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2回目の投稿です
「お帰り桃。」
「お母さん、ただいま。」
「今日は遅かったのね。早速新しいお友達と遊んだの?」
彩子は揚げ物を作っており、目を離さず桃華に声をかけた。
「友達と一緒に写真部に入ったの。鬼封村の景色を撮りたいなって思って。」
「あらっ。お友達と写真部に!良かったわね。これから遅くなるんだったら、家に電話しなさいよ。今日は1人で帰って来たの?」
桃華は少し考えた後、名越先輩に送ってもらったと言い、急に恥ずかしさが込み上げて”服を着替える”とモゴモゴ言って自分の部屋へ慌てて戻った。
彩子は、娘の珍しい慌て方に目を丸めた後、微笑んだ。中学時代には見られなかった表情だった。
――そして、その夜夢を見た。
暗い夜道を桃華は1人で歩いていた。街灯は着いておらず、携帯で彩子を呼ぼうと取り出し耳にあてた。
「もしもし?お母さん…?」
繋がった気配はするのに、応答が無い。
「お母さん?」
もう一度、声をかけてみる。すると、古いドアが開くような音が聞こえた。
『あ” あ” あ” あ” あ” あ”』
「きゃぁ!?」
携帯を落とし、紅蓮華の石を探した。
「無い??」
桃華は、必死で無い無いと体中を叩く。カバンも全部ひっくり返す。
ふと…足が見えた。
足袋と草履が見える。怖くて、上を見上げられない。
『もぉーもぉーががががががが』
老人の様なかすれた低い声が楽しそうに呻いた。
その時、艶のある女の声がした。
「嘆かわしや嘆かわしや。そのような肉体を持たぬ者に震えるとは。」
桃華の後ろから、自分では紡ぐ事が出来そうにない極太な糸が大量に吐き出された。
『あぎゃぁあぁ~~~~。』
気持ち悪い『アレ』は糸に絡め捕られ、もがいた末に徐々に小さくなり消えていった。桃華がそっと後ろを振り返ると、上半身は艶やかさのある日本美女、下半身は足の長い黒色と黄色の縞模様である蜘蛛が佇んでいた。
絡新婦だった。
桃華は不思議と恐怖を感じる事は無かった。むしろ、どこか懐かしさを感じる。
何より…顔が桃華とそっくりだったのだ。桃華よりも大分色っぽく艶めかしいのだが…。
「あの…貴女はもしかして…私のご先祖様ですか?」
どうせ夢の中なのだ。間違っていても構わない。
絡新婦はおかしそうにクククと笑った。
「そうじゃ。まさか妾の子孫がそのように弱き存在になるとは思わなんだ。未熟じゃのう。」
「太い糸…どのようにして出すのでしょうか?」
怖がらずに、絡新婦である自分ににじり寄ったその姿に、目を細めつつ桃華の頭をそっと撫ぜた。
「鬼封村をもう一度調べるが良い。妾は焔 夢で呼べばいつでも妾は応えるぞ。」
絡新婦はそう言い残して、徐々に消えていった。
ジリジリジリジリ。
目覚まし時計がけたたましく鳴り響く。桃華はのろのろと起き上がり、煩い目覚ましを止めた。
ボーっと昨日の夢を思い起こす。いつもなら、夢は起きるのと同時に忘れるのだが、昨日の夢はやけにリアリティーに溢れていた。
「鬼封村…行かなきゃ。」
いつもの場所に、紅蓮華の岩の欠片を見つけホっと吐息を漏らした。
父親はいつもの通りに桃華が起きる前に仕事に行ったようだ。彩子と2人で朝食をとる。ご飯にお味噌汁、それから納豆に冷ややっこ。大体和風の朝食が多い。
「お母さん。私写真部に入ったから練習で鬼封村の景色を採ろうと思っているの。おばあちゃんの家に土日に行ってきていいかな?ついでにお墓の掃除もしておくから。」
「あら、じゃあついでに家も掃除しておいてくれるかしら。人が居ないと痛みが早くなるのよね。」
「いいの?あ、デジカメも借りたいんだけど。」
「お父さんのデジタル一眼レフ持っていったら?どうせ、使う暇なんて無いんだし。」
「じゃあ、遠慮なく借りようかな。」
桃華は、久しぶりにご機嫌になって学校へ向かった。
「おはよう。」
「はよっすぅー。」
席に着くと、涼子は居なかった。その代り、眠そうな準が机につっぷしている。
「どうしたの?」
「あー、何か夢見が悪くてさぁー。どんな夢か忘れたんだけど、ずっと何かに責められる夢で、あげくにサッカーの朝練に参加したから疲れちゃって。」
準がよっこらしょ…とおじさんのような掛け声で顔を上げた。酷い隈が出来ている。オーラを確認したら、一段と酷く暗いオーラに包まれていた。
クラスメートを確認するとこちらに注目している人がいない。こっそり、桃華は糸を紡いだ。
「んー…何やってるの?」
「私が住んでいた鬼封村のお呪い。すっきりするよ。」
準には見られてもいいかもと…指をくるくる、糸を紡ぐように動かした。
ドンドン黒い糸が採れる。桃華の心が闇に囚われ悪夢の一部が見えた。
――準は桃華とデートをしていた。桜の見える公園で、桃華の手作り弁当を食べている。桃華は、卵焼きを摘まんで準の口の中に入れる。
すると、いつの間にか涼子が現れ準は焦った。涼子は、ニヤニヤ笑いながら言った。
『もぉもぉがぁに…ぢがづぐなぁ~~~~~~』
桃華は、背筋が凍った。自分のせいで、友達や先輩にまで迷惑をかけている。
そして、糸をある程度まで摘み取った。
「おー、すげー。本当スッキリした。また何かあったらお呪いしてよ。」
気味が悪いと思われるのを覚悟していたが、準は何も言わず、肩をぐるぐる回して喜んでいた。良かった…。知らず知らず桃華は微笑んだ。
「おっはよー。」
涼子が元気良く教室に入って来た。自分の席に戻ると桃華に”1-3に行って来ちゃった”とニマニマ笑いながら、教科書を机の中にしまっていった。
「薫君、顔色悪かったけど大丈夫かなぁ?また休み時間に行ってみよう。」
桃華は涼子を見ると紫色の霞が暗く深く淀んでいる事に気が付いた。
準のようにタイミングが良くなかったので、こっそりと糸を紡いでおく。
徐々に追い詰められている…桃華は焦燥感にかられ、何らかのヒントになる鬼封村に行きたいと切に願った。
――今週の土日に絶対に鬼封村に行かなきゃ。
ほんのり、岩の欠片が同調するように暖かくなったような気がした。




