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part17 war2

かくして俺たちと魔族の戦いは一段落がついた。

魔族は聖なる力に弱い。

しかし一部の魔族たちは再び夜襲を仕掛けようと東方の端へと逃げていった。

「ふうこれで一応は魔族を一掃できましたね」

「みなさんの頑張りのお陰です」

アリサ姫は優しく微笑む。

地元の住民とハインリヒ率いる騎士修道会の確執も小さくなり彼女が東方の地へ来た甲斐があった。

「それで私たちはこの地をハインリヒに託そうと思っています」

悪魔が取りついていた頃の彼ならば王国の陥落を狙っていただろうが今ではその記憶もなくなり恨む気持ちもなくなったようだ。

「ハインリヒはこの土地についても詳しいですし、血筋もオットー家の流れを汲んでいます。国王もお認めになるでしょう」

彼がアリサ姫の異母兄であることは俺とアリサ姫のみが知る秘密だ。

彼本人も忘れているのだろう。

ハインリヒはアリサ姫への好意を隠そうとしなかった。

つまりことあるごとに彼女へのアピールを忘れなかったのだ。

そして今日アリサ姫に集められた俺とハインリヒは彼女の答えを待っているのであった。

「しかしハインリヒに統治を任せるとして住民が納得してくれるかどうかが問題ですよね」

俺が指摘すると彼は自信ありげに答える。

「今回の遠征で俺たち騎士修道会の仲間が地元の住民と和解したいそうだ」

「それはいいことですね」

そしてその好意をあえて無視するアリサ姫。

「今回の和解が成立したら一つ願い事を聞いてほしいのだが」

「よろしいでしょう。今伺えますか?」

「ああ」

事務的に答える姿は端から見ても胸が痛む。

「俺も先の戦いで活躍したから褒賞がほしい」

「褒賞ですか?」

少し困ったように笑うアリサ姫。

「別に大層なものは期待していない。ただあんたからなにか欲しいんだ」

素直にそう口にするハインリヒだったが。

「私からなにかを差し上げるにも父の許可が必要です。もしなにかほしいのでしたらかなりの時間を要しますがそれでもよろしいですか」

慣例主義で押し通されてしまうハインリヒだった。

「いや今回のことは別にいい。ただ俺のわがままを言っただけだ」

少しシュンとした姿はあわれだった。その姿にアリサ姫はなにか思うことがあったのか一言口にする。

「すみません。少し警戒しすぎました。私から大したものではないですがなにか差し入れをさせていただきますね」

「本当にいいのか?」

探るような視線を向けるハインリヒにアリサ姫はにっこりと微笑む。

「はい。お礼くらいさせてください」

少しは自分に好意を向けられているのだと思いたいハインリヒは素直に喜んでいた。

「ですがあなた一人だけに何かするのも少し怪しまれそうですよね」

考え事をするように人差し指をこめかみに当てるアリサ姫はこう続ける。

「でしたら紗々の気に入っているお菓子屋さんのシュトーレンをプレゼントさせてください」

ちょうど聖夜も近いですからと付け足す。

それではハインリヒへのプレゼントという名目はすっかり消え果ててしまったが。

「まあいいか」

彼はそう納得するのだった。

「東方を治める件だが少し仲間たちと話してもいいか」

「はい騎士修道会が関わる話ですから」

ハインリヒはそう尋ねるとアリサ姫の部屋を退出するのだった。


「本当にあれでよかったのですか」

「ええ彼には本当のことを知らせるわけにはいきませんから」

俺が疑問を口にすると彼女はそう答えた。

「記憶がないというのは彼も不自由するはずです。すべてが思い通りにいくわけではありませんが彼にはなるべく苦労してほしくはありません」

彼女も兄の身を案じているのだろう。あくまで兄としてというのが酷なことだったが。

「ですから彼のサポートは欠かすつもりはありません」

今まで以上に緊密な関係を築ければと彼女は呟く。

「彼が王国に味方してくれれば以前よりは国の信頼も回復するでしょう」

その打算も含めてアリサ姫らしい決断だった。

「それにしてもプレゼントがシュトーレンとは。ハインリヒには気の毒なことを」

「しかしそれ以上のものを差し上げるとしたら誤解を与えかねませんし」

俺に指摘されるとアリサ姫は困ったような顔をして答える。

そういうところが憎めないのだろうなと俺は一人ごちる。

それをどう捉えたのか彼女は俺に念を押すように続ける。

「私とハインリヒの関係を知っているのはあなたと王族の関係者のごく一部です」

「ええ分かってます」

「彼が記憶を取り戻すまでは私とハインリヒは他人です。あくまで王族の姫と騎士修道会の長の関係です」

だから下手なことをしてこの関係性を壊すのが怖いのだろう。

たとえ彼が素直な好意を向けていたとしても彼女が受け入れることはないのだ。

それが可哀想に思えても越えてはならない一線がある。

いつかハインリヒもそれに気がつくことがあるのだろうか。

その日が来たら彼はまた悪魔と契約してしまうのだろうか。

不安が募ったがその疑問に答えを出せるほどの器量を俺は持ち合わせていなかった。

「人が過ちをおかしたときもう一度やり直せるように道を整えておくことも我々王族がしなければならないことのひとつです」

あくまで自分の優しさが王族としての義務だとでも言うのか。

コンコン。

扉をノックするおとがする。

「アリサ姫、あなたの騎士の紗々でーす」

「どうぞお入りください」

どうやら俺の妹の紗々だったようだ。俺は同席すべきか迷う。

「いいのですよ。紗々も久々にお兄様と一緒にいたいでしょう」

「では同席させていただきます」

俺が頭を下げるとアリサ姫は静かにうなずいた。

「アリサ姫ーなに話してたの?」

「ふふっ。地元の住民と騎士修道会のみなさんに聖夜の差し入れをしようかと話していたところです」

彼女は小さい子供を諭すように優しく話しかける。

「ええ?だったら紗々のおすすめのお店があるよー」

いうまでもなく彼女の行きつけのシュトーレンを売っている店のことだろう。

アリサ姫の目論み通りになりそうだ。

「せっかくだから私たち三人でそのお店にいきませんか?」

「やったー!兄者に紹介したいと思ってたんだよねー」

紗々は嬉しそうにぴょんぴょん跳ねる。そこに騎士としての威厳は欠片もない。

だが妹としては愛らしく俺は口許を緩める。

「兄者が変な顔してるー」

そんな俺をからかう紗々だったが。

「紗々。お兄様に意地悪を言っては行けません」

「はーい」

叱られてもまったくへこたれない紗々は身支度を整えて製菓店に向かう。


「おじゃましまーす」

「あらいらっしゃい紗々さま」

いつも通りのことなのか紗々はずかずかと店内にはいる。

そして年を召した中年の女性が笑顔で迎え入れてくれる。

「おおこれはアリサ姫。本日はこのような姿で失礼」

「いいよいいよー」

店主の男性が恭しく頭を下げる。それを適当にいなす紗々に俺はしかる。

「こら紗々」

すると男性は驚いたような顔をする。

「こちらは紗々さまのお兄様ですか」

「はい恐れ入ります」

「うちの店は誰でも大歓迎ですよ」

店主の男性が案内してくれる。

「本日はこちらのフロランタンがおすすめです」

クッキーにキャラメリゼしたアーモンドのスライスがちりばめられたお菓子だ。

離れていてもナッツの香ばしい香りがして食欲をそそる。

「ねえねえシュトーレンは?」

「あちらは聖夜を前に従業員総出で取りかかっています」

本来シュトーレンはそう頻繁に食べるものではない。

特別な日に特別な人たちと食べるものだ。

それを紗々は理解していないので彼女はよくシュトーレンを口にするのだろう。

「あのな、紗々。シュトーレンは特別な日に食べるものなんだよ」

「ええーそうなの?」

びっくりしたのかすっとんきょうな声をあげる紗々だった。

「だったらねえ」

少しなにかを考えてから彼女は続ける。

「紗々は兄者と食べたい!」

「お前……」

兄として感慨に耽っていたが。

「あとアリサ姫とハインリヒとアンドリューと村のみんなと食べたい!」

どうやら俺は他のみんなと並列の関係のようだ。

「そう落ち込まないでください」

アリサ姫が苦笑ぎみに慰めてくれる。

「あーずるいアリサ姫。紗々の兄者を慰めてるー」

俺とアリサ姫が仲良くしていることに嫉妬しているのか邪魔に入ってくる。

「えいやっ」

なぜか俺に手刀を入れられる。

「痛いっ」

「へへーん。うわきもの」

「何をっ」

お返しに彼女の脇をこちょこちょする。

「こらお二人ともお店のなかですよ」

そして当然のごとくお叱りの言葉を受ける。

「では聖夜にはみなさんでパーティでもしましょうか」

かくしてお買い物は仲良く済ませることができた。

次はハインリヒ次第だな。

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