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くびなしオバケがやってきた!(15)

 「え~っ! おばあちゃんはウソつきじゃないよっ!」

 シホちゃんは、つい、そう言ってしまいましたが

「でも、さんもとごろうざもんもウソつきじゃないからなぁ……。」

と戸惑(とまど)ってしまいました。

「どして、こうなった?」


 かっかっかっ、と山(さ)ン本(もと)五郎左衛門(ごろうざえもん)は笑(わら)うと

「バアチャンは山(やま)に向(む)かって『大声(おおごえ)で不平(ふへい)不満(ふまん)を呼(よ)ばわった』わけではない。小声(こごえ)で、ついウッカリ愚痴(ぐち)を溢(こぼ)してしまったんじゃな。だからバアチャンにしてみれば、”そもそもウソを吐(つ)いていると思ってない”という状況(じょうきょう)にあるわけよ。状況(じょうきょう)ではない、と云(い)う言(い)い方(かた)が変(へん)だと思(おも)うなら、意識(いしき)が無(な)いと言い換(か)えてもよい。」

と、おばあちゃん側(がわ)の事情(じじょう)を説明(せつめい)しました。

「だから、バアチャンはバアチャン以外(いがい)から見(み)ればウソを言っていると”言えない事もない”んじゃが、バアチャンの中(なか)では『ホントのことしか言っていない』と成(な)るな。」

 そして「どうじゃ? バアチャンも、吾輩(わがはい)も、どっともウソ吐(つ)きではなかろう?」とニヤリとしました。


 山(さ)ン本(もと)五郎左衛門(ごろうざえもん)ここまで説明(せつめい)を進(すす)めてから

「一方(いっぽう)で困ったのは神野悪五郎(しんのあくごろう)よ。」

と続(つづ)けます。

「神野悪五郎(しんのあくごろう)は、『バアチャンがジイチャンに文句(もんく)が有(あ)るなら、ジイチャンを懲(こ)らしめてやる』と、バアチャンに『約束(やくそく)』したワケじゃな。だから、バアチャンが愚痴(ぐち)を溢(こぼ)したのなら、ジイチャンを懲(こ)らしめなければ『契約(けいやく)に背(そむ)く』ことになってしまう。」

と今度(こんど)は神野悪五郎(しんのあくごろう)側(がわ)の事情(じじょう)の説明(せつめい)に移(うつ)ります。

「約束(やくそく)を守(まも)るのは、大事(だいじ)じゃからな。」


 「でも、おじいちゃんには、何(なに)も無(な)かったんでしょ? おじいちゃんも、おばあちゃんも、そう言っていたし。」

とシホちゃんは山(さ)ン本(もと)五郎左衛門(ごろうざえもん)に言います。

「しんのあくごろうが、知(し)らんぷりしたのかな?」


 「シホちゃん。それは違(ちが)うわね。」

と菖蒲(あやめ)も首(くび)を傾(かし)げます。

「魔王(まおう)は必(かなら)ず約束(やくそく)を守(まも)るのよ。だからこそ魔王(まおう)なの。約束(やくそく)を守(まも)れないような妖怪(ようかい)なら、ただの雑魚(ざこ)。魔王(まおう)と崇(あが)められたりはしないの。」

 そして

「悪五郎様(あくごろうさま)、おばあちゃんは『どんな愚痴(ぐち)』を口(くち)にされたのです?」

とストレートに訊(たず)ねました。


 すると山(さ)ン本(もと)五郎左衛門(ごろうざえもん)が

「天狗(てんぐ)の口(くち)からは、話し辛(づら)かろう。吾輩(わがはい)が教(おし)えてやるとするか。」

と言いました。

「バアチャンはな、ジイチャンの寝言(ねごと)を聞(き)いて愚痴(ぐち)を溢(こぼ)したのよ。……ジイチャンが知(し)らない女(おんな)の名(な)を口(くち)に出(だ)したのだからな。新婚(しんこん)の新妻(にいづま)としては、心穏(こころおだ)やかでないのは、分(わ)かろう?」


 それは酷(ひど)い、、と菖蒲(あやめ)は怒りを露(あら)わにしました。

「浮気(うわき)をしていたのですか?!」


 「菖蒲(あやめ)、早合点(はやがてん)するなよ。まだまだ神狐(しんこ)としての修行(しゅぎょう)が足(た)らんようだな。」

と山(さ)ン本(もと)五郎左衛門(ごろうざえもん)が窘(たしな)めます。

「ジイチャンが寝言(ねごと)で、つい口(くち)にしたのは、オヌシの名(な)ぞ。」


 菖蒲(あやめ)は事(こと)の意外(いがい)さに

「えっ……」

と絶句(ぜっく)しました。


 「可愛(かわい)い妻(つま)と結婚(けっこん)したのだ。ジイチャンとしては天(てん)にも昇(のぼ)る心地(ここち)であっただろうし、幼馴染(おさななじみ)のオヌシにも、その喜(よろこ)びを報告(ほうこく)したかったのよ。けれどもオヌシの居場所(いばしょ)は分(わ)からんわけだし、ジイチャンはオヌシを夢(ゆめ)に見(み)たのだな。だからジイチャンは『菖蒲(あやめ)、可愛(かわい)い妻(つま)をもらったぞ!』と、夢(ゆめ)の中(なか)でオヌシに言ったのさ。」


 「ああ、それで」と菖蒲(あやめ)も納得(なっとく)しました。

「寝言(ねごと)として口(くち)から漏(も)れたのが『あやめ、かわいい……』の部分(ぶぶん)というわけなのですか……。」


 「その通(とお)り。残念(ざんねん)だったな、菖蒲(あやめ)。」

と山(さ)ン本(もと)五郎左衛門(ごろうざえもん)は微苦笑(びくしょう)して頷(うなず)きました。

「ジイチャンは悪(わる)くないし、だからと云(い)ってバアチャンがモヤモヤしたのも当然(とうぜん)であろう。この場合(ばあい)『どちらが悪(わる)い』とは、決(き)められない。だから神野悪五郎(しんのあくごろう)めは、大(おお)いに迷(まよ)った末(すえ)に、自分(じぶん)に罰(ばち)を下(くだ)すことにしたのだ。バアチャンに事(こと)の真相(しんそう)を教(おし)え、『だから約束(やくそく)は果(はた)たせない。』と告(つ)げるとな。そして、約束(やくそく)を果(は)たせないのであるから、自分(じぶん)には魔王(まおう)の資格(しかく)は無(な)い、魔王(まおう)を辞(や)める、とまで決(き)めてしもうた。」


 菖蒲(あやめ)は「まあ!」と驚(おどろ)き、シホちゃんも

「え~、オカシイよ! しんのあくごろうも、ぜんぜん悪(わる)くないじゃん!」

と口(くち)を尖(とが)らせます。


 山(さ)ン本(もと)五郎左衛門(ごろうざえもん)も

「シホちゃん、言(い)う通(とお)り神野悪五郎(しんのあくごろう)は全(まった)く悪(わる)くない。そう、この寝言(ねごと)事件(じけん)には、悪者(わるもの)が一人(ひとり)もいないのよ。」

 それに、と山(さ)ン本(もと)五郎左衛門(ごろうざえもん)はニヤリと笑(わら)うと

「ライバル神野悪五郎(しんのあくごろう)が魔王(まおう)を辞(や)めて、ただの魔物(まもの)になってしまったそすると、アヤツは自動的(じどうてき)に吾輩(わがはい)の手下(てした)という事(こと)になってしまう。吾輩(わがはい)はナァ、あんなヒネクレ者(もの)なぞ、手下(てした)にしたくはナイんじゃよ。」

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