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独裁者の姫 (一章完結!「表紙有り」)  作者: ジョンセンフン
一章 影の病
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第五十四幕

 互いに緊張が走る。中佐は、握っていた手に力を込める。大佐は、呼吸を整えると慎重に言葉を発した。


「…………紫だ。フォール中佐」


 中佐は、そっと力を抜いた。


「はぁ………… 良かった。正解だ」


 中佐は、緊張が解れたのか僅かに笑みを浮かべた。


「外部に出回る多くの肖像画は、高価な紫の染料を避ける為、代用として、黒の染料が使われている。故に、貴族もしくは直接陛下の姿を拝見した者しか、その本当の色を知らない…… もう良いだろうアング・マルク上等兵、姿を見せてやれ」


 すると、フードを被っていた人物がフードを外す。そこには、周りの兵士と同じく武装を施した男が姿を見せた。その姿は、とても一国の王子には見えない。


「騙したのか? フォール中佐……」


「騙せたのか? ファル・ノワール大佐……」


 大佐は、そっと握っていた手を離した。


「何人だ? まだ、木陰に何人か隠れているのだろう? 何人いるんだ?」


 中佐が言うと、大佐は片手を顔の横まで上げた。


「総員…… 武装を解除…… 姿を見せてやれ」


 すると、大佐の言葉に応えるかのように、次々と木陰に隠れていた兵士が姿を現す。


「十五人…… そちらは?」


 中佐もまた、片手を上げる。


「総員武装解除。表へ……」


 隠れていた海軍兵が続々と姿を見せる。


「倍の…… 三十だ。それと…… 一名か」


 中佐の背後からローブを羽織った人物がゆっくりと、歩み寄る。


「特段、伝える必要性も無いと思うが、無礼の無いように。それと、万が一にも、この方に危険が生じた場合、何人の犠牲を払おうとも、宮殿まで、お守りするように、とのことだ」


「もちろんだ……」


 大佐がそう言うと、中佐は徐に薄汚れた一冊の軍隊手帳を手渡した。


「簡単な道のりじゃ無い。後は任せたファル・ノワール大佐…………」


 中佐が、後退するとローブの男が、その青い瞳を大佐に向けた。


「ベルク王国第一王子…… ザラク・マブロイと申します。以後、お見知り置きを」



 ——



 ふと目が覚めた。最初に映ったのは、もう見飽きるほど目にした天井。閉じた窓からさす太陽の光が朝を知らせる。


「寝ないつもりだったんだけど…… 疲れてたし、しょうがないか……」


 姫は、ベットから身体を起こすと、枕の下に手を入れる。探るように一冊の本を手に取ると徐にページをめくった。


「六月二十八日、本日は早朝から隣国のベルク王国よりザラク・マブロイ第一王子が我が娘と会談を行うため帝国へ来訪される。本会談では、冒頭にイザベラの口からミーシャの死を伝え新たにリアナとの婚約関係を構築する…… なるほど……」


 姫は、静かに本を閉じた。


「そんな予定。何も聞かされていないのだけど………… そっか…… ミーシャがまだ生きているから予定が狂ったんだ。流石に、王子との会談を前日までに知らされないのはおかしい…… もっとも、第一王子との会談を突然破棄することは無いと思う。だとすれば……」

 


 "トンッ トンッ"

 


「リアナ様。ミリアです。着付けに参りました」


 姫は、咄嗟に本を枕元に隠した。妙ね……


「ありがとう。入ってかまわないわよ」


 姫は、ベットに腰を下ろすと、じっと扉を見つめた。


「どうしたの? 入いらないの?」


 しかし、ミリアは一向に入る姿勢を見せない。


「その…… 扉を開けていただきたいのですが……」


 ミリアは、申し訳なさそうに応える。


「なんで? 表の鍵ならオルディボが持ってるでしょ? 開ければ良いじゃない」


 ミリアは、言葉を詰まらせた。


「オルディボ様は、早朝から皇帝陛下と共に、どこかへ行かれてしまいまして……」


「なんで、お父様が?」


「申し訳ありません。私にも分かりかねます……」


 姫は、ポケットに入れていた鍵を手に取ると、窓のすぐ側に立った。よく見れば、外には必要以上の兵士達が宮殿を囲むように警備にあたっている。


「ね…… 随分と外が騒がしいみたいなんだけど、来客でもあったかしら?」


「申し訳ありません。それも、私には分かりかねます……」


「そう……」


 わざわざ、嘘を付く理由も無いわよね…… 状況から考えれば、来客が来た。それも、この本の通りなら隣国のマブロイ王子が。そうともなれば、お父様やオルディボが直接出迎えに行ったのも分かる。なら……


「ミーシャは? あの子、朝弱いから。下で、アロッサと一緒に起こしてきたらどうかしら? また、遅れて来られても困るし。別に着替えるくらい一人でも出来るわ」


「ミーシャ様でしたら、早々に支度を済ませてダイニングルームへ向かわれました」


 姫は、眉を顰めた。


「ですので、リアナ様も早く支度をされてください。お手伝いしますので、どうか扉をお開け下さ……」


「なんで、ダイニングルームに向かったって分かるの?」


「はいっ?……」


 ミリアは、扉越しにも分かるように驚いてみせた。

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