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1,悪女は突然捕らえられる


ご覧くださり、ありがとうございます( .ˬ.)"

完結まで書ききっておりますので、安心してお読みいただけます。


本編をどうぞお楽しみください!



「お前がレニエラ・プラーシルだな。話は留置局で聞かせてもらおう」


 警騎士の制服をまとった男はわたくしを睨み付けると、こちらの釈明を一切聞くことなく手枷を付けてきました。


 ――は?


 突然腕に付けられた、鈍色に光る冷たいそれ。ずっしりとした重みを感じながら、わたくしは虚ろな瞳で手元を見下ろすしかありませんでした。




挿絵(By みてみん)




 それは一時間ほど前のことでしょうか。


 わたくしの元に、急に使用人達が押しかけてきたのです。


 部屋から連れ出されて浴室に入れられ、総出で全身を手早く洗われて。そのまま、装飾がギラギラと光る真っ赤なドレスを着せられました。


 けばけばしい化粧とヘアセットまで施され、最後には鼻を突くほどきつい香水を振りかけられて。


 そうして来客室へ連れてこられた結果が、この有り様です。


 全く状況が読めないのですけれど?


 ただ、部屋の剣呑な空気と警騎士達の険しい表情から、単なる揉め事ではないことだけは分かりました。


 わたくしは、警騎士の顔と自分の腕に付けられた手枷を二度見します。霞む目を凝らすと、手枷に魔力封じの魔石が埋め込まれているのが見えました。


 ただでさえ重だるい体に、更に負荷がかかったように感じます。あぁ……つらい。


 それから、こちらを遠巻きに見ている四人に顔を向けます。

 

 父と義母、義姉、義弟……全員の顔には嫌悪感がべっとりと貼り付いています。彼らを冷めた目で見返し、そして心の中で呟きました。


 ついに、何かやらかしましたのね?――と。


 しかし、そんなわたくしを無視し、父は警騎士に対して目を伏せ、申し訳なさそうに肩を落としました。


「……警騎士の方々も既にご存知かもしれませんが、お恥ずかしいことに、我が家の次女には宜しくない噂があり……」

「あ、あぁ……いやまぁ、そう……だな」


 父の発言に警騎士達は視線を逸らし、誤魔化すように言葉を濁します。

 

 わたくし――レニエラ・プラーシルは、社交界でちょっとした有名人なのですわ。その名を知らぬ者がいない程に。

 

 ……まぁ、悪い意味で、ですけれど。


「私共もほとほと手を焼いており、ついにこのようなことを起こしてしまって……面目ない」


 このようなこと……とは、どのようなことですの?まるで取り返しのつかない何かが起きたようではありませんか。


「いや、事実を明らかにしてくれたことに感謝する。当主代理殿も事情聴取をお願い出来るだろうか?」

「それは勿論です。……ですが」


 途中で言葉を切り、父は三人へ視線を向けました。その表情は何とも思いやりに溢れ、胡散臭いことこの上ありません。


「突然のことに、妻や子供達もショックを受けているようで……。今日は家族に付いていたいのです。事情聴取は後日でもかまいませんかな?」

「それは配慮が足りず、失礼した。ひとまず最低限必要な話だけ伺って、細かな事情聴取は後程要請を届けさせる。出来れば近日中に話を聞かせていただきたい」

「あぁ、承知した」


 義母は顔に疲労を滲ませてソファに座り、義姉は義弟に甘えるように縋り付きながら震えています。義弟は、泣いているらしい義姉の背中を撫でて慰めているようです。


 そんな傷付いた妻や子供達を労る父。

 

 こうして見れば、とても温かな家族と一人のはみ出し者に見えるでしょう。


 全くもって――


「ばかばかしい……」


 ぼそりとこぼした独り言に、その場にいた警騎士達はギロリとこちらを睨み付け、父は顔を(しか)めました。


「あの表情をご覧ください。我々が何を注意しても、いつも反省が見えないのです。日頃から散財ばかりして、派手な格好で遊び歩いて……。領民の血税だというのに」

「……なるほど、心中お察しする。いくら実の子であろうとも、思うように育つとは限らんからな。他のご令息やご令嬢への教育はしっかりなさっているようだし、当主代理殿や夫人ばかりを責めるのも酷というものだろう」

「ははは。そう言っていただけると、少し心が楽になりますな」


 警騎士に媚びへつらう父に吐き気を感じながら、わたくしは隠すこともなく大きく溜め息を吐きました。


 何を反省しろと?わたくしは何も知らされていませんのに。


 一層空気が悪くなったのを肌で感じましたが、これ以上どう思われようとかまいません。もともとわたくしの評判など地に落ちているのでしょうし、今更ですものね。


「レニエラ……いい加減にしないか。ラウラを妬んで、アマン殿を手にかけるとは……。私とて、もう庇いきれん」

「お義父様(とうさま)の言う通りよ!レニエラが、実はアマン様を慕っていたのは気付いていたけれど……。何度声をかけても相手にされないからって、花瓶で殴り殺すなんて!私の大切な婚約者だったのに……うぅっ」

「ラウラ……」


 わたくしに向かって、父は苦々しげに言いました。震えていた義姉――ラウラはグレーの瞳から大粒の涙をこぼし、ふわふわとした栗色の髪を振り乱します。

 

 そんなラウラを支えるべく、義弟のミルズは静かにハンカチを取り出し、ラウラの目元に当てています。


 手にかけた?殴り殺した?わたくしが?ラウラの婚約者を?いえ、そもそも何故そんなことになったのですか?


 (もたら)された情報のせいか、根本的な生活のせいか、わたくしは頭痛のする頭を押さえながら疎ましい光景を見据えました。


「――姉妹でこうも違うのだな」


 そう吐き捨てた警騎士を、細めたままの目で受け止めます。


 顔を逸らすことなく怯まないわたくしの態度に、警騎士は驚いた後、更に顔を険しくさせました。咳払いをしてから視線を断ち切ると、父の方へ体を向けて彼らを慮ります。


「当主代理殿。我々はこのまま令嬢を連行し、一旦、貴人留置塔に移す。ただし、殺されたのはオルドラーク伯爵家の嫡男だ。実刑は免れないだろう」

「……そうでしょうな」

「そなたら家族に非がなかろうとも、彼女がプラーシル家の者のままであると少なからず影響が出てしまうはずだ。立派なご令息とご令嬢がおられるのだ。こちらの令嬢の放逐を希望されるのであれば、早めに動かれることを勧める」

「うむ。このようなことになってしまった以上、そうするしか……」


 悲壮な顔をして頷いた父の台詞を聞いて、ついに鼻で笑ってしまいました。

 

 それを見て、手枷の先の鎖を握る警騎士が我慢ならないという様子で吠えました。


「貴様、何がおかしい!令嬢とはいえ、これ以上そのような態度だと容赦はせんぞ!」

「だって、笑いたくもなりますよ。ねぇ、お父様?」

「は?な、何を……」


 たじろぐ父に、わたくしは悠然とした態度で冷笑を浮かべます。静まり返る来客室の入り口で、堂に入った悪女のように――。


「わたくし、今日からいなくなるみたいですけれど……楽しみですわね、この家がどうなるか。それなら今すぐ縁をお切りくださいな。――本当に、それで良いのなら。ふふふっ、あはははは!」


 わたくしは壊れたように高笑いしました。父や義母は瞳に憎悪を燃やし、警騎士達は気味悪そうに、こちらを見ています。


 憎悪?気味が悪そう?

 

 ――それはわたくしの台詞でしょう?


 心のままに満足するまで笑ってから、警騎士に一歩近付きます。わたくしはしゃんと背筋を伸ばし、自ら手を突き出して宣言しました。


「さぁ、どうぞ――わたくしをお連れくださいな」





投稿初日のため、本日はあと3回の投稿(12:10・16:10・18:10) を予定しております!

基本的には、毎週土日・10:10と18:10の週4本更新でお送りいたします。

(明日もこちらの時間で2本更新いたします)


分岐する4つのエンディングについて、4話のあとがきにネタバレなしで記載いたします。先にご確認されたい方はそちらをご一読ください。


応援のほど宜しくお願いいたします( .ˬ.)"


また、お知らせをさせてください!


短編:【 不仲と噂の婚約者が、紅茶をかけられた私を見てブチ切れました 】

こちらが有難いことに多くの方にお読みいただけ、日間総合3位を獲得させていただきました!そこで、イラストレーターの方に表紙絵を描いていただけることになり、続編を執筆いたしました!


短編(続編):

【 婚約者との不仲を噂された私、隣国の王女殿下の通訳として無礼な令息達を黙らせました 】


挿絵(By みてみん)


イラストレーター・朝霧きか先生に素敵な表紙絵を描いていただきました!

こんな素敵なイラストを描いていただけて感無量です……!

続編では、イーリスの本領が発揮されます。

是非お読みいただけますと幸いです( .ˬ.)"


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