↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
3/20

くびなしオバケがやってきた!(3)

 お母さんが肝試(きもだめ)しをしたのは、小学校に入った年(とし)でした。

 子供(こども)の頃(ころ)のお母さんは、身体(からだ)が弱(よわ)くて、よく熱(ねつ)を出しました。

 入学(にゅうがく)したばかりの小学校も、休みがちだったのだそうです。


 ですから肝試(きもだめ)しの夜も、学校を休んで布団(ふとん)の中で絵本(えほん)を読(よ)んでいた、ということでした。


 「なんの絵本(えほん)を読(よ)んでいたの?」

とシホちゃんが訊(たず)ねると

「忘(わす)れもしないねぇ。『えすがたにょうぼう』だったのよ。」

とお母さんが教(おし)えてくれます。

「あれから25年も経(た)つのにね。」


 「エス型(がた)?」

 シホちゃんはビックリしました。

 保育園(ほいくえん)で、磁石(じしゃく)にはエス極(きょく)とエヌ極(きょく)とがある、と教(おそ)わったことがあったからです。

 にょうぼう、というのはお嫁(よめ)さんのことですから、お嫁さんにもエスとエヌとがあるのでしょうか?


 「違(ちが)う、違(ちが)う。」

とお母さんが笑います。

「絵に描(か)いた姿で、絵姿(えすがた)。お婿(むこ)さんが、お嫁さんのことを好きで好きで、ちょっとの間でも離(はな)れていたくなくて、絵に描いて眺(なが)めながらお仕事してたっていうお話なんだ。」


 シホちゃんは「お父さんみたいだね!」と言いました。

「お父さんも、携帯電話(けいたいでんわ)の画面(がめん)が、お母さんとシホの写真(しゃしん)だよ!」


 シホちゃんが得意(とくい)そうに言うのを聞いて、おばあさんが

「ほんと、絵姿女房(えすがたにょうぼう)と絵姿娘(えすがたむすめ)だねぇ。」

とニッコリします。


 すると、お母さんがコホンと一つ咳払(せきばら)いをして、真面目(まじめ)な顔になりました。

 そして天井(てんじょう)の方に目を向(む)けると

「布団(ふとん)の上に、大きな蛇(へび)がボトリ落ちてきたのよ。絵本を読み終わったときに。1メートルくらいは有(あ)ったかな?」

と言いました。


 オバケが出てくる、と思っていたのに、出てきたのがただのヘビだったので、その時お母さんは「なぁんだ。」とガッカリしました。

 家が田舎(いなか)だったから、1メートルくらいのアオダイショウなら、いつも見ています。

「だって、ホントウのオバケが来るってワクワクしてたからね。”一つ目こぞう”とか”ろくろ首(くび)”が出てきたら素敵じゃない?」


 お母さんの話を聞いて、シホちゃんもウンと頷(うなず)きます。

「ちょっとガッカリだよね。」


 でもね、とお母さんが悪戯(いたずら)っぽくニヤリとして

「『これは違(ちが)うんだ!』 って障子(しょうじ)が震(ふる)えるような声がして、そこの障子(しょうじ)が開くと、毛むくじゃらの大きな腕(うで)が伸(の)びてきて、布団(ふとん)の上のヘビをヒョイと抓(つま)んだの。」


 「出たぁ。」とシホちゃんは嬉(うれ)しくなりました。

「お母さん、ビックリした?」


 「した、した。」とお母さんも笑うと

「だから慌(あわ)てて布団(ふとん)を飛(と)び出すと、障子(しょうじ)戸(ど)から外に出てみたよ。何がいるんだろう? って。熱(ねつ)があるのも忘(わす)れてたね。」


 奥座敷(おくざしき)の外(そと)には、月の光に照(て)らされて、屋根(やね)と同じくらい背丈(せたけ)の大きな鬼(おに)がしゃがんでいたそうです。


 鬼は「困(こま)ったなあ。」と頭を掻(か)くと、右手(みぎて)の指(ゆび)で抓(つま)、んでいたヘビを、そっと屋根(やね)に逃(に)がしました。

「この蛇(へび)は家守(やもり)よ。オマエを脅(おど)かしてやろうと思っていたのに、邪魔(じゃま)をされた。」


 「ヤモリって、小さなトカゲみたいなヤツじゃないの?」

とシホちゃんが不思議(ふしぎ)がります。

「オニのくせに、間違(まちが)いだね。」


 「動物図鑑(どうぶつずかん)のヤモリは、シホの言う通(とお)り爬虫類(はちゅうるい)だけど」

とお父さんが教(おし)えてくれます。

「家(いえ)屋敷(やしき)を守(まも)る動物(どうぶつ)のことも、大きく一括(ひとくく)りに”家守(やもり)”っていうんだよ。ほら、ヘビはネズミなんかを食べてくれるだろ? ネズミがいたら、食べ物とかを荒(あ)らされちゃうから。」


 へえ~、とシホちゃんは感心(かんしん)しました。

「オニって物知(ものし)りなんだねぇ。」


 お母さんは笑顔(えがお)でウン・ウンと頷(うなず)くと

「その物知りの鬼はね、『邪魔(じゃま)が入ったと言い訳(わけ)しても仕方(しかた)がない。オマエの勝(か)ちだ。』って勝手(かって)に自分(じぶん)の負(ま)けを認(みと)めてね。『見たところオマエは身体(からだ)が弱(よわ)いようだから、強(つよ)くしてやろう』って言い出したのよ。」


 鬼(おに)は、お母さんを両手(りょうて)で抱(かか)えると、赤(あか)ちゃんを”高(たか)い高(たか)い”するように、屋根(やね)より高く持ち上げました。

 ずっとずっと遠(とお)くまで、まるで山の展望台(てんぼうだい)からの眺(なが)めのように見渡(みわた)せて、お母さんは

「すごい、すごい!」

と笑いました。

 昼間(ひるま)であれば、海(うみ)まで見えたかもしれません。


 「それから物知(ものし)り鬼はね『これで、よい。』と、お母さんをソッと下(お)ろすと『元気で暮(く)らせ。』と言ってから、もっともっと、どんどん大きくなっていったの。もう、山より大きいくらいにね。」


 大きくなりながら次第(しだい)に姿(すがた)は薄(うす)くなり、月にも届(とど)こうか、という頃(ころ)には天の川に紛(まぎ)れて見えなくなってしまった――お母さんは、話をそう結(むす)びました。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。