を補ってくれました。家族というチームの中で、自ら役割を見つけてバックアップしてくれた彼女への感謝は、言葉では言い尽くせません。
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