くびなしオバケがやってきた!(2)
シホちゃんは布団に入りましたが、部屋の電気は点けたままにしておきました。
そして布団の中で、携帯ゲーム機で遊びます。
いつもなら、お母さんから
「コラ! いつまでもゲームで遊んでいないで早く寝なさい。」
と怒られるところですが、今夜は”へっちゃら”です。
だって肝試しの夜なので、大人は奥座敷には入ってきません。
けれど、エアコンも無いのに、ちょっと部屋が寒いような気がして、なかなかゲームに集中できないシホちゃんなのでした。
それでシホちゃんは、ゲーム機を枕元に置くと、仰向けになって天井を眺めます。
そして、おじいちゃんたちから聞いた、肝試しの夜のことを思い出していました。
〇 〇 〇 〇 〇
「おじいちゃんが見たのは、前の年に死んだ女の子だったなぁ。」
と、おじいちゃんは懐かしそうに言いました。
おじいちゃんが奥座敷で肝試しをしたのは、国民小学校に入る前の歳だったそうで、ちょうど今のシホちゃんと同じ歳でした。
そのころは小学校のことを、ただ小学校と呼ぶのではなく国民小学校と呼んでいたらしいのです。
「仲良くしていた子で、いつも一緒に遊んでいたのだけれど、たまたま一人で遊びに出かけて、川に嵌って死んでしまったんじゃなぁ。」
と、おじいさんは続けました。
だから、肝試しの座敷に、障子を開けて、その女の子が入ってきても、おじいさんは少しも怖くなかった、ということでした。
「川で死んだというのが嘘で、遠くの親戚に貰われて行ったのだけど、そこが嫌で逃げてきたんじゃないか、と考えたからね。」
おじいさんは、そう語ると麦茶を一口のみました。
「だから、元気にしていたか? と訊ねたら、その子はニッコリ笑って、おじいちゃんの手を握ったんじゃが……。」
冷えた鉄でも触ったかのように、ひどく冷たかった、という事でした。
「おじいちゃんが慌てて手を離すと、女の子が急に河童に姿を変え『けけけ』と笑ってな。」
おじいさんは大声をあげて奥座敷を飛び出したのだそうです。
すると奥座敷からは、『失格!』という声がしたという事でした。
シホちゃんは
「カッパの手を離さなかったら、『合格』が貰えたのかなぁ?」
と、おじいちゃんに訊きました。
だって、おとぎ話のカッパは、頭にお皿があって手に水掻きがあるだけで、ちっとも怖くないのですもの。
シホちゃんは、今夜でてくるオバケがカッパだったら素敵だな、と思いました。
――そしたら明日遊ぶお約束をして、キュウリを採りに行こう!
だって、おじいちゃんの畑には、キュウリやトマトがたくさん生っているのですから。
そんなシホちゃんを見て
「シホは、河童が出てきたら、キュウリをあげよう、って考えているんでしょ?」
とお母さんが笑います。
お母さんはシホちゃんが考えることなど、お見通しのようです。
こんな時シホちゃんは――お母さんって、名探偵!――と思います。
「でもねぇシホ。いつも河童が出てくるわけではないんだよ。」
そして「お母さんが見たのはねぇ……」と続けました。