ヒットマン大森
2006年 獄界町
「桜井もか・・・押坂先生は何と?」と米田組長は聞く。「桜井は重症です。肺がやられて今は昏睡状態だということです。「そうか・・・岩居のダメージは?」「気絶させましたがそこまでではないでしょう。久保島は殺しました。」「ええ。向こうに死者を出しただけでも上出来だ。だがこの戦争、けりをつけなきゃならねえ。」そう言って米田は封筒を取り出す。「これは・・・」
封筒の表には「善輪会金山組小原一家小原宗兵衛総長殿」と書かれている。「小原一家に条件付きで停戦を申し出る。」「て、停戦ですって!?しかし・・・」「ああ、言いたいことは分かるぜ。奴らを放置すれば奴らをケツ持ちにしている魔瑠狗須の奴らは好き放題だからな。」「ええ、それに俺らは原山太闘会の中では武闘派として知られています。ここで奴らに芋引いたんじゃ・・・」「馬鹿野郎!」米田はいきなりパンチを飛ばしてくる。「うおっ!すみません・・・」「俺が言いてのは俺らが泣き寝入りをすることじゃねえ。条件付きだと言ったろ。」「はい・・・」「その条件が何か分かるか?」「条件?富樫の件で奴らが取ったシマの返還ですか?」「それも入っている。だがそれだけじゃない。」「となると・・・魔瑠狗須?」「ああ、そうだ。小原一家は本来仁義外れじゃねえ筈だ。片山若頭が副総長を兼任するようになってから悪い噂も聞くようになってきたがなあ、俺は奴らを信用するぜ。片山だって本来は仁義外れじゃねえと俺は信じてる。奴らに魔瑠狗須のケツ持ちをやめて魔瑠狗須の撃破に協力するようにという条件がここに書いてある。」「では、奴らへの報復は待ちます。」「ああ、そうしてくれ。魔瑠狗須の連中はやってもいいが返答があるまでは小原一家には手を出すな。」
2006年
「てめえを信用した俺が馬鹿だったぜ!」小原一家幹部守屋はそうどなる医務室で療養中の岩居の体を蹴りつけ、ベッドから落とすと踏みつけた。「すみません・・・おえっ!」「この役立たずが!てめえは一生そこにいやがれ!」そう言うと守屋は自室に戻っていく。
「ったくよお、どいつもこいつも使えねえ。なあ。だが、まあいいや・・・」そう言うと守屋はにんまりと笑い、部屋の清掃を終えた舎弟に声を掛ける。「お前らさあ、大森を呼んできてくれねえか?」「へい、ただいま。」
そう舎弟が走っていった後守屋は部屋の中に入り、驚く。「おや・・・叔父貴!」「よう守屋。」来客用の椅子に座っていたのは小原一家総長小原宗兵衛の舎弟である西山源太郎だ。「どうしたんです?」「実はなあ、ちょっと気になってることがあるんだよ。」「ほう・・・」
そう言って守屋の顔は引き締まる。この西山という爺さん、なかなか食えねえ。小原総長の舎弟の中では一番若く、63歳だ。最年少舎弟のためか舎弟頭や顧問といった役職には就いていない。だが洞察力が鋭いという噂があった。
「赤城先生から聞いたぜ。お前、岩居に焼き入れたんだって?」「ええ。野郎、米田組のトップ2星山を射殺するチャンスがあったにも関わらず野郎と殴り合って負けてきやがったんすよ。」(チッ、医務室の赤城とかいう闇医者・・・気に入らねえな。)「そうか・・・岩居は星山と殴り合ったのか。すげえ勇気だなあ。」「ふん。意気地なしですよ。」「おいおい、米田組の星山と言えば地下格闘技で鍛えた圧倒的なパワーと回復力だぜ。そいつに素手で挑むなんてよお。もっと褒めてもいいんじゃねえの。」「そうっすかね。でも俺らは今抗争中だ。勝つか負けるかが全てですよ。」「ほう・・・俺らと違ってお前らは血気さかんだなあ。」「叔父貴、お言葉ですけどねえ・・・」そう言うと守屋は西山を見下ろすように立ち上がる。そして少し語気を強めて言う。「・・・俺らが血気盛んじゃねえんですよ!叔父貴達が米田組に対して楽観的すぎるんですよ!あの凶悪集団は放置しておいてはいけねえ。どんな手段を使ってでも奴らを叩き潰さなきゃなんねえんです!」「なるほどな・・・まあ頑張ってくれや。だけど、焼き入れはほどほどにしとけや。」そう言うと西山はゆっくりと立ち上がり、出て行く。
「けっ、あの野郎80代の爺どもと一緒にいるせいで奴らの影響受けてボケちまったみてえだな。カシラとそう変わんねえ年なのにあんなにも差があるものかねえ・・・」
そのとき、入れ替わるように顔の真ん中に傷が走った細身の男が入ってくる。「おう、よく来たな大森。お前の出番だ。」「へい、楽しみにしておりましたよ。米田のタマ、とりゃあいんですよね?」「ああ、お前の手で米田組を壊滅させてやれ大森。」と言うと守屋は醜く笑った。
翌日 銘游町
武闘派組織五和会飛田組のオフィスで電話が鳴り響く。「おっと・・・」電話番が会計書類から顔を上げて電話を取る。「へい、もしもし飛田産業です。え!何だと!ああ・・・おいちょっと待て!あんたは誰だ!?あん?てめえのような怪しい奴に親父は構ってる暇はねえんだよ。」
だがその部屋住みの後頭部をいきなりつかむ男。「おい、それは俺が決めることだガキが!」「へ、へいすんません・・・」「ったく・・・この役立たずが!」
そういうとスキンヘッドで巨体のその男は電話を取る。「電話変わりやした。飛田組組長菅原です。で、あんたは何者でご用件はなんですか?ああ?なるほどね・・・先代の息子が世話になりやした。うん、うん・・・ああん?あのクソ野郎を!?まってくれ。先代と相談してまた折り返し電話しやすよ。」そう言って電話を切ると菅原は部屋に戻る。
「親父、どうしやした?」と問うのは飛田組若頭の荒浜だ。「よお、荒浜。今よお、先代の息子が世話になったチンピラから電話があった。」「え!?とすると正敏君と親しかった黒沢とかいう野郎っすか?」「ちげえな。奴らよりも後輩の連中のアタマだ。確か・・・海棠とか言ったな。そいつだ。」「海棠ですか。正敏君に引っ付いていたあの弱そうな野郎かぁ。で、奴から今更何を?」「あの野郎、米田組との喧嘩中だが俺らにも加わって欲しいってさ。」「ええ・・・そりゃあ無理ですぜ親父。奴らは馬鹿ですね。米田組なんかにあのチンピラ集団が勝てますかね。それに今のアタマは海棠でしょ?奴にそんな大胆なことをする肝っ玉があったこと自体驚きですぜ。」「ああ。だがなあ、奴らが言うには今回の喧嘩は小原一家をケツ持ちに付けているとか。」「は!?小原一家ですって!あいつらは米田組と共に獄界町を牛耳ってやがる連中でしょ!?奴らが協力しますかね?」「ああ。奴ら、米田組の内通者を使ってシマ荒らしを自作自演したらしいぜ。」「俺は信じられねえですがねえ・・・とりあえずチンピラ集団のことなら俺らより飛田総裁のほうが詳しいっしょ。」「ああ。だから飛田総裁に連絡する。もし総裁の承認があれば・・・俺らは米田組に宣戦布告する。」と言うと菅原は卓上電話を取って飛田組前組長現総裁の飛田に電話をかけ始めた。
二日後
星山は街のパトロールを舎弟達に任せて自室で事務仕事をしていた。(ああ、眠いぜ・・・事務仕事は慣れねえな。まあ山城の兄貴はこれを一日中やってたんだ。俺もまだまだだな・・・)
そのとき、「ぐわっ!」という大声が聞こえる。そして銃声。
「あん!?」星山は机から立ち上がると窓に駆け寄り、窓を開け放つと外に飛び出した。そして目に飛び込んできた光景に言葉を失う。
正門に乗り入れるようにして装甲車が敷地内に突っ込んでいた。そしてその前で血まみれになった門番の部屋住み二人が倒れている。恐らく死んでいるだろう。「おい・・・おめえら・・・くそったれ!」米田は拳銃を抜き放つ。
「おいあんた、そこをどけよ。」と言いながら車を降りたのは顔中に刀傷が走る男。彼もまた拳銃を握っている。「てめえは・・・小原一家の大森だな!?」「ほう・・・そういうあんたは米田組の星山かあ。」「そうだ!てめえみてえな外道組織の野郎がなぜ米田組の敷地に入ってやがる!」「てめえと話してる時間はねえ。そこをどけよ。」「ああん!?てめえまさかうちの親父の命を狙いに来やがったか!」「ああ。すまねえな。バレたなら仕方ねえ。米田の後継者も排除しておこうか。」「やってみろやあ!」星山はそう言うと拳銃を握り・・・胸に衝撃を感じてよろめく。
「けっ・・・防弾チョッキがなかったら死んでたぜこの野郎!」星山は拳銃を再び構えると相手の頭を狙う。しかし大森は軽く笑うとなんとそれを避けた。
星山は抗争が始まる前から大森の様子を聞いていた。瞬発力と射撃に優れ、剣道と柔道、レスリングの有段者だという大森は小原一家の暗殺者として何人もの極道・半グレ・海外ギャングを死に追いやってきたらしい。
「俺と撃ち合いかあ!おもしれえねえ!」そう言うと大森は距離を詰めて拳銃を撃つ。「くそ!」拳銃の弾は星山の肩に当たる。「うわっ!くそが・・・」星山の肩から力が抜け、拳銃が落ちる。「てめえにうちの親父はやらせねえよ・・・」星山は覚悟を決めて反対の手に拳銃を持ち変える。「死ねえ!」と言って拳銃を放つ星山だが当然利き手でないほうで撃ったその精度は落ちている。「おいおい兄ちゃん。どこに向かって撃ってやがるんだよ。」大森は笑うと拳銃をもう一発撃つ。「くそ、これは・・よけられねえ・・・」星山は衝撃を覚悟しながらその弾を腹で受ける。「くそ!すさまじい衝撃だなあ・・・」防弾チョッキがあるとはいえ、弾をまともに食らって星山は倒れてしまう。「ようし、あんたはここで死んでもらうぜ。」拳銃を構え、大森が走り寄ってくる。絶対絶命だ。
そのとき、いきなり大森の手から血が噴き出した。「あ?なんだ?」「カシラをやらせてたまるかあ!」そういいながら拳銃を連射して飛び出してきたのは舎弟の高橋だ。「お前!」「カシラ、大丈夫ですか。今部屋住みの奴らに担架用意させてますんで。」そう言うと高橋は両手に拳銃を持って二つ大森に発射した。
「くそがあ!」大森は身をかがめて地面の上を匍匐前進で近づいてくる。「カシラにちかづくんじゃねえ!」高橋は拳銃で大森を狙う。しかし次の瞬間、高橋の胸から血が噴き出る。「俺を舐めるんじゃねえぞ若造があ!」大森は何と匍匐前進しながら拳銃を放ったのだ。それは正確に高橋の胸を狙っていた。高橋は血を吐きながら蹲る。「米田、ここで貴様をやってやるう!」と言いながら前を見た大森は目を見開く。「星山、あの野郎どこに行きやがった!?」
「ここだぜ。」木の影から飛び出た星山は匍匐前進する大森の上からその首を思いっきり踏みぬいた。「ぐえっ!」白い泡を吹く大森。「てめえごときに米田組が負けるわけねえだろ。」そう言うと星山は大森の頭の上にナイフを突き刺した。




