くびなしオバケがやってきた!(14)
コホン!
と神野悪五郎が咳払いしました。
「あ~シホちゃん。それで良いかな?」
一方で山ン本五郎左衛門は、膝を叩いて
「天晴れ、菖蒲。」
と笑いながら菖蒲を誉めそやしました。
「よくぞ神野悪五郎の絶体絶命を救ったな!」
「口が過ぎるぞ、山ン本五郎左衛門。」
と神野悪五郎は渋い顔です。
「鬼の首を獲ったように燥ぎおって。」
そして「『シホちゃんに飲ませてやるのだ。』と、大騒ぎしてミルクセーキの材料を集めておったくせに。」と言いました。
「ええっ?!」
とシホちゃんはビックリしました。
美味しいミルクセーキで、シホちゃんは”お代わり”してしまいましたが、そんなにスゴイ牛乳や卵を使っていたのでしょうか。
「うむ。普通では手に入らない物ばかりだね。」
と神野悪五郎は頷きます。
「ミルクは牛の乳ではなく、麒麟の乳。卵に至っては、鳳凰の卵よ。そして甘み付けには、砂糖を使わずに蓬莱の花の蜜と来ている。いやはや、贅を極めた話よな。」
「へぇ~、あのミルクはキリンさんのミルクだったのか。初めて飲んだよ。」
とシホちゃんは驚きました。
「さんもとごろうざもんは、アフリカまでミルクを買いにいってきてくれたの? それとも動物園で貰ってきてくれたのかな?」
「もう一寸遠くまで、かな。」
と、山ン本五郎左衛門は”すまし顔”です。
「キリンはキリンでも、首の長~いサバンナに住んでいるヤツではなくて、天空の神界に居る霊獣の麒麟であるからな。そっちの麒麟なら、首も長くはない。馬と同じくらいだから御しやすいしの。」
山ン本五郎左衛門は、そうシホちゃんに答えると、今度は神野悪五郎に
「オヌシの桃山だって、引けを取らない逸品ではないか。」
と言い、シホちゃんに
「吾輩は卵に鳳凰――西洋風に言えば不死鳥――のものを使ったが、悪五郎めが選んだのは炎帝 朱雀のモノよ。」
とバラしました。
「吾輩には『贅沢!』などと言ったクセにな。」
このことは菖蒲も知らなかったようで
「えっ! 悪五郎様、あの夜にもその様な”お骨折り”を!」
と驚きました。
「左様な事まで、して頂いていたとは、露ほども知らず。」
「まあ、良いではないか。」
と、今度は神野悪五郎が照れる番です。
「菖蒲が恋敵に礼を尽くしに行くというのに、我ばかりが高みの見物と云う訳にもいくまい。」
そんな神野悪五郎を面白そうに眺めていた山ン本五郎左衛門でしたが
「菖蒲よ、悪五郎の”骨折り”は、その後も続いたのよ。」
と話始めます。
「実は、シホちゃんのおばあちゃんは、一つだけウソを吐いておるのさ。……いや、”人を貶めるような”悪い嘘ではないのだが、な。」