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第一章 出会い
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通りに出る前にフードを被る。響は自分の嫌いな女みたいな容姿を隠し、人込みに紛れるように歩いた。
「…何か、何見てもつまんねぇ。買い物も終わってたし、腹も減らないしなぁ。あ、今のうちに宿屋に戻って荷物を持って来て…。って、逃げるみたいで癪に障るし。あー、もうっ!何かムカつく!」
本当は京に助けて貰った礼を言いたいだけなのに、彼の言葉を聞いてこれ以上近付くのが躊躇われる。ここからは危ないと本能が警鐘を鳴らしていた。
「ん?」
通りの奥で騒ぎ立てる声が聞こえる。見ると食べ物屋の前でゴロツキに囲まれている誰か…、女の子のようだ。
「何してんだよ。」
後先考えていない自分。か弱い女の子を囲む下衆な男達に腹が立つ。
「何だぁ?魔導師風情が何の用だ。俺達は彼女に話してるんだよ。」
「嫌っ!」
無理矢理腕を引かれ、僅かに抵抗する女の子。
「嫌がってるだろっ!」
「うっせーんだよっ!」
止めに入る響だが、当たり前に力で敵わなわず男に突き飛ばされた。
「っ!」
「…また無茶をする。」
転ぶかと思われた身体は力強く支えられる。聞こえた低い声に、相手を確認しなくても京だと分かった。
「痛い目を見たくないなら即立ち去れ。」
奴が威圧する。190cmの大きな剣士の出現に、ゴロツキ共は直ぐさま尻尾を巻いて逃げて行った。
「あ、ありがとうございますっ。」
女の子に礼を言われても、響は何も返せない。何もしていないのだ。
「飲もう、響。」
京が声を掛けて来る。いつもの命令口調ではなく、誘うような甘い声だった。
既に日は傾き、酒場が営業を開始している。どれくらい一人で町を徘徊していたのか分からされる程。
何も言わず頷いた。
酒場に入り、適当に京が注文をする。目の前にビールが置かれ、軽く京がジョッキを当てた。
一息でジョッキ半分を飲み干す京を見て、響は普段飲まないビールを口にする。苦い。けれどもそのままジョッキを空けた。
「もしかして響、イケる口?お代わり!」
京がそんな響を上機嫌で眺めている。新しいジョッキが目の前に置かれ、再びその半分を飲んだ。
「…オレ…普段、ぶどう酒なんだよな。ビール、苦いな。オレは…甘いな。京に…ありがとうも言えなくて…、敵いっこないのに力を振るう奴等に喧嘩吹っ掛けて…ダメダメじゃん…。結局また助けられて…。」
頭がボウッとする。空腹で飲み慣れない酒を飲んだからだ。響はまた後悔する。
「良いじゃないか、それでも。独りで生きて行くのに疲れたら、誰かの肩を借りたって悪くはない。…初めて名前を呼んでくれたね。こちらこそ、ありがとう。」
抗えない眠さの中、響は京の声を聞いていた。




