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憧れの『英雄』に殺されかけたので。命を救ってくれた人殺しに脅されて、僕は革命軍に入ります  作者: 日影 聖真


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第1話:土地神を祀る村、偽りの平穏


 信じていた英雄に故郷を焼かれ、僕は一度、命を落とした。

 燃え盛る村、冷え切った英雄の瞳、そして僕を貫いた『人殺し』の刃。


 ――あの日、すべてを失った僕の心には、もう復讐という名の火しか残っていない。

 これは、地獄の底から這い上がった僕が、偽りの正義ヒーローを一人ずつ堕としていくまでの記録だ。




---


 土地神。それは、天の使いとまで称される神秘の存在だと、長老は言う。この世界のバランスを保つバランサーであり、凶暴なモンスターとはまったく異質なのだと。


 しかし、夢見がちな僕らの年代にとって、街を襲う脅威を華麗な技と人知を超えた力で倒すナンバーズこそが、よっぽど分かりやすい崇拝の対象だった。


 涼やかな風に木の葉が揺らぎ、その隙間から木漏れ日が差す静かな森で、僕は優雅にくつろいでいた。

  

 田舎暮らしの僕にとって、これは何も特別なことのない、ただの日常だ。唯一特別なことと言えば、僕が椅子代わりに寄りかかっている極上の絨毯が、この村の土地神様だということぐらいだろう。


「コラ、クラウン!土地神様の手入れ、またサボってるでしょ!」


 僕に声をかけた少女はルミ。ちょうど僕と同い年で、左肩から正面に三つ編みに織られた髪を持つ、僕の幼馴染だ。


 近くの村では可愛いともっぱらの噂だが、僕からすれば少し口のうるさい幼馴染である。


「サボってないって。ただ、ちょっとぼーっとしてただけっていうか……」


「それをサボってるって言うんでしょ!」


「アハハハ、そうなのかな?」


 僕が少しバツが悪そうに苦笑いを浮かべると、ルミはため息をついて肩をすくめた。


「もう、クラウンったらしっかりしてよね。今日は皇都に行って、夢だった騎士になるんでしょ?」


「そうだね。でも、騎士になる前に、まずは正隊員にならないとね。」


 その時、昼寝をしていた虎型の土地神が、ビクッと身震いをして立ち上がった。そして、何かを察知したかのように、森の奥深くへと静かに姿を消した。


「どうしたんだろう?」


「さあ、ご飯かな?」


 土地神の突然の行動に首を傾げながら僕ら二人でその姿を見送っていると、僕はふと思い出し、ルミに尋ねた。


「そういえばルミも、僕と一緒に皇国に行くんでしょ?もしかして、ルミも騎士になりたかったりするの?」


 ルミは少し困ったような顔をした後、申し訳なさそうに口を開いた。


「クラウンには悪いんだけどさ。私、あんまり騎士ってどんな職業なのかわかってないんだよね。騎士って何がすごいの?」


「えーっ!ルミ、騎士が何か知らないで、僕と一緒に騎士になろうと思ってたの!!?」僕の憧れを、まるで雑多な選択肢の一つかのように扱われた気がして、語気が強くなる。「一緒じゃないよ!アンダーズっていうのはナンバーズに次ぐ地位の騎士のことで、騎士っていうのは一般兵から選ばれた、とってもすごい称号なんだから!」


 興奮を通り越して熱狂的に、僕は持論を展開した。まるで、クラスの女子にキモがられるオタクのように、夢中になって語っていた。


「でも、アンダーズって結構いなかった?なんかアンダーなんとかってやつとか……。」


 ルミはオタク化する僕に微動だにすることなく、普段通りに言葉を交わす。


 おそらく、ここが第三者の赤の他人であったのなら反応も変わったのだろうが、気心も知れた幼馴染ともなればこんなものなのだろう。


「アンダーズのことだね。確かにアンダーズは、ナンバーズに比べれば見劣りする。でもそれは、近年劇的に数を増やしているモンスターを討伐するのに、仕方なく騎士の称号をもらっただけっていうか。」


「じゃあ、クラウンはアンダーズは騎士って認めてないの?」


「認めないとは言わないけど……」


 言葉に詰まった。アンダーズ。エリートであることは間違いない。だが、やはり僕らの興味の対象は彼らではない。


 どんなに優れていようと、結局目を引くのはより優れた存在。僕の憧れは、「ナンバーズ」にしかなかった。



「認められない程度で悪かったな!ガール&ボーイ!」


 唐突に、男の声が響き渡った。

 どこからか聞こえた男の声は、その声だけで、自信に満ち溢れているのがわかった。


「誰ですか!?」


声の主を見つけるべく視線を前後左右に動かし、木の上にいる男と目が合った。


「誰って、俺様のことか?」


 男はスッと二足歩行のモンスターの上に降り立つと、即座に内ポケットの櫛を引き抜き、リーゼントの先端に薔薇を挿した髪を整え始めた。


 彼が纏うのは、油の匂いと、革の硬い軋み。僕やルミが身に纏う、風に擦れて音を立てる粗い麻布の服とはあまりにもかけ離れた、硬質で都会的な空気の持ち主だったのだ。彼と僕らの間には、触れれば割れそうな、空気の質の断絶があった。


「俺様はハイウェイ!ハードボイルドの虜さ!」


 ウィンクを決め、両手の人差し指と中指だけを伸ばして銃の形を作ると、僕に向けて決めポーズをとる。


「なんか、愉快な人だね。」


「そうね。」


 ハイウェイのハイテンションな登場に、僕とルミは少し引き気味だった。

 しかし、ハイウェイはそんな僕らの様子をお構いなしに問いかけた。


「デート中悪いが、この辺で危険種を見なかったかい?」


「見てないけど……」


「そうか!それは悪かったね。気にせずデートを楽しみたまえ!ハイヤー!」


 ハイウェイは二足歩行のモンスターの手綱を改めて握りしめ、高笑いしながら森へ消えていった。


「なんだったんだろう……」


「さあ?」


 ハイウェイの異様なテンションに、僕ら二人は呆気にとられていた。



お読み頂き、ありがとうございます。




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