第51話 指名依頼
第51話 指名依頼
俺たちが、第二副迷宮を攻略して数日が経った。
迷宮内で狩った魔物のごく一部だけど、素材も冒険者ギルドに買い取ってもらった。
俺たちは、アミラや冒険者ギルドの諸々の処理が終了するまでの間、時間つぶしも兼ねて副迷宮周囲で魔物の森化している場所に入って、サクサクと魔物討伐をこなしていた。
すでに、ミミやケルの経験値の足しにもならないようになってしまったけど、ミミ達の修練と思って毎日出かけた。
お陰で、パンプキ周辺には、魔物の気配がほとんどなくなった。
ついでに、第一副迷宮の方にも出かけようかと思ったけど、第二副迷宮のあった西側地区を先に片付けてしまうことにした。
今日も、その日に狩った魔物の素材を買い取りして貰おうと冒険者ギルドに出向いた。
窓口に座っているのは、ギルドマスターではなく、ちゃんとした(?)受付嬢だ。
ミミやケルとも顔なじみになっている。
二人も、今ではB級冒険者になって、この街でも数少ない上級冒険者だ。
見かけは可愛らしい、双子のダークエルフだけど、受付嬢もきちんとした対応をしている。
「おお、ジュン殿、やっと来たか。少し話があるのじゃが、今時間はあるかの」
俺が、ミミとケルの素材買い取りの様子を見ていると、カウンターの奥から声をかけられた。
声をかけて来たのは、このギルドのギルドマスターだ。
無視する訳にもいかないし、一応、職員宿舎の代金を素材買い取りの代金の一部と相殺とは言え、ほぼ無料で貸してくれてるし、この後、特に用事もないのでギルマスの要請に応じることにした。
「ええ、大丈夫ですよ。特にやることもないですし」
「おお、それはよかった。では、パーティーの皆さんも一緒に来てもらえんかの」
そう言うと、カウンターから出てきて、俺たちを先導して2階に上がって行く。
2階の奥、ギルドマスターの部屋みたいだ。
そこにはすでに先客がいた。
予想はしていたけど、アミラと従者の剣士だ。
「久しぶりじゃの、ジュン殿。息災か?」
「ええ、まあ」
いきなり、アミラが声をかけて来た。
相変わらずマイペースなお嬢さんだ。
まあ、今の俺から見たら、年上のお姉さんなんだが・・・
「フィールドの魔物も間引きしてくれているそうじゃの。毎日、大量の魔物の素材が持ち込まれていると聞いている。そちたちにとってはあんまりメリットはないのにどうしてじゃ?」
「まあ、経験値的にも、素材を買い取ってもらうにしても、確かにB級冒険者的にはメリットはないのかもしれません。でも、この子達の修練にはなりますし。解体の技術を学ぶ上でも数をこなすことは勉強になりますよ」
「そうなのか?そう言ってもらうと、嬉しい限りじゃ。最近は、パンプキの街だけでなく、近隣の村でも、魔物の気配が少なくなったと報告がきている。この地を統治する立場の人間として礼を言う。王都にいる父上にもすでに連絡を出しておる」
「それで、今日呼ばれたのは何かあるんでしょうか?」
「おお、そうじゃった。実は、ジュン殿に頼みがあって、冒険者ギルドを通して指名依頼を出させて貰ったのじゃ」
「指名依頼ですか?」
「なんじゃ、指名依頼は受けない主義かや?」
「いえ、そういうことはないのですが、指名依頼と言うものを初めて受けるので」
「そうなのか?ジュン殿ほどの実力なら、いくらでも指名が入ると思っておったのじゃが」
「それでは、先に指名依頼のことについて説明するとしようかの。アミラ様、それでよろしいかな」
「うむ。わらわから説明するよりも、ギルマスから説明して貰った方が話が早いか。依頼の件もあるしの」
アミラも同意ので、ギルマスが話を切り出す。
「まず、指名依頼と言うのはB級冒険者以上の上級冒険者に対して、名指しでクエストを発注する依頼のことじゃな。指名依頼を受けると言うのは、それだけ信用があると言うことじゃし、名が売れていることじゃから冒険者にとっても、指名依頼をこなした件数や、どう言った指名依頼をこなしてきたかと言う内容は、ランクとは別にその冒険者の実力を示す指標になるんじゃ。ここまではよいかの?」
「それじゃあ、気になったことを一つ。その指名依頼の記録と言うのは、この冒険者カードに記録されているんですか?あと、指名依頼は絶対に受けなくてはいけないのですか?」
「うむ。まず最初の質問じゃが、冒険者カードにはそう言った記録を保持する機能はない。したがってどのような指名依頼をこなしたかは、冒険者自身、あるいは依頼者の方が喧伝することで広まることになる。従って、内密にしようと思えば当事者以外には知られることはない。ただ、冒険者ギルドを通さずに個人同士でクエストの契約を行った場合、その報酬やペナルティー、或いはクエスト達成の完了など後から揉める場合もある。冒険者ギルドを通せば、そう言った契約に関する諸々のトラブルを避けられるということじゃ。そして、指名依頼は強制依頼と任意依頼があるのじゃが、一般的な指名依頼は双方の同意があって初めて契約が結ばれる任意依頼じゃ。強制指名依頼とは、都市災害級の事案が発生した場合、冒険者ギルドで言えばB級以上、商業ギルドで言えば2級傭兵以上、鍛冶ギルドで言えば2級工以上のランクの者は、事案発生時点でその都市に居住していた場合、強制的に参加しなければならないものだ。もっとも、この強制依頼は一度も発令されたことはない。例えば今回のスタンピードが発生した時も発令はされなかった。パンプキの街の中に入っていれば結界があるしの。発生した魔物は数は多かったが結界を破れるほどのレベルの魔物はいなかったしの。勿論スタンビート発生時、この都市にはかなりの数のB級冒険者、2級傭兵や、2級工がいたが、大部分は他の都市に移って行った。彼らが再びこの街に戻ってきても、住民からは歓迎されないだろうが、彼らも自分の命がかかっているのだからな。特に他国の出身の者は、そういった行動をとっても仕方ないことじゃ。まあ話はそれたが、質問の答えにはなったかの?」
「ああ、問題ないです。それで、今回は任意指名依頼ということですか?」
「その通りじゃ。なので依頼内容を聞いたうえで、受諾するかどうかは判断してもらって構わん」
ギルマスがそう言うと、横でアミラが渋い顔をしたけど、何も言わない。
一見、直情型に見えるけど、流石、統治者の器ってところか。
「それで、今回、こちらのアミラ様から申し込まれた依頼じゃが、第一副迷宮のことじゃ。第一副迷宮については知っておるかの?」
「いいや。名前は前回第二副迷宮の説明を受けた時に聞いたけど、詳しくは知りません」
「そうか。じゃあ、概略から説明するかの。まず、アサドング王国には王都近くにある主迷宮以外に、6つの副迷宮があるのじゃ。いや、ジュン殿が先日1つ攻略されて実質は5つの副迷宮じゃな。ともかく、その内2つが、ここパンプキ伯爵領にある。第二副迷宮は、アサドング王国内で確認されている副迷宮の内、一番最近、と言っても今から70年ほど前にできた副迷宮じゃ。それに対して、第一迷宮は、副迷宮の中でも古くからあって、記録では今から数百年前にはあったとされている。元々このパンプキのある辺りは、アサドング王国中でも人は余り住んでいない、未開の地じゃったのだ。広大な魔物の森が広がっておるしの。じゃが、大大陸との間に繋がる橋を渡すのに最適な場所が見つかった。それで、4代前の国王がここに街を作り、パンプキ領が制定された。とは言え、元々フィールド上にも魔物の森から多くの魔物が出てくるし、副迷宮もあったので領地の開発はなかなか進まなかったのじゃ。結果、他2つの国境都市を持つ領地が侯爵領であるのと違って、伯爵領のままなのじゃ」
アサドング王国史、いやパンプキ伯爵領史を聞かされても正直あまり興味はないのだが、ギルマスの隣で聞いているアミラの目が真剣なので、黙って聞くことにした。
早く要件を言って欲しいんだが。
「そこで、今回、長年誰も攻略できないどころか、十数年ごとのスタンピードが発生する危険性はあっても、入口を塞いで魔物の流出を抑えることしかできなかった第二迷宮を、たった4人のパーティーで攻略してしまったジュン殿のパーティーの力量を見越して、領主から依頼が出たと言う訳じゃ。つまり、この伯爵領を、他の国境の領地と同じように安全な領地にしたい。そのためには、まずは魔物の元凶である、副迷宮を討伐して欲しいと言うものじゃ。ジュン殿は、この国に迷宮探索の為に来たと言っておったし、その実力もあることが証明されておる。迷宮自体は王国やそれを管理する貴族にとっては貴重な財源とはなるが、このままではいたちごっこじゃ。わしら冒険者ギルド、商業ギルドでもそうじゃが、迷宮から産出される素材よりも、多少効率は悪くても、魔物の死体が丸々確保できる魔物の森で魔物狩りをして素材を集めた方が、結局は効率が高い。領主も迷宮がなくなることを望んでいる。そしてその迷宮を討伐したい、討伐できる実力のある冒険者がいる。全ての者にとって利益になる依頼じゃ。どうじゃ受けてくれないか?通常、迷宮討伐をクエストにすることなどない。期間を区切れるものではないし、失敗した場合のペナルティーの設定も前例がないのでできない。だが、今回の依頼は、ペナルティはない。ただ迷宮討伐に関して、パンプキ第一迷宮を優先的に探索して欲しいと言うのが、依頼主である領主の要望じゃ。しかも、本来、迷宮討伐自体に報奨金はなく、通常であれば国王自ら綬爵や国宝級の財宝などの授与されるのが相当なのじゃが、ジュン殿は迷宮討伐完了の事実そのものを伏せておくことを希望しておる。つまり国王からの褒賞なども出ないことになる。そこで、この国でさらに迷宮探索する予定があるなら、第一迷宮に優先的に潜って、可能ならそのまま討伐して欲しいということなんじゃ。討伐が完了すれば報奨金を伯爵が出す。どうじゃ、ジュン殿にとっても悪い話ではないと思うが」
「確認しますが、ペナルティはないんですね。そして今回討伐を完了しても、その事実は公にしないで頂けると言うことですね?」
「その通りじゃ。ペナルティは発生しない。現時点でマッピングが完了している階層の情報も併せて無料で提供する。素材の買い取りも1.5倍増しで買い取ろう。勿論、討伐が完了した後その事実は伏せることにしよう」
「現在解っている階層以外の情報については、提供の義務はありますか?」
「それも、通常と同じように、ジュン殿の意思に任せよう。勿論、他のギルドではなく、冒険者ギルドに売って頂けるなら、それにこしたことはない」
もっと大ごとと言うか、政争的なものに関することかと思ったら、問題ない話だ。
ペナルティがないなら、ダメそうならこれまでの迷宮みたいに行ける階層まで行って、途中で断念すればいいしね。
副迷宮とはいえ、古い迷宮みたいだから、この前の第二迷宮みたいに容易くは行かないだろうけど、どの道迷宮探索をするんだし問題ないか。
それに確かに考えてみれば、迷宮自体は国にとって資産、金のなる木なんだから、討伐者に対していい感情を持たれないかもしれない。
そう考えると、統治者側から討伐を依頼してくれるってことは、いいことかもしれない。
「そうですか。どのみち迷宮探索は行う予定ですし、どこの迷宮から攻略するか決めていませんでしたので、問題ないですよ」
「おお、まことか、ジュン殿よ」
それまで、黙って話を聞いていたアミラが勢い込んで声を上げる。
スタンピードが発生して、上級者が多くこの都市を離れたのを目の当たりにしていたんだろうし、俺もすぐに他の場所に移ると考えていたのかもしれないな。
確かに、この街に留まりたいような何かがある訳でもないしね。
「ええ。本当ですよ。それと迷宮討伐の報奨金も要りません。それはこの領地の開発に使って下さい。その代わり、この国の国王に拝謁できるように口添えを頂けないでしょうか?それと、もしこの国にも秘蔵の書籍や資料などあれば、閲覧できるようにしていただけるとありがたいのですが」
「国王への拝謁は、父上が口添えするまでもなく、副迷宮を攻略したのだから、寧ろ国王の方から呼び出しがあると思うぞ。それと書籍にについては、この場では約束はできんが、可能な限り希望が叶えられるように努力しよう。まあ、我が国はあまり研究などは盛んではないし、大したものはないとは思うが」
「はい、それで構いません。それじゃあ、細かな打ち合わせが済めば、すぐにでも第一迷宮に向かいますよ」
相変わらず、遅い更新、誤字脱字、設定ミスなど
不満が多いと思います。
申し訳ございません。
生温かい目でスルーして頂けると嬉しいです。
体調がいい時に、頑張って書いていきたいと思います。




