ゼルバ復活⑥
そして、場所と時はゼルバの元へと戻って来る。
ゼルバは、本陣に集まった自分の部下達に、これまでの経緯を説明する。
「ただ、説明すると言っても、簡素な言葉で言い表せる事しかありません」
ゼルバは、もったいぶらずに本題へと入る。
「私が死んだふりをして、エルエ国はもちろん、フェズ国をも騙した。それだけの事です」
そして、その効果は絶大であった。
「ロヤはおそらく、最後まで疑っていた事でしょう。そのため、私はまず、フェズ国内から姿を消しました」
「その先が、外の国ってことだな」
こればっかりは、ギヨウにだってわかる。
「はい。さしものロヤも、私がユガルア大陸の外に出ているとは思いもしなかったでしょう」
実際に、ロヤはそこに騙されたのである。
「そして限界まで私は待ちました。約一年間――これは思ったよりも早かったですね。流石はロヤと言ったところでしょうか」
ゼルバの予定では一年間かかるはずだったのだが、実際には十か月程度であった。
「この一年間の間、エルエ軍は幾たびの勝利を重ねたでしょうか?数えきれないほどです。ロヤがどれだけ警戒しても、連戦連勝の流れは軍全体を盲目にさせます」
一個人では止められない流れと言うのは存在するのだ。
「最も……」
ゼルバは悲しそうな顔をする。
「そのために払った犠牲も大きかったでしょう……」
アカツキ隊でも、シンザやダククガ、それに多くの兵が死んでいた。
それは、フェズ軍全体でも同様である。
「しかし、その結果として、守の将ズェガェを討てたわけです。これはエルエ国にとって致命的です。なにせ、ロヤの時と違って、守の将を継承するものがいませんから」
「そうなのか?」
「四傑将の名は、生半可な者に与えられるものではありません。その名を継げる者が、エルエ国にいるというのは、私は聞いたことがありません」
ニトと違い、正式に四傑将を討ったという事になる。
「あの……」
そこで、ずっと黙っていたベルベンが手を挙げて発言をする。
「なんでしょうか?」
「そもそも、ゼルバ様はどうやって処刑を免れたのでしょうか?」
ベルベンからすれば、あの愚王が、包囲網に失敗したゼルバを生かしているのが、一番不思議でならなかった。
「それに関して言えば、私は悪魔に魂を売ってしまった……としか言いようがありませんね」
そう言ったゼルバの顔は、妙に淡々としていて、それを後悔していると言う様子はでなかった。
「なにっ!どういうことだよ!」
ギヨウが聞くと、ゼルバは語りだした。
「あの日――私が、王に処刑を告げられるために呼び出された日――」
♦
「フェズ王様。最後に一つだけお願いがあります」
ゼルバは深く頭を下げて、王に頼み込む。
「ほう……」
王は、相変わらず女達で遊んだまま、その言葉を聞いた。
「私が死んだと見せかけ、一度エルエ国を調子づかせてから、四傑将の一人を討ち取ります。それから、一気にエルエ国へと反撃をしたいと考えています」
「どの立場で、ものを言っているのだ?俺が処刑と決めたら、処刑と決まっている。口を慎め、ゼルバよ」
にべもなく、フェズ王はゼルバの策を一蹴した。
だが、もちろんゼルバからすれば、そう言われるのは織り込み積みである。
「はっ!申し訳ありません!ですが、私は代わりに、貴方に差し上げれるものがあります」
「なんだ?首か?」
それでは意味がないが、王はもちろんわかっていて笑いながら聞くのだ。
「それは――」
ゼルバは少し間を置いて、言った。
「このユガルア大陸にございます」
一瞬、フェズ王はぽかんとする。
しかし、すぐに、大笑いをしながら、下半身から液体を女の中へと注いだ。
「はっはっはっ!ゼルバよ。貴様、この大馬鹿者めが!はっーはっはっ!」
フェズ王は笑っていたが、ゼルバは大真面目な顔であった。
「確かに私は大馬鹿者でしょう。ですが、エルエ国を滅ぼせば、あとは我々よりも国力が劣るベザ国とギラグ国。それに国力はあれども、まともな将のいないア国のみです。夢物語ではありません」
ゼルバの真剣なまなざしを受け止め、フェズ王はある事を思い出す。
(ゼルバこそが国の宝。ゼルバこそがフェズ国を守る天命を受けたものです)
それは老い先短いじじいの言葉だったか……。
「ふっ、よく笑わせてもらったわ。おい、兵よ!」
突然、フェズ王は、ゼルバの話に答えずに、近衛兵を呼び出した。
そして、自分にすり寄っていた女達を、地面へと放り投げる。
「この女共を殺せ」
「はっ!」
「ひぃ!」
それは、つまり、答えにはなっていないが、答えだったのだ。
この話を聞かれたからには、口封じをしなければいけないと言う。
「お待ちください」
だが、剣を抜いた兵を、ゼルバは止めた。
「私がここにいる間に、フェズ王の部屋にいた女が全員殺されてしまっては、その不自然さから敵に私が生きているのを気づかれるかもしれません」
心情的な理由もあるが、理屈もあった。
「ちっ、じゃあ調教してやろう。この女達は、数日間この部屋から出るのを禁ずる」
それは、死ぬことよりも辛い事かもしれない。
どちらが幸せだったかは、女達にしかわからないのである。
♦
「そうして私は、事前に用意してあった全ての準備を使って、身代わりを立て、外の国へと逃れました」
これが、事の顛末である。
「なあ、それって……」
そして、それを聞いて、ギヨウは一つだけ、言ってはいけない事を言う。
「エルエ国と同じことをするって事か?」
ユガルア統一を目指すと言う事は、つまりそういうことになる。
それこそが、悪魔に魂を売ってしまったという話であった。
「駄目ですか?」
ゼルバは、顔色を変えずに、ギヨウへと聞いた。
「いや、駄目って言うか……」
(侵略してくるエルエ国はともかく、一度は同盟を結んだベザ国や、ギラグ国とやり合うって事か……)
さらに言うなら、ギヨウ本人の心情からすれば、ベザ王やギラグ女王とは戦いたくなかったのである。
「私は昔言いましたよね。私が王なら、ユガルア統一を目指すと」
確かに、それは言っていた。
「最終的には、それこそが平和への道なのです。もちろん、エルエ国を滅ぼした後に、ベザ国とギラグ国には、降伏勧告を送ります」
あくまで、平和的な解決を第一にするという事ではある。
だが、ゼルバはわかっていた。
両国とも、降伏勧告に応じるはずもないと言う事を。
「すまねえ、少し考えさせてくれ」
ギヨウは、それを感じ取ったのか、一旦気持ちを落ち着ける為に、外に風に当たりに行ったのだった。




