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第二章 戦い
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「…早く行くぞ。」
響は静かに告げる。
「はいはい、我が儘お姫様。」
「だっ!…ムカつく〜っ!」
背中からの言葉に少しだけ口角を上げながら答えた京に、響は荒げようとした声を押し殺してその背中を叩いた。
痛〜っ!この筋肉馬鹿がっ!
けれども叩いた手が痛かった響は心で叫ぶ。京はそのまま響を担いで外に出た。
「どうぞ。このサラサなら、何処で放して頂いてもうちに戻ってきますから。」
「ありがとう。」
そう店主から縄を受け取った京。行き先未定の為、町に返さなくても良い乗り物を調達したのである。
「げ…っ。」
「響は初めて見るか。この雪の大陸の乗り物サラサだ。」
振り向いてそれを確認した響に京が説明を始めた。サラサは六脚の毛むくじゃら爬虫類で、寒さに強く比較的穏やかな性格をしている。
「…また凄まじい容姿をしているな。」
「見た目より性能だ。雪深い土地も凍てつく土地も選ばずに行けるし、この毛に覆われていれば人間も寒さから守られる優れものだ。」
引き気味の響に対し、京は気に入っているようだった。
「乗るぞ。」
「ぅわっ!?」
肩に担がれたままで有無を言わさずサラサの背に乗せられる。ギョロリと縦割れの目が響を追い、口元からチロチロと出される黄色い三股の舌が顔に触れた。
「な、な、舐められた〜っ!」
「騒ぐな、歓迎されているんだ。」
「駄目だ!食べられる!味見をされたんだ!」
「味見?…。」
「っ!?」
肩から下ろされる際に同じ場所を京に舐められ、完全に硬直する響。
「…何て顔をしている。襲われたいのか?」
「…か…っ。」
「ん?」
「馬鹿変態ボケっ!お前絶対おかしいだろっ?つか、オレをからかって楽しんでやがるだろっ!」
向かい合わせに座らされている響は、真っ赤な顔で京を睨みつける。
「分かった?」
「な…っ。」
ニヤリと音が聞こえてきそうな笑みを見せられた。
「何、魔法で俺を攻撃する?」
「っ!…違っ…っ。」
言われて初めて気付く。揺らめく光が身体から溢れ出していた。
「興奮すると…、魔力が漏れる…らしい…。だけど…お前を攻撃する気は…ない…。」
絞るように口を開く響。殺意と取られてもおかしくない。二人を乗せたサラサは、既に町の外に出ているのだ。




