第49話:儀
数分にも満たない、しかしあまりにも濃密な、血と鉄の時間が通路を支配した。
横一列に並んだ兵たちの長槍は、突き出される刃の一撃一撃に、生き残ろうとする色気など微塵もない。ただ、己の肉体を肉盾にしてでも、クラウンたちの前進を一瞬でも遅らせようとする、捨て身の特攻。
だが、クラウンの放つ一撃は、その凄絶な覚悟すらも真っ向から粉砕した。
容赦も、躊躇もない、手加減なしの全力。
それが、命を賭して立ち塞がった彼らに対する、クラウンなりの敬意だった。
「が、は……っ! まだだ、まだ……おのれぇ!」
血を流し、骨を砕かれながらも、兵たちは倒れる間際まで槍を手放さず、クラウンたちの足首を掴もうと血の手を伸ばした。
最後の一人が動かなくなるまで、誰一人として背を見せて逃げ出す者はいなかった。
静まり返る通路。赤く染まった絨毯を踏み越え、クラウンは一番奥にある、古びた、しかし重厚な意匠が施された扉の前に立つ。
バッシュバルト家当主、ミザギの執務室だ。
クラウンは無言で、血の付いた得物を引きずりながら、その扉を力任せに蹴破った。
バァン! と激しい音が響き、扉が左右に跳ね上がる。
部屋の奥、美しく磨かれたガラス窓を背にして、一人の老人が静かに佇んでいた。白髪に真っ白の髭を蓄えた、この城館の主。
外の喧騒をすべて聞いていただろうに、男の表情には、不思議と怯えの色はなかった。ただ、すべてを諦めたような、同時にすべてをやり遂げたような、奇妙に静まり返った瞳でクラウンたちを見据えている。
「馬鹿者めが」
ミザギが、ぽつりと呟く。それは命令に背いて果てた、愛すべき不器用な部下たちへ向けられた言葉だったのかもしれない。
クラウンが一歩、部屋に足を踏み入れた。張り詰めた空気の中、周囲の酷く簡素な内装を一瞥し、そして目の前の老人に厳しい視線を向けた。
「――貴方が、この土地の領主ですか」
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