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part15 morning

「それでどうしたらこうなったのですか」

朝になり魔族がいなくなった教会に彼女は現れた。

ちなみに俺たちがメテオラの魔法を使ったせいで中はめちゃくちゃだった。

それに呆然とするハインリヒの姿も。

彼が驚いているのは魔法のせいだけではないだろう。

「アリサ姫、申し訳ありません」

「ごめんなさいー」

俺と紗々は深々と頭を下げた。

「でもどうしてここに?」

「それくらい少し調べればわかることです」

彼女の後ろには村の住民が何人かいた。おそらく俺が一緒に酒を酌み交わした連中も一緒だ。

「アリサ姫が部屋に軟禁されていたのって」

「噂は噂です。特にハインリヒがいない間は間者を使って私なりに調べていたのです」

すると背後にいたアンドリューが申し訳なさそうな顔をする。

「すみません界さま。姫様がこの件はご内密にとおっしゃったので」

彼が俺の力を借りるのを拒んだのもアリサ姫のために影で暗躍していたとしたら。

「あなたには一本とられましたな」

俺がそういうと彼は控えめにうなずいてアリサ姫の背後に戻る。

「それで魔族たちを全滅させたのですか」

朝が来て倒れた魔族たちは消滅した。

だが一部は元の巣に戻り援軍を呼んでいた。

数日の間にも彼らが襲いかかってくるだろう。

これもすべて騎士修道会の長であるハインリヒが悪魔に乗り移られていたせいなのだが当の本人は記憶が一部欠如していて今もぼんやりと空を見上げている。

「戦に備えなければなりますまい。アリサ姫指揮はとれますか?」

「ハインリヒは今は使い物になりませんものね。では私が指揮をとらせていただきましょう」

彼女は静かにうなずく。

「紗々もがんばるよー」

しょんぼりしていた紗々も戦いと聞いたらいてもたってもいられなくなったようだ。

「紗々はここで一度反省しなさい」

にっこりと笑いながらしかる姿に紗々は身がすくんだようだ。

「兄者ー助けてー」

「界も一緒です」

首根っこをひっつかまれてアリサ姫の説教を受ける。

「この教会は再建しようと事前に調査が入っていました。本来なら粉々になった石垣もそのまま復元しようという話だったのですが」

あなたたちが教会を破壊しましたからね、と彼女は微笑む。

「魔族が破壊した分以上にあなた方の魔法は強力だったようですね」

「ううっ。でも魔族が……」

「ハインリヒが夜な夜な教会で黒魔術を使っているという情報はこちらでも掴んでいました。それを危険を承知で跡をつけるなんて危ないと思わなかったのですか?」

粛々とただ頭を下げる俺たち二人にアリサ姫は説教をする。

「紗々、彼にもあなたは私の騎士です。あなたがいなくなったら主人である私も困ります」

「ううっ。ごめんなさい……」

素直に頭を下げるとアリサ姫は紗々の頭をよしよしと撫でる。

「あなたは私の大切な騎士なのですから危険な真似はやめてくださいね」

それに安堵したのもつかの間今度は俺が説教を受ける番になる。

「界も界です。一人で捜査にやって来てハインリヒのことを記事にしようとしていたのでしょう」

「どうしてその情報を」

「私にも色々と伝はあるのです」

だてに十数年お姫様をやっているわけではないんですと彼女は笑う。

「騎士修道会は確かに問題の大きな集団です。今は魔族と協力して我が王国を倒すという共通の目的があるでしょうがもとは烏合の衆です」

ハインリヒがいなくなればすぐに内部は崩壊するだろうと彼女は告げる。

「その肝心のハインリヒですが」

「記憶を失っているようですね」

俺たちが説教を受けている最中もどこか上の空なハインリヒだった。

「これでは罪に問えないでしょう」

悪魔と契約していたといったが俺が浄化魔法を使ったせいで悪魔は逃げてしまった。

また乗り移ることはないだろう。

「アリサ姫はハインリヒの生い立ちをご存じでしたか?」

「それは私たちの間の秘密としましょう」

彼はオットー家の傍流の貴族の一人息子ですよと微笑む。

おそらくアリサ姫は彼が自分の異母兄ということを知っていたのではないか。

だからおとなしく従うふりをして情報収集に専念していたのではないか。

彼女も一筋縄ではいかない相手だなと俺は苦笑する。

「ともかく界、あなたの目的はこちらで把握しています。裏で何があったかを知っても誰も幸せになりませんよ」

だから記事にするのはよしてくださいねと圧力をかけられる。

だが俺はどうしてかその言葉の裏に彼女の本心が見える気がした。

本当ならすべてを明らかにしたい。

だが立場上それをしたら騎士修道会は混乱の一途をたどるだろう。

俺はある考えに至る。

もしできるなら真相をソフィア誌ではなく別の雑誌で行いたい。

アロンソに話したら実現できるだろうか。

「何を考えているのですか?」

俺の心を見透かすようにアリサ姫は俺に問う。

「いえ。申し上げるほどのことではありません」

「ふふっ。紗々も困った兄上を持ったのね」

「うーん。そだねー」

なぜだかお叱りタイムが終了し紗々はアリサ姫側についていた。

「おい紗々それってひどくないか?」

「ひどくありません」

「ひどくないよー」

二人は顔を見合わせて笑いあう。

この二人騎士と主人の仲だけあって結束が強い。

「兄者はいつも一人で行動するのが好きだからー」

兄の俺を弁護するつもりはないらしい。

「困ったものですね」

「うんうん紗々も困っちゃうよー」

まるで俺が悪者みたいな扱いになっていた。

これは続けても俺に勝ち目がないので話題を変える。

「それよりハインリヒの処遇はどうする?」

「兄者、話そらしたー」

妹の紗々に指摘されるが気にしないことにする。

「いいのです紗々」

確かにそれが問題ですものねとアリサ姫はうなずく。

俺と彼女は二人でハインリヒのもとに近づく。

「おい界、アリサ姫今どうなってるんだ」

予想通り彼は現状をのみ込めていないようだ。

「俺はなぜ昨日教会にいたんだ」

俺に向かって質問するがそれに答えるかどうか迷った。

「あなたは悪魔と契約していたそうです」

「界っ」

できるなら本人には知らせたくなかったのだろう。

アリサ姫が語気を荒げる。

「申し訳ありません。ですが悪魔はあなたの身体から出ていきました」

だから大丈夫ですよと告げる。

するとハインリヒが首をかしげた。

「俺が悪魔と契約?嘘だろう」

いくらなんでもと冗談だと思ったのか彼は失笑する。

裏で魔族とも繋がっていたといったら彼は驚くだろうか。

「界、それ以上言ったら私は許しませんよ」

アリサ姫は怖い顔をする。やはり二人は兄妹なのだろう。

怒った顔はよくにていた。

だがこの真実は俺が墓場にいくまで持っていかなければならないものだ。

「分かりましたよアリサ姫。あんまり俺ばかり怒らないでください」

理解したとうなずくと彼女はホッとした顔をしていた。

「ハインリヒの処遇については私が決めます。表向きは病気で療養としますが騎士修道会の長として罷免することはありません」

騎士修道会の内部の混乱を防ぐためそういう結論に至ったのだろう。

「アリサ姫もし仮に俺が悪魔と契約していたのならば甘いんじゃないか?」

さすがのハインリヒも自分の記憶の欠落に不穏なものを感じたらしく質問する。

「あなたにはこれから私の下で働いてもらいます」

それが条件ですと彼女は告げる。

「アリサ姫の下で……」

それは今まで自由にできたことが制限されるという意味だった。

「それは俺が承知しても騎士修道会の連中は反発するのが目に見えている」

ハインリヒは反対するが。

「そうでなければあなたはちっきょ処分となります」

彼女の言葉は重かった。

「結局俺には反論する権利はないってことか」

ハインリヒはため息をつく。

「わかった。俺はアリサ姫の下で働かせてもらうよ」

彼は不精不精だがうなずいた。

「俺の記憶がないっていうのは端から見ても明らかだからな。当分はアリサ姫の補佐くらいしかできないだろう」

それでもいいかと尋ねる。責任感の強いハインリヒらしい。不遜だがそういうところを気にする辺り真面目なのだろう。

「騎士修道会の連中が文句をいうだろうけど俺もアリサ姫の下につくからには黙らせてやるよ」

ちょっとそれはやりすぎじゃないかと思ったが。

「ハインリヒ、無理しなくていいんだぞ」

「俺を誰だと思っている」

騎士修道会のトップだろと答えると。

「だから俺は修道会の行く末を見守らないと」

彼も修道会の裏に暗いものがあるのは気がついているのだろう。

その責任を取ろうとするならば最後までと思っているはずだ。


アリサ姫とハインリヒの二人には厳しい現実が立ちはだかるだろうが二人ならきっと大丈夫だろう。

俺はそう思った。

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