第四十八幕
「お姉様! もう一回やりましょ! 次はもっと上手くやってみせますから!」
ご令嬢は、姫と共にベットの上でトランプを手に向かいに座っていた。姫は、退屈そうな表情で、トランプを置くとため息を吐く。
「なんで?」
姫は、軽くあしらうように応えた。
「もう充分やったでしょ? 疲れたんだけど。それに、何度やったって変わらないわよ。結果は見えてる」
「えーー 良いじゃないですか。次やれば勝てるかもしれんじゃないですか?」
「イヤよ。何度やったて同じ。恥知らず……」
「エッ?」
ご令嬢は、思わず首を傾げた。
「でも、お姉様まだ一回も勝ってないじゃないですか?」
「だから? 結果は見えてるって言ったでしょ。どうせ、また私が負けるだけ。何? 今度は、ノーミスで私に勝つつもり? これ以上、私に恥かかせないでくれる? オルディボ! ちょっと来なさい」
姫が、そう言うと扉の前で控えていた男が、二人に詰め寄る。
「はい…… どうか、されましたか姫?」
「イカサマよ。さっきから私にだけ全然ペアカードがこないのよ。こんなの明らかにおかしいわ。イカサマがないかトランプを確かめてちょうだい」
男は、分かりやすく困惑した様子を見せる。
「しかし、姫……」
「早くして! 二度は言わないわよ?」
「これで、三度目です。姫様…… お願いです。これ以上、恥を晒すような真似はおやめ下さい。ミーシャ様は強い、姫様は弱い。それで良いではないですか」
「『それで良いではないですか』、じゃないわよ。貴方、自分の仕える人間が、こんなに恥晒してるのに、何か思わないわけ?」
「特に思うことはありません」
男は、当然とばかりに応えた。すると、姫は「あっそ」と言わんばかりベットに横たわると顔だけを男に向けた。
「オルディボ…… 今何時かしら?」
姫がそう言うと、男は扉を開け廊下に顔を出した。
「20時43分です。あと、20分弱で消灯の時間かと」
「ふーん。ミーシャ、また明日にしましょ。今日は、もう寝るわ」
「えーー…… 恥知らず……」
「”ああッ?“」
「じ、冗談ですよ、お姉様…… そんな怖い顔しないで下さいよ」
姫は、スッと身体を起こした。
「オルディボ。ミーシャがまた、戻って来ないように消灯まで、ミーシャの部屋の前で待機してなさい。私は、もう部屋から出ないから安心しなさい」
「分かりました…… ミーシャ様。姫様が拗ねてしまいました。今日のところは、どうか姫様を休ませてあげて下さい。部屋まで、お供します」
男が手を差し出すと、ご令嬢は嬉しそうに、その手を握った。
「レナード中将。私はミーシャ様と共に移動する。そっちはどうする?」
中将は、壁にもたれ掛かる身体を起こすと、机に置かれていたコップを手に扉の方へと歩みを始めた。
「護衛など、一人いれば充分だ。私は、先に失礼する。また明日、迎えに参ります。ミーシャ様…… お休みなさい」
中将は、そう言い残すと部屋を後にした。
「では、我々も行きましょう。失礼します」
「お休みなさい、お姉様!」
ご令嬢は、礼儀正しく頭を下げると男と共に部屋を後にした。
"ガチャッ"
男は、外から部屋に鍵をかけた。
「はぁ………… やっと帰ってくれた」
姫は、散らかったトランプを片付けると、ベットを降り部屋中を徘徊した。
もうすぐ消灯の時間。部屋の鍵は、オルディボが持ってる表の鍵と、私の持つ裏の鍵の二本だけ。誰かに入られる心配は、まずない。後は、ニナが本を無事に届けてくれれば良いんだけど。問題はいつ来るかよね。
「ここは、ダメね……」
姫は、暖炉の中を覗き込むと、優しく呟いた。消灯前だと、外にいるオルディボに見つかるかもしれないし。消灯後だと嬉しいんだけど…… もっと具体的な時間を伝えておけば良かった。




