くびなしオバケがやってきた!(4)
「それからお母さんんは、元気になったの?」
とシホちゃんが訊ねると、お母さんは
「なった、なった。かけっこでも一等賞が貰えるくらいにね。」
とシホちゃんの髪を撫でました。
「お母さんにとっては、物知り鬼はオバケじゃなくって恩人だよ。」
シホちゃんは、よかった、と思いました。
けれど『失格!』と言われたおじいちゃんは、大丈夫だったのでしょうか?
「おじいちゃんは、失格になって、病気するようになっちゃたの?」
おじいちゃんは、はっはっはと大きく口を開けて笑うと
「じいちゃんは、もともと丈夫だったんじゃ。」
と言いました。
「けれど金槌だったから、ぜんぜん泳げなかったんじゃが、河童に手を握られてからは、不思議と水に浮くようになって、水が怖くなくなったなぁ。」
「それって、カッパが泳げるようにしてくれたのかな?」
とシホちゃんが言うと、おじいちゃんは
「河童かも分からんし、幼馴染の子が泳げるようにしてくれたのかも分からん。」
と言いました。
どっちなのだろう? とシホちゃんは思いましたが、おじいちゃん自身が『わからん』と言っているくらいなので、考えてもしかたがないや、と思い直し
「おばあちゃんは、どうだったの?」
と訊きました。
「おばあちゃんがここにお嫁入りしたのは、17歳の時だったから、肝試しをしたのは、おじいさんやシホちゃんのお母さんよりも大分年上になってからだったんだよ。」
と、おばあちゃんはニコニコします。
「白無垢と角隠しっていう、お嫁さん衣装のままでオバケが出るのを待ってたのね。」
文金高島田という髪型に結ったおばあちゃんは、髪が乱れるといけないので横になることも出来ず、積み重ねた布団を背もたれにして座っていたのだそうです。
「すると11時半を過ぎたころ、押し入れの襖が開いたの。」
11時半だと分かったのは、奥座敷の壁掛け時計が
ボーン
と一回だけ鳴ったから。
昔のゼンマイ式の壁掛け時計は、時間丁度に時報が鳴る他、30分ごとにも一回音がします。
押し入れから出てきたのは、熨斗目の柄のお振袖を着たお姫様でした。
顔には白狐のお面を付けているので、笑っているのか怒っているのかも分かりません。
「だけどお振袖の柄が、熨斗目だったから、お姫様は怒ってはいないだろう、って思ったのよ。」
熨斗目の意味は、お祝いだからです。
「狐のお面のお姫様は、なぁんにも喋らなかったけれど、おばあちゃんの前に正座すると、お辞儀をしてくれたのね。」
おばあちゃんは足を伸ばして布団に寄りかかっておりましたが、慌てて同じように正座すると、やっぱり同じようにお辞儀しました。
「おばあちゃんがお辞儀を返すと、押し入れの中から謡が聞こえてきたのよ。たぁかぁさぁごぉや~って。」
シホちゃんが「変な歌だねぇ。」と言うと、おばあちゃんは
「そうねぇ。変な歌だねぇ。
と笑ってから「でも、お嫁入りのときに謡われる、めでたい歌なのよ。」と言いました。
おばあちゃんは、たぁかぁさぁごぉや~を聞いているうちに、どんどん眠くなっていきました。
お姫様に失礼が無いよう、目を開けてなきゃ、と考えましたが、ふっと気が付くと朝になっていて、外では雀がチュンチュン鳴いていました。
「しまった! 眠っちゃった、って思ったんだけど、狐のお面のお姫様はもう居なくて、代わりにお盆が置いてあったの。」
お盆には、桃山というお菓子が山のように積まれておりました。
「おばあちゃんは、お盆の桃山を一つ食べて、『ああ美味しいなぁ』って思ったのよ。結婚式の夜は、お御馳走がたくさん並べてあったたんだけど、ぜんぜん食べられなかったからねぇ。お腹、ペコペコだったのね。」
それから、おばあちゃんは朝の空気を吸おうと、障子戸を開けました。
夜のままです。
「ええっ?」
と驚いたおばあちゃんの耳に聞こえてきたのは、壁掛け時計が
ボーン・ボーン・ボーン……
と12時を告げる音でした。




