マキュニシェの戦い⑪
ヨギは、川上へと馬を走らせていた。
「ふっ、やはり来ていたか」
そして、その部隊を見つけて、そう呟いた。
「ヨギ様あれは?」
その敵部隊は、川上から迫って来ていた。
つまり、川上からフェズ国の本陣へと向かってきていたのだ。
「マキュニシェの花を川に流した部隊だ。そして――」
敵部隊が近づくにつれて、敵部隊を率いる将が露になる。
「ロヤが率いている部隊だ」
それは、敵軍総大将ロヤであった。
「ジアヒスの部隊では兵が足りなかったときに挟撃する予定。また、ジアヒスの部隊が奇襲を成功させた場合に、撤退させるために部隊を動かしたのだろうが、裏目に出たな」
ヨギは、それら全てを読み切っていたのである。
「行くぞ。敵総大将の首、このヨギがもらい受けよう」
そして、ヨギは自信満々に号令をかけたのだった。
対するロヤは、ヨギの部隊が迫ってきているのには気が付いていた。
当然だ。立てている旗が、ジアヒスのものではないからである。
「ロヤ様!突っ込んできますぞ!」
ロヤの部隊とヨギの部隊では、ジアヒスの部隊の方が多かった。
それもまた、ヨギが勝つために必要な部隊を用意したためである。
「わかっています!このまま迎撃して、ジアヒス様を待ちます!」
それでもロヤは、退くわけにはいかなかった。
ここでロヤが退けば、ジアヒスがヨギの部隊に捕まってしまうからである。
ロヤには、そんな非情な決断が出来なかったのである。
「ふっ、甘いな。知の将と言っても、所詮は俺の敵ではなかったか……もしくは、ニトならあるいは……いない人間の事を考えても仕方がないか」
そのロヤの心情を読んで、ヨギは呟く。
そして、二つの部隊はぶつかり合ったのだ。
だが、それは戦いというには、一方的であった。
ヨギの部隊は強く、更にヨギとベルエッの両名も強かった。
ヨギは、見事なまでの槍裁きを見せ、次々に敵を屠っていき、ベルエッは棍棒で、次々に敵を吹き飛ばしていった。
それをロヤは、後ろでただ見ている事しか出来なかった。
「ん?」
ロヤの部隊が半分程度倒されたあたりで、ヨギは後ろを見た。
「ゼルバめ。勝ったのはいいが、逃がしたな」
その視線の先では、撤退して来たジアヒスの部隊が迫って来ていた。
ジアヒスが早々と撤退を決めたのは、ヨギがロヤの元へ向かっているのに気が付いたからでもあったのだ。
「だが、間に合わん」
ヨギはそう読んで、後ろから迫りくるジアヒスを無視して斬り進む。
「ロヤ様!お逃げください!ぐわっ!」
そして、ついにはロヤの目前へと来たのである。
「くっ!」
それでもロヤは逃げずに、剣を抜いて応戦しようとする。
「遅い!」
だが、ロヤが剣を抜き切る前に、ヨギの槍はロヤへと向かって行く。
「ロヤ!」
しかし、その槍が貫いたのはロヤではなく、その間へと割り込んできたジアヒスの体であった。
「ぐっ……ふんっ!」
ジアヒスは自分の体を貫かれて顔を歪めたが、すぐにその槍を抜くと、ロヤを連れてそのまま走り去ってしまう。
「まさか間に合うとはな……だが、あの傷では助かるまい。すぐに追うぞ!」
ヨギは号令をかけたが、その前に敵が立ちふさがった。ジアヒスの精鋭部隊である。
「絶対にここは通さんぞ!」
「おおお!」
ジアヒスの部隊のその気迫に、ヨギは首を振った。
「面倒そうだ」
そしてそう呟くと、戦いを始めたのだった。
♦
ロヤはジアヒスに連れられて馬を走らせていた。
今この場にいるのは、ただの二人である。
「ジアヒス様。傷が!」
ロヤは涙目になりながら、ジアヒスを見る。
その傷口からは、おびただしい量の血が流れていた。
「何故逃げなかった!」
だが、ジアヒスはそんな事は置いておいて怒った。
ロヤは、ジアヒスに怒られるのは珍しく、驚いて体を震わせてしまう。
「それは……ジアヒス様を置いてはいけませんでした……」
ロヤは素直に答えたが、もちろんジアヒスにはそんな事はわかっている。
「知の将であるならば、非情でなければいけない」
ジアヒスは厳しい顔で言った。
「ニトならば、ヨギの部隊を見たら、私を置いてとっとと逃げただろうな」
だが、すぐにいつもの優しい笑顔へと戻ってそう言う。
「……」
ロヤは黙っていたが、
「はい……」
泣きそうな顔で、そう言った。
ジアヒスの、最後の教訓だというのを感じ取ったからである。
「総大将がそんな顔をするな。まだ戦は終わっていない」
ジアヒスはロヤの頭を撫でる。
ジアヒスは、その性質上四傑将の誰かと共に戦う事が多かった。
その中でも特に組むことが、多かったのはニトである。
だからこそ、ニトと共にロヤを可愛がっていた。
子のいないジアヒスからすると、ロヤはまるで自分の子のようだったのだ。
二人は走り続け、やがて味方の部隊と合流する。
ロヤの頭を投げていたジアヒスの手は、いつしかロヤの肩へと回り、ロヤがジアヒスを支える形となって並んで馬を走らせていた。
そして、その頃には、ジアヒスは優しい笑顔のまま力尽きていたのであった。




