第55話:隠し通路
――アクイ研究所
緊急事態アラートが鳴り響く。
如何にも心臓に悪い機械音は、人間の神経を刺激しパニックを誘発する。
たいてい、いや、十中八九、緊急アラートが鳴り響く時はろくでもない事態と相場が決まっている。
ましてや、ここはアクイ研究所。
彼女が統括するこの研究所は、主に3段階のアラートが設定されている。
警戒アラート、緊急アラート、脱出アラートと危険度によってそのアラート変わる。
非人道的な研究に着手する研究員は勿論、警備兵達もここがどういった時に襲撃され、自分達がどんな目に遭うのか想像に難くない。
それ故、彼らは滅多な事ではアラートが作動しないように防備を備え点検も怠らない。
しかし――
そのアラートが今掻き鳴らしていた。
「何があった!」
「侵入者です!」
「どこからだ!」
「それが……」
「どこだ!」
「正面、玄関から、二人ほど」
「何!?正面突破だと!?しかもたった二人で!気でも狂ったか!」
――
――アクイ研究所男子トイレ
左右に並ぶ便器のさらに奥、薄暗い通路の行き止まり。見上げるような高所にある換気用の細窓から、微かな光が差し込んでいる。
その真下――壁に敷き詰められた四角い石タイルの一角が、カタリと軽い音を立て、外側へと静かに開き始めた。
石タイルが開き姿を現したノッポでゴーグルを装着した男、ノッチは不敵に笑い一歩前へ出る。
「フッハハハ!やはり、ロマンでヤンスねぇ。隠し通路は!研究員時代夜な夜な一人で作業したかいがあったでヤンス!」
ノッチに続きトイレへ出たクラウンはキョロキョロと周囲を確認する。
「ここは?」
「ここは西方にある男子トイレでヤンス。アクイ研究所は、それぞれ北方、東方、南方、西方と研究部門が別れ日々研鑽させているでヤンス。局長、アクイ博士の研究室は中央にあるでヤンス。恐らく地下のストックルームにミロット殿とカミラ殿が囚われているでヤンス。」
「ストックルーム……。」
妙な響きにクラウンは不安気な顔を浮かべると、ノッチはすぐさま返答してくれた。
「大丈夫でヤンスよ。ストックルームには色んな被検体がいるでヤンス。最近入ったばかり被検体が実験に使われた可能性は低いでヤンス。」
「被検体って一体どんなことをされているんですか?」
「被検体のタイプによって変わるでヤンスからね。一概には言えないでヤンス。しかし、アクイ博士は気になる特殊能力や外見的特徴のある生命体から着手するでヤンスからね。実験用モルモットとして人間が扱われることはあまりないでヤンスよ。ミーがいた時も、被検体Numberも名前も決まっていない人間がいっぱいいたでヤンスからね。」
「被検体Numberと名前はどうやってつけられるんですか?」
「Numberは実験に着手した順番。名前は特徴でヤンスね、恐らく。逆に言えば名前もNumberもついていなければ何もされていないってことでヤンス。」
クラウンは一息ついた。
クラウンの脳裏に過った、シノンの肉親をベースに作られたキメラの記憶を知っていただけに、ノッチの発言はクラウンの不安を幾分かマシにさせた。
「そろそろ行くでヤンスよ!」
「はい」
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