↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
RE:LIGHT  作者: SORA
第1巻「失われた日」

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
8/16

第8話「政府会見」


 翌朝。


 避難所のテレビの前には、いつもより多くの人が集まっていた。



 工場で働いている人。

 病院に家族がいる人。

 停電した家へ戻れない人。

 仕事がいつ再開するのか分からない人。


 誰もが、何か一つでも答えを求めていた。


 レイも父の隣に座っていた。


 ルカは足元で身体を丸めている。


 会見が始まるまでの時間が、ひどく長く感じられた。


 レイの近くにいた男性が、小さく言う。


「原因さえ分かればな」


 隣の女性が頷いた。


「直し方も分かるかもしれないし」


 レイもそう思った。


 世界の混乱が少しでも収まれば、香織を探すことだって今よりやりやすくなるかもしれない。


 通信が戻るかもしれない。


 病院や避難所の情報も、もっと集まるかもしれない。


 もちろん、政府の会見で母の居場所が分かるわけではない。


 それでも、今は世界そのものが止まりかけていた。


 画面の隅に、開始までの時刻が表示される。


 あと五分。


 避難所の話し声が少なくなる。


 あと一分。


 父が腕を組んだ。


 レイはテレビから目を離さなかった。


 やがて映像が切り替わる。


 長い机。


 並べられたマイク。


 その向こうに、数人の政府関係者が座っていた。


 大量のシャッター音が鳴る。


 中央の男が資料を開いた。


「それでは、現在確認されている一連の事象について説明します」


 避難所が静まり返った。


「先日の大規模地震以降、国内の複数の分野において、専門的な知識および技術を想起できない事例が多数確認されています」


 記者たちが一斉にメモを取る。


「当初は、災害による疲労、心理的負荷、通信や設備の損傷など、複数の要因が検討されました」


 男は一度、資料へ目を落とした。


「しかし、その後の調査により、同様の事例が国内の広い地域で発生していることが確認されました」


 画面に日本地図が表示される。


 いくつもの地点に印がついていた。


「さらに、各国政府および関係機関からも、極めて類似した報告が寄せられています」


 日本地図が世界地図へ変わる。


 印は、日本だけではなかった。


 世界中に広がっている。


 レイは息を呑んだ。


 ニュースで見ていたより、ずっと多い。


 記者の一人が手を挙げた。


「原因は地震なのですか?」


 中央の男はすぐには答えなかった。


「現時点で、因果関係は断定できません」


「では、大きな揺れがなかった地域でも起きているのはなぜですか?」


「それも含め、現在調査中です」


 別の記者が声を上げる。


「資料が残っているなら、再教育は可能なのでは?」


 避難所の何人かが頷いた。


 レイも同じことを思っていた。


 忘れたなら、見直せばいい。


 分からないなら、もう一度覚えればいい。


 学校の勉強なら、そうしてきた。


 しかし、政府関係者の表情がわずかに硬くなった。


「その点についても、各分野で再学習が試みられています」


 一度、言葉を区切る。


「しかし、対象となる知識については、文書や映像などの記録を用いても、従来と同じ理解に至らない事例が確認されています」


 避難所がざわついた。


「再学習できない?」


「じゃあ資料があっても駄目なのか?」


 テレビの中でも質問が重なる。


「専門書も設計図も残っている。それでも復旧できないということですか?」


「現在確認されている一部の分野では、その状態が続いています」


 レイは父を見る。


「これって……直せないってこと?」


 父はすぐには答えなかった。


 画面では記者たちが次々に手を挙げている。


「全部じゃない」


 父はやがて言った。


「今動いてるものまで、すぐ使えなくなるって話じゃない」


「でも、壊れたら?」


 父は黙った。


 その沈黙で十分だった。


 レイは避難所を見回した。


 天井の照明。

 壁の時計。

 テレビ。


 スマホ。


 今まで、そこにあることを気にしたことすらなかったもの。


 壊れれば直す。


 古くなれば新しく作る。


 誰かができるから、自分は知らなくても困らなかった。


 その「誰か」が、世界中で同時に分からなくなっている。


 レイは十四歳だった。


 社会がこれからどうなるのか、具体的には想像できない。


 ただ。


 昨日まで当たり前だったものが、当たり前ではなくなった。


 それだけは分かった。


 会見場では、別の記者が立ち上がった。


「確認させてください。これは、単に作業手順を忘れたということではないのですか?」


 中央の男は資料へ目を落とす。


「現時点では、原因そのものを断定できる段階ではありません」


「では、なぜ記録を見ても戻らないのですか?」


 別の声が重なる。


「どの分野が対象なのですか?」


「元に戻る可能性は?」


「生活への影響は?」


 質問が続く。


 政府関係者たちは、そのすべてに明確な答えを持っているわけではなかった。


 分かっていないことの方が多い。


 レイは足元のルカへ手を伸ばした。


 青い模様が、いつもと変わらず淡く光っている。


 変わらないものがそばにあることが、少しだけ安心だった。


 中央の男が、改めてマイクへ向き直る。


「現在、各国と情報を共有しながら調査を進めています」


 シャッター音が止まない。


「国や言語、年齢にかかわらず、共通する知識領域に同様の欠落が確認されています」


 レイは眉をひそめた。


 欠落。


 その言葉の意味を考える。


 男は続けた。


「これは、単なる設備故障や一時的な混乱ではありません」


 避難所から音が消えた。


 誰も動かなかった。


 レイの手だけが、ルカの背中に触れていた。


 テレビの中の男が、一枚の資料を置く。


 そして、ゆっくりと顔を上げた。


「現時点で、各国の調査機関が一致している見解をお伝えします」


 父も画面を見つめている。


 レイは無意識に、ルカの背中を掴んだ。


 男は言った。


『世界中で、人々の記憶の一部が――失われています』

◇


第一巻 END

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。