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独裁者の姫 (一章完結!「表紙有り」)  作者: ジョンセンフン
一章 影の病

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第四十七幕

「なぜ…… だ…… 分からん。分かりかねるぞ陛下。なぜ、出来ぬのだ!」


 ルブル公爵は、食いつくように反応を示した。当然だ。確かに、ルブル公爵の言っていることは最もだ。ただし、問題が一つある。それは、帝国の存続に関わる問題。仮に勅令が無くなれば領主間の貿易が盛んになり、次第に利害関係が生まれる。そうなれば、いずれ領主の中に帝国よりも財力を持つ者が現れるだろう。そうなれば、力を付けた領主達が一斉に帝国からの離脱を試みる。そんなことが起きれば、いよいよ止める術は無い。それを、阻止するため税を高めれば、多くの資産家達は帝国に見切りを付け領主側に寝返る。どちらにせよ帝国の終わりだ…… 


 しかし、陛下が、それを口にする事は出来ない。一国の君主が、領主に弱みを見せるなど、あってはならない。陛下…… 頼みます。


 男は、真剣な眼差しで皇帝を見つめた。


「"陛下…… 理由を…… 聞いても、良いかな?"」


 ルブル公爵は、机に手を置くと、大きく目を見開き穏やかに尋ねた。


「…………何人死ぬ?」


「ッ!?」


 ルブル公爵は、机から手を退けると、額に汗を流した。


「確かに、短期的に見れば、それも良いだろう。しかしだ。そうなれば、働き先の無い他の領民は、貴殿の領地に出向くだろう。ただでさえ、人手の足りていない地方の領地から働き盛りの若者達がいなくなるのだ。その領地は、どうなる。農産業を継ぐものがいなくなれば帝国は再び飢えに苦しむ」


「だから、こそだ陛下! 多くの資産家が更なる富を得て、それを税として国に落とせば、その恩恵を他の領民も受けることが出来る! 地方の問題などすぐに……」


「国の防衛は?」


 皇帝は、ルブル公爵の話を遮り、応えた。


「多くの若者は、職を求め陸軍に志願する。または、領主の近衛兵として雇われる者もいるだろう。その若者達が一斉に、いなくなるのだ。領主は、税収が減り近衛兵を雇う金が無くなる。そうなれば近衛兵だけでは領地を守りきれんだろう。当然、陸軍が加勢に向かうことになる。しかし、その陸軍すらも数が足りなくなる。簡単に敵対国からの侵略を許すことになり、地方の農村部は壊滅する」


「しかし陛下! 我々には、武器があります。それも、他の国とは比べ物にならないほどの莫大な武器がッ……」


「だから何だと言うんだ。武器は一人一つしか持てないだろう。どんなに、多くの銃や剣を持っていようとも使う者がいなければ鉄屑同然だ。それとも貴殿は、たったの一撃で何十人も殺せるような破壊兵器を持っているのか?」


「…………」


 皇帝の言葉にルブル公爵は、何も応えられなかった。


「大きな国には、多くの兵士が必要になる。国が大きくなるとは、そう言うことだ」


「…………ど、同盟国は? 隣国のベルク王国から、応援を……」


「そのベルク王国も、数年前に共和化を宣言した。今年中にも、王室が廃止され完全な共和国となるだろう。その共和国が我々との同盟関係を維持するとは到底思えない。彼らは帝政を許さないだろう」


 皇帝は、コップに手をかけると紅茶を一口啜るった。


「…………そうですか。なるほど。残念だ」


 ルブル公爵は、そう言うと軽くため息を吐いた。


「以上です陛下。私は、この辺りで帰らせていただきます。本日は、このような時間をいただけて大変光栄でした」


 そう言うと、ルブル公爵は席を立ち扉へと向かった。


「ミラ、ルブル公爵が、お帰りだ。玄関まで案内してやってくれ」


 ミラは、ルブル公爵の側に寄ると部屋の扉へと案内した。その際、ルブル公爵は、男のすぐ側をゆっくりと通り過ぎようとした。


「…………あと何年もつか。 …………次の君主に期待するか」


 聞き間違いだろうか。側を通り過ぎる寸前、ルブル公爵は囁くように言った。


「ッ!?」


 気づけば、私はルブル公爵の肩を掴んでいた。


「な、何をするかッ…………」


「今…… 何と言った。ルブル公爵…………」


 男は、指先に力を込めると声を低くさせた。


「き、聞こえていたのか? すまない、ただのボヤキだ。決して本気でッ…………」

 


 "ドンッ"

 


 鈍い音が室内に響く。男は、ルブル公爵の胸ぐらを掴むと、何の躊躇いなく領主を壁に押し付けた。


「何と言ったかと聞いているんだ」


「おい待て! 落ち着かんか! 私を誰だと思っている。ディグニス帝国、第二の都市ルーブル領、領主ッ……」


 男は、更に力を込めルブル公爵を睨みつける。


「お前こそ、ここに居られる方を誰だと思っている。ディグニス帝国の君主であられるぞ」


「待て一度、手を退けてくれ。頼む!」


「訂正しろ。先の発言、全て訂正しろ。でなければ、ここから逃さんぞ」


 ルブル公爵の顔色が段々と悪くなる。


「待っ…… たのっ…… くぅ……」


「何度も言わせるな。訂正しろ、今すぐに……」

 


「"手を離せオルディボ、命令だ"」

 


 皇帝は、諭すように応えた。


「陛下……」


「私は………… 何も聞いていない」


 男の手元から力が抜けた。


「ゲホッ…… ゲホッ…… ハァ…… ハァ……」


 ルブル公爵は、地べたに尻をつけると息を荒らげた。


「何をしてる。ミラ、早く案内してやれ。ルブル公爵の、ご帰宅だ」


「は、はいっ!」


 男の言葉にミラは、慌てた様子でルブル公爵に詰め寄る。


「それと、ルブル公爵の服装が乱れている。一度、支度部屋で直してやってくれ」


 ルブル公爵は、すぐさま立ち上がると早々に部屋を後にした。部屋の扉が閉まると客間に静寂が流れる。


「…………申し訳ありません皇帝陛下」


「構わない。お前は、何も間違えていない……」


 皇帝は、手に持っていたコップを机に置くと、じっと窓の外を見つめた。


「なあ、オルディボ。お前は、どこまで見えている…… どこまで先の未来を見ている…… その未来で、私は何をしている……」


「分かりません。未来のことなど私には到底……」


「もう時期、リアナが18を迎える」


「はい…… 存じ上げております……」


 皇帝は、男を横目で見つめると静かに応えた。


「私が、皇帝に即位したのも18の頃だった…………」

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