第四十九幕
不意に窓に手をかける姫。しかし、窓はびくとも動かない。
「やっぱり開かないわよね……」
部屋の窓は、安全の為か18時を過ぎると鍵をかけられる。早朝にオルディボが部屋に来て開けてくれるまで、ずっとこのまま。特に今まで不便だとは思わなかったけど、今さら対策しておけば良かったと後悔した。
「さて…… どこに隠そうかしら? 暖炉やベットの中は、簡単に見つかったし。まあ、明日こそ、なんとかして誰も部屋に入らせなければ良いだけなんだけど……」
窓の外を除けば、そこは暗黒に包まれていた。部屋は複数のランプにより充分に照らされてはいるが、それが無ければ数歩先すら見えないだろう。
「さて……」
姫は、ベットに腰掛けると天井を見上げた。
今日の、お父様は何をしていたんだろう。あの後、お父様もオルディボも昼の食卓には姿を見せなかった。別に、いつものことと言えば、そうなのだけど、その割には食事の量がいつもよりか多く感じた。誰か来客でも来る予定があったのだろうか。
"トンッ トンッ"
扉が叩かれた。
「ご苦労様。そこに、置いといてちょうだい」
姫が扉に向い言い放つ。
正直、ちょうど良いタイミングだと思う。あと15分もしないうちに消灯の時間を迎える。消灯後は、廊下も真っ暗になる。そんな中をランプを手に歩けば誰かに見つかるのは目に見えている。
消灯前、それも最後の見回りが来る前に、来てくれたのは助かる。
「今行くわ……」
姫は、タンスの中から、一つの鍵を取り出すと鍵穴に通した。
いや…… でも、早過ぎるんじゃ…… "ガチャッ"
「" 何を………… 置いて行けと言うんだ? リアナ…… "」
互いに視線が向きあう。扉の隙間から覗かせる瞳が脅威に映る。
「お父様…… なんでっ……」
!?ッ 皇帝は、途端に扉に手をかけた。
「お父様! もう時期、消灯の時間ですが…… 何のご用で……」
「お前は、まだ私の質問に答えていない。私は『何を置いて行けと言うのか』について聞いている。先に質問に答えるべきは私か?」
徐々に部屋の扉が開いていくのが分かる。
「姿も見えない相手に、何を求めているんだ? リアナ。お前の口振は、まるで誰かが、ここに来ることを知っているかのようだった。こんな時間に誰を待っている」
姫は、ただ茫然と手元を震わせた。
「誰も…… 待っていません…………」
皇帝は、口を開くこと無く姫を見つめた。
「リアナは…… 消灯前は、誰にも会いたくないと思っているので…… 用がある者には、置き手紙をするようにと命じています。ですから…… その……」
「私は、邪魔か?」
思わず固唾を飲んだ。
「いえっ! 決して、そんなことはありません。ただ…… お父様が、部屋に来られたのが珍しくて……」
「そうだったか?」
皇帝は、そう言うと廊下に人影が無いこと探る。
「…………要件を、聞いてもよろしいでしょうか?」
「そうだな。昔…… それも随分と前になるか。お前が幼い頃、良く寝る前に本の読み聞かせをしてやっていたのを覚えているか?」
「はい…… もちろんです」
姫が、そう言うと皇帝は、突如と部屋の中へと足を踏み入った。
「今日、私物の整理をしていたら懐かしい本が出て来たもので…… 偶には、昔の様に二人の時間を過ごすのも悪くは無いと思ってな」
皇帝は、部屋に押し入ると、後退りする姫を他所に一冊の本を高らかと掲げた。
「その…… 凄く嬉しいのですが。もう消灯の時間ですし、護衛の方を、外で待たせてしまっては可哀想かとッ……」
"バンッ"
「……護衛などいない。私一人だけだ」
部屋の扉が、大きく閉じる。
「心配しなくとも、ここで"見たもの"、"聞いたもの"は全て私たち親子二人だけの秘密だ。守れるな。 ……リアナ?」
皇帝は、落ち着いた口振りで応えた。
二人だけ…… 姫は、何かを悟った様に身体を硬直させた。いま…… ニナが本を持ってきたら……
どうなる? ニナは、間違いなく私が指示したと言う。それに、今この部屋には、私とお父様の二人だけ……
つまり、今本がここに来たら、お父様は他の誰にも、本の中身を知られることも疑われること無く私を……
「どうした? 座らないのか?」
皇帝は、ベットに腰掛けると姫に問いかける。
「いえ…… すみません」
姫は、ゆっくりと足を動かした。皇帝に続く様に隣に腰掛ける。
詰んだ………… 完全に詰んだ………… こんなの………… あまりにも、お父様に都合が良過ぎる………… ニナを止めないと…………
「なんだ。体調でも悪いか?」
「いえっ! ちょっと、考え事を……」
どこか、落ち着かない姫を他所に皇帝は、本のページをめくった。




