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part31 father

かくしてオットー家の当主に殴り込みにいくことになった俺たち一同だったが。


「ねえ兄者ーどうして紗々はお留守番なの?」

「そりゃお前はまだ子供だし、アリサ姫の警護もしないといけないからな」

「えーせっかく面白そうなのにー」


俺がなだめても紗々は不満顔だった。


「というか面白そうってなんだ、俺たちは真剣なんだぞ」


ここはサラさまとオットー家の対決をするところだ。

それにアリサ姫の結婚の相手になる可能性があるハミルの存在もある。

うかつに屋敷に足を踏み入れることもできないのだ。


「でも兄者はなんだか楽しそうだよ。ハインリヒも結構力入っているし」


確かにハインリヒはこれまでにないほどやる気だった。

自分の恋敵が向こう側にはいるのだ。


「お前たち、準備はいいだろうな」

「いいですけどどうして仕切ってるのですか?」


俺が突っ込みたいのをサラさまが指摘してくれる。


「俺たちはこれからひとつのチームとして戦うことになる。俺がリーダーで不服か」


「不服じゃないけどちょっと心配よね」

「僕も同感です」

「右に同じく」


順番にマリー夫人、息子のチャールズ、家庭教師である俺が返事をする。


「なんだ俺じゃ信頼できないのか」


「うーんそういうわけないじゃないけどなあ」


悪魔にとりつかれた頃のハインリヒとは違うとわかっていてもどこか危なっかしい気がするのだ。

だが記憶を失った彼にそれを告げるわけにはいかなかった。


どうしたものかなと頭を抱えると紗々が助け船を出してくれる。


「それよりハインリヒ、紗々にお礼はないの?」

「お前にか……?」


思い当たる節がないらしい。


「もうー。この間アリサ姫の誕生日プレゼント渡してあげたでしょー」

「ああ。あれのことか」

思い出したようにいうがお礼の言葉はでないあたりいつもの二人のやり取りのようだ。


「仕方がないだろ。俺は凱旋に来るまで東方で仕事してたんだ。でも確かに悪かったな」

「そこは悪かったじゃなくてありがとうだよ。ハインリヒ」


紗々が指摘すると彼は顔をわずかに赤くした。


「あ、ありがとな」


ぶっきらぼうに答える姿が意外だった。

記憶を失ったお陰なのかハインリヒはかつてより素直になったらしい。

紗々の言葉にも従うあたり日頃の教育の賜物なのか。


俺は知らなかったがこの二人意外と仲がいいようだ。


「ハインリヒも成長したな」

「お前に言われても嬉しくない」


そこは素直に喜んでほしいものだが。


「ハインリヒはアリサ姫以外眼中にないからねー」


そしてガシガシ頭を撫でる。

紗々は背が低いので無理矢理ハインリヒの頭を引っ張ってなので結構いたそうだ。


「二人とも楽しそうねえ。チャールズとサラさまはこうしたことはしないのかしら」

「母上っ」


手持ちぶさただったのかマリー夫人はチャールズにちょっかいをかける。

母親のはずなのにどちらかというと彼女の方が子供っぽい。


あっちでは紗々とハインリヒ、こっちではマリー夫人とチャールズがガミガミ言い合っている。

といってもどちらも一方的だったが。


それをはらはらしながら見守るサラさまだった。


「私も止めた方がいいですよね」


固唾を飲んで見守っていたサラさまだったが彼女なりに決心をしたらしい。

といってもこの四人のやり取りはあまり珍しいことではないので俺は放置していたが。


「四人とも、少し話をしてもよろしいでしょうか」


その言葉に急に静かになる四人だった。

普段からこのくらいおとなしいと俺も楽なのだろうな、とふと思った。


「これからオットー家に突入する際に注意すべきことがあります」

「なんだ?お前たちも話を聞け」


ハインリヒがそこでしきりだす。どうやら性格上やらないと気がすまないらしい。

それが今回はありがたい方向に働いてくれた。


「私の父はしたたかな人間です。人の弱味につけこみ相手を利用することも厭わない人種です」

「それは話に聞いているが」


「だからこそ言いたいのです。心に傷を抱えている人が父に立ち向かって負けていくのを何度も見てきました。みなさん人それぞれ弱味があったり守らなければならない存在があるはずです。もしそうなら父とは会わない方が懸命です」


「でも僕たちは決めたんですよ。あなたを助けたいと」


サラさまは俺たちのことを心配していっているのだろうがチャールズや俺たちの心は決まっている。


「僕たちはあなたを信じています」


だから父の呪縛からとき離れてほしいと切に願っている。


「どうかそれだけは忘れないでください。僕たちはあなたの味方です」


「そうだ。利害が一致した仲間ってところだ」


珍しくハインリヒが良いことを言う。

するとそれを察したのか紗々がからかい始める。


「もうわざと意地悪くいう必要ないのにー。そこは正直に仲間ですって言わないと!」

「俺は利害が一致したから手伝うだけだ」

「ハインリヒって恥ずかしくなるってわかってるのに大口叩くよねー」


それをいうと紗々はハインリヒの肩をバンバン叩く。


「そういうところ紗々は好きだよー」

「お前に好かれても面白くない」


「まあハインリヒはアリサ姫一筋だもんねー」


でも悪い気はしないのか彼の表情は柔らかかった。


「って話がそれたか」


たしかサラさまの話の途中だった。


「つまり彼女が言いたいのは……」


「オットー家の当主に弱味をつけこまれそうになったら早く逃げてほしいということです」


確かに相手を倒す前に自分がやられていたら問題だ。

特に心配だったのは幼いチャールズだったが彼のサラさまを見つめる瞳に迷いはなかった。


「僕も弱味がないとは言えない。だけど君が戦うそばで助けたい」


彼はサラさまを見つめるとそっと手を握る。

きっと二人にしかわからない固い絆があるのだろう。

そこをわかった上で着いてくるのだ。


「もうチャールズもいい大人よ」


マリー夫人もなんやかんやで彼のことを信頼しているのだろう。


「サラさま、少しは信じてあげないと可愛そうよ」


冗談目かしてそういうが表情は真剣だ。


「確かに怯えてばかりいては戦えませんからね」


サラさまはなにか吹っ切れたようだった。


「では作戦に移りましょう。まず屋敷のなかに入ったら長兄のハミルが出迎えるはずです。彼は当主である父にある程度仕事を任されていますから」


彼女なりに計画を練ってきたようだ。


「ハミルはたしか陰険って感じの人だよねー」


紗々が呟くと一同がうなずく。


「あいつとアリサ姫との縁談を破談にするにはどうすればいいかが問題だな」

ハインリヒが協力するのはそれが目的だからというのは念頭に置いているのだろう。


「まずは恋人のリリィさまに協力を仰いでハミルの対処をしてもらうことにしましょう」


そして彼を排除したあとに当主との対決が待っている。

そこで何も起きなければいいが。


「おそらく父はそう簡単に許してはくれないでしょう」


まだサラさまは若い。女性が自立して一人で暮らすのはよほど大きな後ろ楯がないと難しいだろう。


「今までやって来た所業を国王に報告しないことを条件に交渉しようと思います」


それにはサミー伯邸の事件の捜査をしていた騎士修道会の長であるハインリヒの力が必要になるだろう。


「担当のストーンから話は聞いている。あの事件の証拠は押さえてある。骨がおれると思うが挫けるなよ」


彼は自分の役割を理解しているようだ。サラさまの言葉から各々が自分にできることを考える。


「僕はパーティーにいた人の帳簿をエマ夫人から借りてこようと思います」

「私も力になるわ」


さきほどまでいがみ合っていた親子もサラさまのためにと動いてくれるのだろう。


「ありがとうございます」


彼女は皆が協力してくれることに感謝の気持ちをもって頭を下げる。

自分の将来がこれで決まるとわかっているからかどこか真剣な表情だった。


「みなさんのお陰で私も父と向き合う覚悟ができました」


あとは準備をして突入するだけだ。


「私たちは五人でひとつのチーム、ですね。今の私にできることはみなさんを信じて前に進むことです」


「そだよー」


紗々がおどけたように答える。


「紗々はお留守番しているけど、みんな頑張ってねー」


特にハインリヒに向かって視線を送る。


「アリサ姫をよろしくな」

「りょーかい」


「あと兄者に一言」

「なんだ?」


紗々は俺に耳打ちをする。

「ハインリヒの記憶が戻りそうだったらアリサ姫に報告してね」

これから先は秘密にしておけということらしい。


「紗々にはわからないことだけどアリサ姫が心配していたから」


(わかったよ紗々)


口にはしなかったがそうやってうなずくと紗々はいつも通りの能天気な姿に戻った。


「じゃあ殴り込みの準備開始!」


「なんで参加しないお前が仕切るんだ?」


「いいじゃんいいじゃん」


ハインリヒは何も気づいていないようだった。

それが幸いだった。


(俺も準備をしないとな)


行動を起こすには準備が必要不可欠だから。

俺たちは自分にできることをこなすことにした。


これでサラさまが自由になれるのならば安いものだ。




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