第五十三幕
一人の男が、ため息を吐いた。
「全く見当たりませんね…… こんな早朝に、それも、こんな森の中に本当にいるのでしょうか、ノワール大佐……」
大佐は、持っていたランプを頭上にあげるって周囲を見渡した。武装を施した数人の兵士達が続く様に警戒を続ける。数歩先も見えない暗黒の中、大佐が口を開く。
「日の入りまでには、合流の予定だ。合流地点も、ここで間違いない。万が一、時間までに合流出来なければ、手分けして捜索にあたる」
大佐は、そう言うと持っていたランプを地に置き、立っていた樹木にもたれ掛かる。兵士達は、それにつづきランプを置いた。
「片道、二時間…… 自分達は、構いませんが、あっちの方がどう思うか。馬くらいは、用意しても良かったんじゃないですか?」
「無論。私もそう思った。しかし、馬はあまりに目立つ。帝都に入る前から狙われては困る。過去に二度、襲撃されているらしい。陛下曰く我々に紛れるように宮殿まで案内せよ、とのことだ」
「ならしょうがないですね。彼方の方には頑張っていただがないと…………」
鬱蒼とした森に、再び静寂が流れる。
「大佐……」
一人の兵士が囁くように呟く。
「ああ……」
大佐は、樹木から身体を離すと、銃を手にする。
「総員…… 戦闘態勢……」
皆が一斉に銃を構える。視線の先にある、一点の光源を見つめて。
「アルト少尉。私の後ろに…… 残りは木陰に隠れるように。私が許可、もしくは戦闘不能に陥るまで一切の発砲を禁じる。各人、持ち場へ……」
大佐が応えると、兵士達は、それぞれが持っていたランプの灯を消し、森の中へと姿を消した。次第に光源は、人工の足音へと変化する。
「"止まれ"」
大佐は声を大にして応えた。光源は、動きを止めると、暗黒の中から、その主が姿を見せる。
「こちらは、帝国陸軍所属ノワール大佐だ。ここパーグの森は夜間、及び早朝の移動が禁じられている。何用だ?」
その瞬間、森の中から現れた三人のうち二人が銃口を大佐に向けた。
「帝国海軍所属アール・フォール中佐だ。こちらからは、良く顔が見えない。二人だけか?」
中佐は、地面に置かれた二つのランプを目にすると応えた。
「そうだ…… そちらは、三人だけか?」
「そうだ…… 用件を話す前に、軍隊手帳の確認をしたい。互いに代表者に手帳を渡し確認をさせる。こちらからは、ミル・ラクラー少尉をだす」
「分かった。アルト少尉、胸ポケットに私の手帳がある。提示を頼む」
そう言うと、一瞬の間を挟んだのち、互いの少尉が銃口を下げた。大佐、中佐が共に銃を向ける中、少尉が手帳の確認を始める。
「本物の軍隊手帳です。ノワール大佐」
「こちらも、本物の軍隊手帳であることを確認しました。アール・フォール中佐」
大佐は額に汗を流した。二人の少尉が、持ち場に戻る。
「そうか…… では、こちらからも一つ。貴殿らが本物の海軍兵であることを確認したい。誰の命令で、ここにいる」
「皇帝陛下からの直々の極秘任務だ」
「その内容は?」
「この方を、ここで待機しているファル・ノワール大佐率いる部隊に引き渡すこと」
大佐は、中佐の横に控えているフードを被りランプを手に持った人物に視線を送る。
「それが、今話していた人物か……」
「そうだ……」
「名前は?」
中佐は、僅かに言葉を詰まらせた。
「……ベルク王国ザラク・マブロイ第一王子だ」
そう言うと、中佐は持っていた銃を地面に放り投げた。両手を上げ大佐を見つめる。
「確かに、聞いていた通りだ。信じよう……」
大佐もまた、銃を放り投げると前方へ足を運んだ。続く様に中佐がゆっくりと距離を詰める。二人は、向き合うと互いに手を差し出し穏やかに握手を交わした。
「……ところで、ファル・ノワール大佐。陛下の瞳は…… "何色だった?"」




